第5話 ドラゴン視点・不思議な少女
ドラゴンさんの登場!
少し短めです。
とある山の頂上付近。
そこに彼はいた。
いつものように人間達の様子を覗いて叫んだ。
「グルルオオォォォオオン!!」
『なんだあの旨そうな肉料理!』
彼はこの生活に飽き、暇を持て余していた。
4000年以上という永い時を生きてきたが、娯楽も何もない生活だった。
…唯一の楽しみは、人間達の生活を覗き見ること。
ランダムで人間を選んでは見て、叫んで、飽きたら寝てまた起きるという生活を過ごしていた。
彼は思った。
何か、面白いこと起こらないだろうか、と。
そう考え始めたのは約500年前からだった。
そして、いつも通り人間を観察しては叫ぶ、を繰り返していたその時だった。
突然ピリピリと肌に突き刺さる感覚が襲ってきた。
彼は人間観察をやめてその原因を探った。
……そして彼は気付いた。気付いてしまった。
これは生まれる前に感じた事のある感覚だ、と。
そしてそれは、彼をこの世界の支柱になる事を望んだ尊きお方の気配だ、と。
衝撃と喜びと混乱。
久しく生まれなかった感情に思わず叫んだ。
「ゥグルルオオオオン!!」
『っどこだ!どこから!!』
彼は探した。世界を。その全てを。
そして見つけた。
…………少女だった。
石の横に座り、頭を抱えてウンウン唸っていた。
そしていきなり立ち上がり、こちらを見た。
冷や汗が出た。
もしや覗いているのがバレたのではないか、と。
だが、何も無かったかのように少女は石の前に立ち両手を合わせた。
安堵した。バレていなかった。良かった、と。
その瞬間、また先ほどと同じピリピリとした感覚が全身を刺した。
畏怖した。
恐怖に震えが止まらない。
バレているぞ、と。
そう暗に告げられた気がした。
そして少女は手を空中に向け、石を囲っていた。
…何時の間にか息を殺してそれを見ていた。
それは、少女が造ったソレは。………神域だ。
畏怖し、安堵し、また畏怖した。
その時、包み込まれるように柔らかな暖かい神力を全身で感じとった。
それは、少女の神力だった。
許されている、そんな気がした。
……そして彼は飛び立った。
向かうのは言わずもがな、少女の所だった。
その日天を突き刺すように聳える霊峰から、轟くような叫び声が聞いた人々は何かが起こる予感に恐怖し、慄いた。
彼はドラゴン。
この世界を支える―支柱―という存在である。
そして―神獣―と呼ばれ、生きとし生けるもの全てから畏怖され、敬われる存在である。
彼の名は、―神竜ヴァルコアトル―
…彼が少女に出会うのは、もうすぐである。
ドラゴンさんの名前の由来は、アステカ神話に登場する平和の象徴とも言われた優しいドラゴン『ケツァルコアトル』です。
優しいドラゴンさんの心情。