第6話 すれ違った1人と1匹
心情描写と背景描写の切り替えが多々あります。
今回は少し長目のお話になりました。
……おかしい。
……何かおかしい。
時刻は14時を少し過ぎた。
周りには、延々と続く木々に青々と生い茂る植物。
小さく可憐に咲く花といろんな模様のキノコ。
つまりまだ森の中。
…やっぱりおかしい!
最後に時間を確認したのが午前10時過ぎ。
その後、祠を作って少しだけのんびりしたけれど、その時間は体感で15分くらい。
午前10時30分前には石碑から歩き始めたはず…!
なのに一向に街まで辿り着かない。
もう3時間も歩いているのに…。
10分で着くと思ってたからパンプスのままなのだが…。
もうそろそろ足が痛………くない。あれ?
全然痛くない。
というか、前よりも足取りが軽いし全身に力が漲ってるような気がする。
「はぁ……考えるだけ無駄、か。」
考えるのをやめて歩き出す。
歩く。歩く。歩……………?
「っ!」
何かが、来る。
とんでもない威圧感が真正面から向かって来る。
感覚でわかる。
鳥肌がすごい。
どうすればいい。
考えろ。
落ち着け。
大きめの木に隠れてしゃがみ込み、深呼吸をして気配を断つように意識しながら浅く息を吐く。
…やり過ごせるならその方が良いだろう。
見つかったらその時はその時だ。
勿論、全力で逃げる一択だけど。
身体中の細胞が危険信号を出している。
…この向かってくるプレッシャーは半端じゃない。
(私は木…私は木…私は木…)
途端、耳を突き刺すような叫び声が響いた。
「ゥグルルオォオオン!!!!!」
その声は森中に響き渡り、木の葉を揺らし、突風として駆け抜ける。
…来た。
どこに来た?
姿が見えない。
……上だ。
揺れる木の葉の隙間から見えたソレにヒュッと息を飲む。
漆黒を纏う巨体に鋭く尖った爪、そして夕暮れの空を落としたような深いオレンジの瞳は何かを探すように忙しなく動き回る。
ドラゴンだ。
あれがドラゴン。
格好良い。
でも怖い。
見てみたいとは思っていたけれど。
とても怖い。
冷や汗が止まらない。
(私は木…私は木…私は木…私は木…)
―――――――――――――――――――――
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
私はドラゴンの気配が完全に消えるまで待った。
空は既に太陽を隠し、大きな月が輝いている。
星が幾多と煌めき、地上に光を降り注いでいる。
……危険は去った。
お腹が空いた。それに少しだけ眠い。
時間を確認すると、もう午後19時を回っていた。
暗いけれど、街の方向に歩いて寝る場所を探す。
15分ほど歩いたその時…遠くに光が見えた。
(人がいるかもしれない!)
全力で光に向かって走った。
そして、着いたその場所を見て唖然とした。
木々が避けるようにぽっかりと大きく空いたその場所は、一面の花畑だった。
美しく咲き誇る花々は、月の光を吸っているのか淡く光輝いていて凄く神秘的だった。
(花畑の真ん中で寝たら良い夢を見れそう。)
そう思い、真ん中を目指し歩いていた時。
ふ、と足元を見て目を見開いた。
…花が、私の歩く道を作ってくれていたのだ。
地球だったら精神科を勧められるような非現実的な状況に驚いた。
移動する花など初めて見た。
お姫様のようにドレスを着ていたらこの空間にはピッタリだったかもしれない。
…私は花々にお礼を言いながら歩いた。
真ん中と思われる場所は、大きく円を描くように空間ができている。
「ありがとう。」
流石、異世界。不思議に満ち溢れている。
さて、と。
光に思わず走って来ちゃったけど、そういえば寝る場所を探してたのを忘れてた。
ここで寝たら良い夢は見らそうだと思ったけれど、ここで寝てもいいのかな?
…でも、寝るとしてもどうやって寝よう。
地面に寝るのはどう考えても痛いだろうから流石に遠慮したい。
魔法でベッド作れないかな?
(寝心地良いお姫様専用みたいな可愛い)
「ふかふかのベッドよ、現れろ!」
そう言い切った瞬間、光を纏いながら降臨するかの如くベッドが上空から降りて来た。
出来た!
にしても神々しく降りて来たな。
神様降臨みたいな演出なのに、ベッドが降臨したからびっくりしたわ。
…もっと普通に現れてくれてもいいよ?
まぁとりあえず寝る場所は確保したから、あとは空腹を満たそう。
お昼ご飯を食べていないせいなのか、何故かご飯が食べたくて仕方がない。
「椅子とテーブル!」
よし!今度は普通に現れた!
結構お洒落なデザイン。すごい。
何を食べよう。
和食にするか、洋食にするか、中華にするか。
……あれにしよう。
うん。決まり!!!
(某有名店の)
「美味しい豚骨ラーメン!」
おお!お箸付きで現れた!
…ふふふ。
ああ、堪らない匂いがする〜!
これは確実に太る。
でもまだ19時30分過ぎだから、ね。
深夜じゃないから……大丈夫なはず。
ちゅるんっとしているのに、しっかりとコシのある手打ちみたいな細麺。
旨味を凝縮した濃厚なスープ!
その上に広がる背脂!
とろっとろの煮卵にメンマ、のりに高菜まで乗っていてこれ以上ないくらいの美味しさ!
幸せ〜!!!
ああ、お腹も満たせたし寝るか〜。
食べたばっかりだけど、睡眠欲が暴走してる。
豚になるとか言わないでね。
作った机と椅子、そしてラーメンの器と箸を無限収納になった愛用の鞄に仕舞いベッドに飛び込んだ。
今日は流石に疲れたよ。
異世界一日目で散々な目に遭った気がする。
…主に精神的に。
身体は疲れないらしいからね。
………アレ?
そういえば神様、なんて言ってたっけ?
時間ばっかり気にしていたけど。
う〜〜〜ん。
…………ハッ!!?!
『お嬢さんなら10分でミレスタの街に………。』
「……寝よ。」
作者は、味噌ラーメンが好みです。