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第18話 ヴァルコアトル視点・敬愛

ヴァルコアトルの日記のような話です。




神竜ヴァルコアトルは悶えていた。



……女神はなんて愛らしいんだ、と。




すうすうと耳を擽る寝息も。


体に当たる柔らかな肌も。


四肢に絡まる手も。腕も。足も。


女神の体温に至るまで全てが愛おしく感じた。



……ただ、たまに聞こえてくる寝言には参った。


必死に抑え付けている本能を(つつ)かれて遊ばれている気分だった。



女神の半身が体に覆いかぶさってきた時はもうダメかと思った。


理性を放り投げそうになったが、寸前で持ち直した。


…生まれてから一度も、自分以外の体温など感じることがなかった。


だから女神の一挙手一投足が全て愛らしかった。


――思わず額に口付けたのは内緒である。




女神は、起きていても愛らしかった。


 叫び声に驚いて思わず女神の口を塞いでしまったが、間違いだった。



手に触れる唇の感触。


真っ赤になった顔。


涙目でこちらを見る表情。



その全てが扇情的だった。



ミキという名前も、声も愛らしかった。


…弱々しくも、名前を呼ばれた時にはもうどうしてやろうかと思ったくらいだ。


何故キスをしたのかと問われたので、心のままに答えたら気を失ってしまった。


初心(ウブ)なのだろう。


それすらも愛おしい。



――寝ている女神の頬にキスをしたのは内緒だ。




気絶から戻ってきた女神がまた叫んだ時は驚いた。


最初の叫び声の時は欲求を抑えるのに必死で気付かなかったが、神力が声と混ざって響いていた。


……鳥肌が立った。


今後は人間を覗いて叫ぶのはやめようと思った。



それから、女神について色々と聞いた。


()()()()()()()だということがわかった。


可愛らしい外見だが、思いのほか肝が据わっていてタフな性格だった。


…そういえば、神竜だと明かした時にもあまり驚いていなかったように思えた。



名前呼びと、敬語禁止を言い渡された。


それと、仲良くなりたいと言ってくれた。


…ずっと孤独だったせいで、どう仲良くすればいいのかわからない。




 魔法の練習をした時には、女神の想像力に驚いた。

教えた事をどんどん吸収していった。


誰かと会話するのが楽しい事だとは知らなかった。


気さくで、優しい女神と仲良くなった気がする。



……先生と呼ばれたのは嬉しかった。




暫く経った後、女神が火魔法を使いたいと言った。


飛んでいる最中に、近くに開けた場所があったのを思い出したので案内することにした。


………だが、その途中で魔素の異常な流れを感じた。


魔獣が大量に発生しそうなほど淀んだ場所だった。


優しい女神と仲良くなれて喜んでいた心を引き締めた。



神竜の役目は、世界の歪みを正す事である。


…この歪んだ場所を放置することは出来なかった。


なので、女神に火魔法を使っていいと言った。


本来は自分の役目なのだが、女神の本気が見たかったのもある。


色々な魔法を使っても、疲れる様子もなく楽しんで魔法を使っていた。


だから本気が見てみたかった。







……女神は凄かった。


轟音、熱風、地響き。


目にも留まらぬ速さで歪みが消えた。


………一瞬だった。


瞬きをすれば見逃してしまうほどの速さだった。



――優しい女神に畏怖した。


もはや火魔法なんて次元ではなかった。




荒れ狂った鼓動をそのままに草原へと帰った。


―――女神と過ごしたのはたった一日。


その一日だけで、心臓を鷲掴みにされた様だった。


…いや、覗いた時既に掴まれていたかもしれない。



 人型になった影響なのか猛烈な疲労を感じて、女神が用意してくれたベッドに入った。



怒られた。


…何故だ。


恥ずかしいから一緒は嫌だと言われた。


諦めろと言われた。



だが、譲らなかった。譲れなかった。



……もう1人で寝るのは嫌だ。



今の、この幸せを手放すなんて出来なかった。


…泣き落としならぬ、悲しい顔をして認めさせた。



―からかいがいのある女神。


―可愛い女神だ。


―強い女神。


―愛らしい女神。



一日で、今までずっと感じていた孤独も、退屈も綺麗さっぱり消えてしまった。


きっとこれまでの日々は、女神に会うための長い長い前哨戦のようなものだったのだろう。



女神に一目惚れ。

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