第13話 魔法の練習
修正しました。(2019.8.5)
「…ドンッ!!!」
東の森に激しい音が鳴り響いた。
そして森の一部は一瞬にして更地になっていた。
鬱蒼と生えていた植物も木も、日の光を遮っていた木の葉も跡形もなく消え飛び、地面はまるでクレーターかのように大きく抉れていた。
………美希のせいである。
時刻は少し前に遡る。
美希は二度の気絶と"イケメン抱き枕"からくる羞恥を無事(?)に乗り越え冷静さを取り戻した。
そしてその後、何故か優雅にティーパーティーへと洒落込んだのである。
「へ〜!じゃあヴァルが"遠見"をすると、なんでも分かっちゃうの?」
「何でもはわからないよ。でも、行動や表情なんかは分かるかな。……勝手にミキを覗いて申し訳ない。」
「いや、いいよ全然!変な事はしてないからね。」
「え、いいの?俺嫌われちゃうかなと思ってた…。」
「嫌わないけど、今後は覗かないって約束してね?」
呼び方は愛称になり、敬語は使われていなかった。
…始めましてでキスの雨を降らせてきた男に対して、美希は微塵も警戒していなかった。
お爺ちゃん神様達のような優しい雰囲気のイケメンに対して警戒するなんて笑止。といった心境である。
…美希を心の中で女神と呼び続けているヴァルは、名前呼びと敬語禁止をお願いされた為従っている。
…以外と従順な男なのである。
草原の真ん中に机と椅子を並べ、紅茶を飲みながら様々な話をしてお互いに親睦を深めていた。
会話は自己紹介から始まり、身の上話から世界情勢まで多岐に渡った。
…その話の中で美希が一番興味を示したのは魔法である。
美希は気付いていないが、机や椅子などを出現させる魔法はこの世界に存在しない。
錬金魔法などを習得すれば出来るのだが、物を作り出すには元となる素材を用意しなければいけない。
…つまり今まで美希が魔法だと思っていたものは全て、『神力』によって起きた現象なのである。
「魔法は自分の持つ魔力量に依存する、とは?」
「空気中に存在する魔素に、個人が持つ魔力を干渉させることで起きる現象が魔法。魔力量はその魔素に干渉する力ってことだね。」
「個人の持つ魔力が多い場合はどうなの?」
「多ければ多いほどより大きな魔法を使うことが出来るんだけど、それには普通の魔法よりも精密な魔力操作が必要になるから結構危険なんだ。」
「魔力操作っていうのは?」
「端的に言うと"想像力"だね。魔法は想像力にも依存するんだよ。だから大きい魔法を使う場合には、魔素をどう扱うのか具体的に細かく想像しないと暴発してしまうんだよ。」
「じゃあ、あれは……ふむ…なるほど………。」
「それはこれを…こうして……そう………。」
……長い間繰り返される質疑応答に終止符が打たれたのは、おやつの時間を少し過ぎた頃だった。
「先生!魔法の練習がしたいです!」
いつの間にか先生になったヴァルにそう提案をした生徒・美希は、ティーパーティーを終了させた。
そして椅子とテーブルを収納鞄に仕舞い込み、草原から少し離れた場所へと二人で移動した。
そして魔法の練習が始まった。
「最初は自分の魔力を感じることが重要になってくるよ。だから、はい。……手を繋ごうか。」
「…手を、繋ぐ……?!」
「そうだよ?俺の魔力をミキに流すから、ちゃんと魔力を感じる取るのが目標。…………まあでも、肌と肌が触れ合うのなら別に手以外でも良いけど?」
「て、手でお願いします。」
向かい合うようにして立ち、両手を繋ぐと頭上からくつくつと笑う音が聞こえた。
「それじゃあ、魔力流すよ。」
(………すごい。手を繋いだところから温かい何かがきてぐるぐると身体を巡ってる。…これが魔力?)
「上手く魔力を感じ取れたみたいだね。じゃあ簡単な魔法を使ってみようか。」
「簡単な魔法?」
「そう。水魔法だけど、これは生活魔法でもあるから結構簡単にできると思うよ。『ウォーター』」
ヴァルが『ウォーター』と唱えると目の前に小さな水球が現れた。
「………凄い!凄いよヴァル!!!」
「ふふっ。ちなみにこんなことも出来るよ。」
ヴァルは少し笑いながらそう言うと、人差し指を水球に向けくるくると回すように動かした。
すると、丸だったその形は瞬く間に鳥の姿に変化し2人の周りを飛び始めた。
「………綺麗。」
「こんな風に、個人の想像力によって発現する魔法は変わる。今回は詠唱したけれど、ちゃんと理想の形が想像できれば無詠唱でも魔法は発現するよ。」
「同じ魔法を唱えても、使う人によって形が変わるってこと?」
「そう。どんな風になって欲しいのかをちゃんと思い浮かべることが出来ればなんでも出来る。それじゃあ、やってみようか。」
(どうしよう。水……水…あれにしよう!)
「う、『ウォーター』!!」
美希は手を前に出して、辿々しく詠唱した。
すると、手から水が流れ出してその形を変える。
全長10mほどのそれは、蛇のように長い胴体に鱗、鋭い爪と長い髭を持ち、木の間を縫うように飛びはじめた。
「ミキ………あれはなんだ?」
「えと、私の好きな漫画に………元いた世界の物語に出てきた"水龍"っていう伝説の生物。どんな水にしようかなって考えたらそれしか思い浮かばなくって。」
「水龍か……。初めて見る生物の形だが、鱗の一枚一枚をちゃんと想像したのが分かる。凄く精密で綺麗だ。水魔法は上手くいったから、次の魔法を練習しよっか。」
「はーい!ヴァル先生!」
長くなってしまったので、途中で区切りました。