表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/15

旅立ち


 集められた勇者たちに向かって王は一礼すると、玉座に腰掛けた。


 そして預言者エメリアが話し始める。


「貴方たち勇者をここへ呼んだのは他でもありません。各地では既に魔王軍によって村や小さな街が襲われ、そこに住んでいた者たちは囚われの身となってしまっています」


 魔王が城に攻めてきた時のあの魔族たちは全戦力では無かったらしい。

 七聖剣を持つ勇者たちが現れなければ、全戦力を割かなくともこの城は落とせていた……そういうことになる。

 効率よくこの国を滅ぼす為に頭を使ったようだ。


「それを僕等で救いにいくわけですね」

「そうだ王子よ。民を救ってこそ我がアストラルにおける真の勇者となろうぞ」

「光栄な話でござる。すぐ様向かうのが得策」

「強い魔族でもいるんかなぁ!?」


 乗り気な者とそうでない者に別れる勇者たち。


「それはさ、どれくらいの数やられてるのか分かる?王様」

「セーナ殿っ!王の御前であるぞ」

「ほっほっほ、良い。教えてやれ、エメリア」


 エメリアは空中を手で仰ぐ。

 すると、何もなかった空間にアストラルを中心とした地図が浮かび上がってきていた。


「これは……魔法ですか?」 

「ふーん、すごいねー」

「ご覧下さい。こちらの赤い印の村や街がすでに魔王軍に襲われています」

「三ケ所も……大変なことになってるようだ」


 そして事はそれだけでは無かった。

 その場所の軍隊を統率しているのが魔族であり、魔王の眷属である高位の魔族だった。


「眷属ってのはアタシたちが戦った魔族はただの魔族だったってことかい?」

「えぇ、そうなります。魔王の眷属である魔族はおそらくあなた方と同じレベル、もしくはそれ以上の力があるでしょう」

「まじかよ!!やべぇ、ウズウズしてきたぜ!!」


 魔王は五百年前よりも力を付けていた。

 それにより魔王が呼び出した魔物たちが凶暴化しただけでなく、普通の武器では歯が立たないほどになっていたのだ。


 つまり、眷属の魔族ともなれば簡単に行くはずもない。  


「それに、あなた方は神ではない。以前戦ったのは強力な力を持つ神々自身で、人間である今回の勇者はある意味力不足でしょう」

「なるほど……では僕らがこの三ケ所を個人で行くのでなく、二人もしくは三人で挑む必要があるということか」


 勇者とはいえ人間。

 一対一で必ずしも奴等がくる訳では無い。


「そうとなればチーム分けでござるな」

「賛成、アタシは誰とでもいいけど」

「俺は一人でも構わねぇぜ!!」 

「分かった、ここは僕が判断しよう」


 しかし、それを聞いてなかったのかレディアは一人でその場から去ろうとしていた。


「待つんだレディア。どこへ行くんだ?」

「……俺はお前らと仲良しごっこをしにきた訳じゃない。俺は一人で十分だ」

「ちょっとアンタ!何カッコつけてんだよ。それで襲われた人たち助ける前に自分が死んでも知らないよ!」


 すると、レディアは足を止め背を向けたまま答えた。


「助ける?そんなこと俺にはどうだっていい。奴等を殺せればどうなろうと知ったことじゃない」

「な、何だって!?」

「お主、それでも聖剣使いか!?」

「さぁな。選んだのは黒影剣こいつだ、俺はただ選ばれた……それだけだ」


 扉を蹴破り、無言のまま外へ出ていくレディア。

 その後を「楽しそーっ!」と言いながらついて行ってしまったのはリゼリットだった。


 呆気に取られる残された勇者たち。

 去っていく二人の姿を心配そうに見つめるのは聖女アニスだった。

 レディアとリゼリットはどこか普通の人とは違う感性を持っている気がして、危険な香りが漂っていることを感じていた。


「あの二人はまずいな……アニス、不服かもしれないけれど二人を頼めるかな?」

「え、えぇ……私で良ければ」

「ありがとう、二人を頼んだ」

「分かりました!」


 小走りでレディアとリゼリットの後を追うアニス。

 あの二人には行動を制御するような、そんな誰かを連れていかなければ何をしでかすか分かったものじゃない。


「さぁ、次は僕たちの番だ」






「ルッルルー、ルールラルララン」

「……」

「ランランラン、ルールー」

「あの……」


 何とか二人に追いつく事が出来たアニスだったが、レディアは無言のままでリゼリットは鼻歌を歌い続けていて、会話が出来る状態ではない。

 


 それにやっぱりこの人たちも心が、考えていることが全く聞こえてこない。


「ルールル、ルラランラン、ルラー」

「あの……」

「……」

「ふんふふーん」


 ダメだ……この世界観に入るタイミングも全くない。

 とほほと諦めモードのアニスだったが、急に前にいるレディアが足を止め、背中に頭をぶつけてしまった。

 気づけばリゼリットの歌も止まっていた。


「ご、ごめんなさい!」

「……」

「あの……大丈夫ですか?」

「……」


 相変わらず無言のまま歩き出すレディア。

 リゼリットも鼻歌をふんふん言いながらスキップしている。


 暫く歩くと、厩舎の前で止まった。

 すると、世話をしている男性に話しかけ始めた。


「少しいいか?」

「へい、らっしゃい!」

「馬が二頭欲しい。出来るだけ足のいい馬が」

「構わねぇけど、兄ちゃん金あるのか?結構高いんだぜ、馬ってのは」


 若さから大した金を持っていないと判断したのか、それともひやかしと思ったのかどちらにせよあまりいい顔はしていないようだ。


 するとレディアはそれなりに少し汚れた大きな袋を取り出すと、男性に手渡した。


「足りるか?」


 やれやれと言わんばかりに汚れた袋の中身を確認すると、急いで袋を閉じ、レディアを見つめた。


「おい、兄ちゃんこれ……」

「急いでるんだ。換金する前ですまないが」

「なんてモノを渡しやがるんだ、兄ちゃん」


 何を渡したのかよくは分からないが、男性が驚いているのを見るとかなりな大金でも入っていたのだろうか。


「……どうなんだ?」

「足りるとか足りねぇとかの次元じゃねぇよ!ちょっと待ってな……献上用の馬だ、付けれるだけなんでも付けてやるよ!」


 男性は厩舎で働く全員に声をかけ、あちこちに支持を飛ばしながら急にドタバタしだした。

 

 袋を手放し、地面に急に置いたせいか中身がコロコロと転がって露になる。


 「……っ!!」


 汚れた袋から転がって出てきたのは、紛れもなく人の頭だった。

 首から下の無い頭。


 余りにも無残な光景に目をそらすアニス。


 だが、その生首の顔には見覚えがあった。

 王国で賞金首に指定されている盗賊団【山猫】のリーダー……その男のモノだった。


(この人はずっとコレを持ち歩いていた……)


 いくら賞金首とはいえ、そう思うと吐き気を感じた。

 だがリゼリットは別段気にしている様子もない。

 確かにそこに生首があるというのに。


 吐き気で口を抑えていると、奥の方から男性が馬を二頭連れてきた。


 体格も毛並みも綺麗に整っていて素人目で見てもいい馬だ……と見とれてしまうように輝いていた。


「持ってきな、兄ちゃん」

「……あぁ、助かる」


 男性は急いで転がった生首を袋に入れ、隠すようにして、逃げるようにして厩舎に入っていった。


 レディアが先に馬に乗ると、もう一頭にリゼリットが乗った。


 あれ、二頭しか馬がいない。

 置いて行かれる?


「あ、待ってわっ!!」

「……舌を噛みちぎるぞ、黙っていろ」

「は……はい」


 急に後ろ襟を捕まれ、くるりと宙を舞ったかと思えばレディアの後ろに乗せられていた。

 ゆっくりと馬を走らせると、そのまま南の門から王都の外へ出ていく。


 馬に乗る経験が無かったアニスはレディアにピッタリと抱きつくようにして、目をつむっていた。


 するとどこからか心地の良い風がアニスの髪を靡かせる。

 ゆっくりと目を開くとそこは、まっさらに広がる平原、アストラル平原だった。

 あまり外に出たことのないアニスにとってこの光景は斬新なものだった。


 それを感じ取ったのかレディアは馬を一旦止めた。


「わぁ……綺麗」

「ここは昔……戦場だった」

「え?」


 この平原は戦争の跡地でもあった。

 それ故に背丈以上の木は無くなり、ただ何もない場所になっている。


「……何故付いてきた?」

「何故って……心配で」

「戦いが苦手なら王都に残っていればいいはずだ」

「そう……ですよね。でも、今は王都に残らなくて良かったと思っています」


 レディアが先に馬から降りて、アニスが降りるのを助ける。

 リゼリットが横笛を取り出し、おもむろに演奏し始めた。


「私が今までどれだけ閉鎖的空間にいたのか、どれだけ無知であったかを思い知らされました」

「……そうか」

「そして、こんな世界にも苦しんでいる人々がいるなら……私は一人で安全に包まれて生きていたくはありません」


 平原に吹く風を全身で受け止める、アニスの背中を見つめるレディア。


 リゼリットが演奏を終えたタイミングで再びアニスを馬に乗せ、走り出す。


行き先は南に赤く印が刻まれた小さな町、【サウスト】



「直に来るだろうナ、勇者御一行ガ。下等種の分際で我々に歯向かうとハ……愚かなものダ」

「こ、殺さないでくれぇ……」

「……連れてケ」

「やめろ、やめろおおおおぉ!!」


 薄暗い部屋でニヤリと笑みを浮かべる。

 蝋燭が照らす小さな明かりによってできた影は、悪魔そのものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ