第25話 屋台と尾行
更新遅くなりました!!!
*あらすじ*
通勤途中に異世界へ繋がる次元の穴に落ちた美希は、2人の神様から魔法を授かり、神竜ヴァルコアトルと出会った。
美希の希望で王都にやってきた2人(?)は今、何故か後をつけられていた!
第三騎士団・近衛部隊に所属しているマルコフは今、コソコソと物陰に隠れて息を殺していた。
……そう。
この男こそ、昼間に結界内に入った美希とヴァルの姿を確認した男であり、今、2人を尾行している男なのである。
話は数刻前に遡る。
神竜調査を終えたマルコフは、騎士団の砦内広間で解散命令が出るのを今か今かと待っていた。
そして一刻も経たないうちに広場に走ってくる音が聞こえ、マルコフは心を躍らせた。
…そこから先は地獄だった。
『氷の副団長』と呼ばれているレイモンド・オーウェンが姿を現したのだ。
そして柔らかな笑みを浮かべて解散命令を告げた。
この時点で団員は震え、怯えていた。
その理由は何故レイモンド・オーウェンが『氷の副団長』と呼ばれているのかに関係している。
レイモンド・オーウェンという男は常に無表情で、誰に対しても冷静沈着であり、魔獣や盗賊を倒す時でさえ微塵も表情が変わらない。
そしてその凍てつくような眼光で睨まれた日には夜も眠れず、眠れても悪夢に魘される、と言われているのである。
真顔以外の顔を見た者は殆どいない。
……そんな副団長が笑った。
いや今、笑っている。
美しい。けれども恐怖を感じさせる笑みだった。
そして言った。
「皆さんに守って頂きたい約束があります。」と。
そこからは地獄、いや天国だったかもしれない。
……指導?
そんな生易しいものではなかった。
……拷問。
この表現がしっくりくる。
お約束が守れない人にはちゃんと指導します、と微笑まれた以降の記憶が曖昧になる程だった。
皆より一足先に天国から抜け出すことができたマルコフは、覚束ない足取りで帰路を辿っていた。
焦点の定まらない視界で、転ばないように必死に足を動かして家へと急いだ。
(……早く寝たい。ベッドに飛び込みたい。)
そう思いながら人波を避けていた時。
何故か女性の声が耳に入ってきた。
すとん、と心に落ちてくる様な不思議な声が気になってしまい、俯いていた顔を上げてその方向に振り返った。
…そこには昼間に見かけた旅人姿の人間がいた。
団長から言われた言葉を思い出し、ドキリ、と胸が鳴る。
『お前が見た旅人は神竜だったのかもしれない。』
もし、あの旅人達が昼間と同じ人達ならば。
そんな想像をしてしまい背中に冷や汗が流れた。
(……まさか!いやでも。……確認しなければ。)
マルコフはそれまで感じていた疲労を吹き飛ばしてすぐさま尾行を開始した。
「この串焼きすごい美味しい!…ほら、お兄ちゃんも一口食べてみてよ〜っ!」
「はいはい、わかったから。…うん、美味しいな。」
「さっき買ったジュースと合うね!」
「確かに。でもリコのジュースも合うけど、お酒と一緒に飲みたくなる味だな。」
……マルコフが旅人の尾行を開始してから、既に一刻が過ぎていた。
この2人は屋台巡りをしているらしく、先程から進展が全く無い。
尾行をしつつ団長のアルバートに緊急の念話を飛ばしたマルコフは、調査後の疲労と空腹感に負けてしまい屋台で買い食いをしながら尾行を続けた。
それから、また一刻の時間が過ぎた。
「(………まだいる?)」
「(ああ、まだついてきているな。)」
「(どうしよう。もう全部の屋台見ちゃったよ?)」
「(そろそろいいんじゃないか?気配遮断を使ってあの人混みに紛れよう。)」
「(わかった。……でもお灸は据えなくて良い?)」
「(物騒だな。でも良い案だと思うよ。あの男に位置探知の魔法をかけてくる。)」
「(了解、気をつけてね。)」
小声でヒソヒソと話しながらゆっくりと歩く2人は、マルコフに位置探知魔法をかけるため距離を詰めた。