第7話 ヴァルコアトル視点・溢れ出す感情
サブタイトルをドラゴン視点からヴァルコアトル視点へ。
―空を駆ける。
早く。
もっと早く。
あの少女の所へ。
神竜ヴァルコアトルは焦っていた。
感覚をだけを頼りに、全力で滑空している。
海を渡り、山を越え、砂漠を越える。
海を渡れば津波が起こり、山を越えれば緑に色付く木の葉が落ちて、砂漠を超えれば砂が滑り巻き上がる。
…国を跨げば、人間は畏怖し混乱する。
優しいはずのヴァルコアトルはそれらに構うことなく突き進む。
――全ては、少女に会うために。
…忘れられない。
優しく包み込まれるような暖かい力を。
もう一度、触れたい。
もう一度、感じたい。
出来るのならずっと、あの神力に包まれていたい。
ヴァルコアトルは飛び続けた。
飛んで、飛び続けて。
広い森に差し掛かった時。
――もうすぐ近くにいる!
そう感じて、心の底から喜んだ。
少女に会える喜びで胸が震えた。
そして、会えると思った瞬間。
―――少女の力が、気配が、消えた。
頭が真っ白になった。
「ゥグルルオオォオオン!!!」
『どこにいる!何故消えた!!』
混乱のあまりヴァルコアトルは叫んだ。
なんで消えた?
どうして消えた?
どこにいる?
なんで会えない?
会いたい!!!
溢れんばかりに感情が押し寄せた。
生まれてから一度も感じたことのない感情だった。
4000年という永い時を過ごしてきたヴァルコアトルは、ずっと孤独で寂しい日々を送って来た。
"孤独"や"寂しい"なんて言葉で表せないくらいに。
…それが、つい先程まで無くなっていた。
少女の力に触れて、綺麗さっぱり消えたのだ。
なのに……少女は居なくなってしまった。
探しても探しても見つからない。
全ての神経を研ぎ澄ませ、少女を探した。
なのに。
―会えなかった。
その事実に胸が締め付けられる。
ヴァルコアトルは今、夕闇の中を飛んでいる。
住処に帰って来た後もその感情が収まることは無く、それは悪戯に時間を潰した。
―いつものように覗き見て仕舞えば良い。
そう思った。
だが、少女を覗き見ることは出来ない。
いや、したくない。
覗けば、場所が分かって会いに行くことが出来る。
……けれど、少女に嫌われるのが怖い。
ヴァルコアトルは、その後も少女を覗き見ることは出来なかった。
幾許かの時が過ぎても、ヴァルコアトルは少女のことを考え続けていた。
―――どうしても会いたい―――
そう思った時だった。
遠い土地に天から光が差し込み、輝いた。
ほんの数秒の出来事だった。
ヴァルコアトルが目を凝らさなければならないほどの、ほんの小さな光だった。
…ヴァルコアトルは歓喜に打ち震える胸を押さえつけ、直ぐに飛び立った。
全力で、さっきよりも早く。
会いたい。触れたい。あの神力を感じたい。
――――会いたい!!!
……そして彼らは出会う。
ヴァルコアトル視点の執筆は何故か詰まらずノンストップで約20分で終わります。万歳!