第23話 報告と終わり
台詞多めです。
今回で一旦の第3章区切りになります。
【第三騎士団・砦内】
作戦室内には各隊長達が集まり会議が行われていた。
「全部を馬鹿正直に報告する必要があるかぁ?」
「そっすよ!まず信じてもらえないっすよ!」
隊長の2人が否定的な意見を出したその時。
――ドンッ!と大きな音が響いた。
その音は第三騎士団副団長レイモンド・オーウェンが机を思いっきり叩いた音であった。
……ちなみに机は大きく抉れて穴が空いている。
「バートン、ニコラス、口を慎んでください。正確な報告をしなくて何が第三騎士団ですか!…他の騎士団が不正で問題になっているというのに……!」
「ヒェッ。すいませんっした!……でも、それならレイモンド副団長は上にどう報告するんすか……?」
「私ならばそのまま報告をしますよ?……神竜は飛び去ったので魔獣の生態系は少しづつ元に戻ると思われ、爆発地は後日調査に向かう事にします、というようにしっかりと正確に。」
レイモンドはニヒルな笑みを浮かべながら淡々と言葉を並べて言い放った。
……余程不正について良い印象が無いのだろう。
「…なら、女性については?」
「…女性は捜索しましたが見つかりませんでした、と報告しますね。」
「副団長さんヨォ?旅人はなんて報告するつもりなんだぁ?……旅人が神竜だったかもしれないんだぞ?」
「神竜云々は我々の憶測に過ぎませんから、見たまま起きたまま報告すればいいでしょう?………最奥地に旅人と思われる二人組が居ました、と。」
「確かに……!さすがレイモンド副団長っす!頭良すぎっすよ!!それなら本当のことっすもんね!」
淡々とした物言いのレイモンドに、皆は冷や汗をかきながらも圧倒されて黙っていた。
………隠密・近衛部隊長と団長以外は、だが。
「確かにその通りだけどよ。なんかこうモヤモヤっつうか、謎が多すぎるっつうか?……変じゃねぇか?」
「そうだな。この調査は謎が多い気がする。結界についても。……我々は中に入れなかったし建造物も調べることが出来なかったからな。」
「…間違いなくその結界は神域でしょうね。ですので神域を創るために神竜が東の森に現れた可能性が有る、と報告すれば良いのでは?………もちろん神域は調査出来ませんでしたが、と。」
「それが一番良い気がするな。……分かった。レイモンドの言う通りに起きたことをそのまま全て報告する事にする。」
「ええ、それが懸命な判断でしょう。……変な憶測を入れたりはせずにそのまま報告すれば大丈夫です。」
「疲れているなか集まってくれて感謝する。これから上に報告をしてくるから全員解散してくれ!ゆっくり寝るなり食べるなりして体を休めるように!」
「私は広間に待機している団員に声を掛けますね。……旅人については口外しないよう釘を刺して置きますから安心してくださいね、団長。」
「まあ……程々で宜しく頼む。では、解散!!!」
調査に参加した団員全員が疲労を顔に浮かべながら砦内に待機して次の指示を待っていた。
そして暫くした頃、ようやく解散命令が出た。
……ただこの後、喜んだ団員たちは『氷の副団長』と呼ばれる男によって更なる疲労と心労が激激激増する事になるのだが、それはまた別のお話。
(*別のお話はありません*)
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【ファルティア王国・王城】
王城の一室。
ここでは日が落ちて辺りが暗くなった今でも国の重鎮達による会議が粛々と繰り広げられていた。
…会議、と言っても誰も一言も発することは無く静まり返っていて重く、暗い空気だった。
その空気を打ち消すようにドアのノックが響いた。
ノックとともに入ってきたのは、王国騎士団の中でも最強の第三騎士団の団長。
レイナード・フォン・アルバート。
今回の神竜調査に自ら名乗りを上げた男であった。
その表情はどこか暗く、喜ばしい報告ではないことを語っているかに見えたため、一同は沈んだ空気を更に重く沈ませた。
だが、アルバートの報告はこれ以上ないくらいの吉報であった。
…アルバートの報告を聞いた国の重鎮達は喜びの声を上げた。
中には目頭を押さえて震える老人や、報告を聞い瞬間叫んで床に倒れた男性などもいたが、皆喜びで溢れている様子だった。
「そうか!よくやった!これで民も安心するだろう!本当に良くやったな!なあ宰相よ!」
「本当ですな国王様!!神竜が現れてからまだ3日も経っていませんが、ここが私めの墓場になるのでは?と思うくらいに思い詰めておりました!……ようやく安心して眠れますぞ!」
「そんな事を思っておったのか……!第三騎士団には褒美を与えることとする!皆で話し合い何が良いか決めてくれ!なんでも良いからな!遠慮は無しだからな?!」
「お褒めのお言葉、褒美共に至極光栄で御座います。」
「よいよい!無事に帰ってきただけで無く良い報告を持ってきてくれただけで構わぬ!」
「早く調査が終了して良かったですな!ぐすっ。少なくとも3日はかかると思っておりました故に喜びで踊り回りたいくらい舞い上がっておりますぞ!」
「民への御触れは明朝にでも出そう。本当に助かった!ゆっくりと体を労ってくれ!」
「有難う御座います!それでは失礼致します。」
王城の一室はお祭り騒ぎだった。
しかしその部屋から出てきた1人の男の表情は暗く、どこか思案しているような不思議な雰囲気だった。
アルバートはもうすぐ知る。
日が落ち月が輝いている今この時に、例の旅人達がファルティア王国へと入ったことを。
………アルバートは未だ知らない。
神竜調査がまだ密かに続いていたことを。
また、今後王国内で起こるであろう事件に第三騎士団が巻き込まれることを。
……そしてその事件には、例の旅人達が深く関係していることを。
――未だ知る由も無い。
次回からファルティア王国に入ります!
やっとです!
本当は5話目くらいに王都入りの予定でしたが、色々詰め込んだらいつの間にか23話でした......。