表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/26

第12話 王国への被害

サブタイトルを変更しました。(2019.8.4)



「それともう一つ。東の森に生息しているはずの小動物や鳥類の姿が全く見当たらず、森が静まり返っているとの事です。」


「これも神竜関係とみて良いだろうな。大方、神竜に見つからないよう隠れる、もしくは逃げたのだろう。」



……原因は美希の叫び声である。


 実は"イケメン抱き枕"で混乱していた美希の()()の叫び声には神力が混在してしまっていた。

また声量と相まって、神力を含んだ声が東の森の広範囲に響き渡ってしまったのである。


 叫び声+神力+広範囲=YABAI 。


…その結果、少しでも叫び声を聞いてしまった野生動物や魔獣が混乱してパニックを起こし逃走した。



………これが真実である。




「それともう一つ報告があります。

今朝、森の最奥地近くで活動していた冒険者が達が走って逃げている所をうちの団員が発見し、話を聞きましたところ…その…。」


「…レイモンド?どうした。」


「……。『討伐対象の魔獣の様子を観察していたら、その魔獣が雄叫びをあげて走り出した。

また、大量の魔獣の雄叫びが森の最奥地から轟くように聞こえ、その走る音は地鳴りのように森に響き渡ったため討伐を中止し逃げてきた。』…とのことです。それに…」


「……それに?」


「『雄叫びが聞こえる直前、最奥地から女性の悲鳴が聞こえてきた』…と。」


「女性!?……間違いないのか!?」


「…間違いありません。冒険者に同様の質問をした所『絶対に女性の悲鳴だった。神に誓っても良い。』と、言われたそうです。」


「東の森は魔獣の数も多く危険な森なのにっ…!」


「しかも最奥地から聞こえたとなると、こりゃあ厄介だぞ団長さんよぉ。出発を明日に早めた方がいいんじゃねぇか?準備はもう殆ど終わってるんだしよぉ。」


「……そうだな。バートンの言う通り早めた方がいいかもしれない。」


"バートン"

 近衛部隊長を20年以上務めているベテラン。

その体格は熊のように大きく、見た者を縮み上がらせるほどの迫力と威圧感がある。

語尾を伸ばす癖があるが、とても気前の良い男。



「なーんで最奥地に女性がいるのかわかんないっすけど、ファルティア王国を目指して帝国から逃げてきたって可能性もあるっすよね?」


「…あのゴミでクソな帝国の政策は何考えてるか分かんねぇくらい酷いからなぁ。税もクソ高ぇくせに最近民の移住を禁止したらしいぞ。」


「俺、ファルティア国民でよかったっす。その女性が無事かは分かんないっすけど…可愛い女の子だったら良いっすね!」


「いや!ナイスバディで綺麗で美人な姉ちゃんの方が良いに決まってんだろォ?ニコラスよ!!!」



「あの馬鹿二人は放っておきましょう。………それでどうするんですか?アルバート団長。」


「今日中に準備を終わらせてくれ。神竜の調査、そして最奥地に居るかもしれない女性の保護も目的に加えるて出発は明日に変更する。」


「「「了解!!」」」


「ではよろしく頼んだ!俺は上に変更を伝えてくる。じゃあ解散!!!!」





――東の森――


 木々や植物が鬱蒼と茂り、木の葉が屋根のように陽の光を遮るため日中でも薄暗くジメジメとしている。

そして奥に行けば行くほど濃い魔素が漂っている。


また魔獣の数が他の森よりも圧倒的に多く、奥に行くにつれ強い魔獣が跋扈していて非常に危険である。


その為、東の森全域をファルティア王国・王城管轄地に定めていて一般市民が森の中に入るには国の許可が必要になる。



 だが、例外も存在する。

Bランク以上になった冒険者は、登録時に渡される冒険者証明カードの裏に森への進入許可印が押される。


東の森で討伐される魔獣の素材や採取される薬草は、希少でとても人気があり取引売買価格が非常に高い。


危険度も加味された報酬設定のため、依頼を受けるだけである程度儲けることができる。


……危険が多いが稼ぎが良いので、Bランク以上になることを目標としている冒険者が多く存在している。



 また、他国に繋がる道が東の森に沿っている。

そのため時間に関係なく商人や旅人が通っていて、露天商やちょっとした小銭稼ぎに物を売る人など様々な人々が行き来している。


…森から出てくる魔獣や、商人の荷馬車を狙った盗賊の対策として王国騎士団が24時間体制で警備に徹している道でもある。


…つまり誰にとっても安全で、人が多く賑やかな道なのである。


いや……だった。と言うべきだろうか。



神竜が東の森に降り立つまでは。


 往来があり活気に満ちていたその場所は、今や王国騎士団によって厳戒態勢がとられている。


また、討伐隊や一部の冒険者達も居て森から飛び出してくる魔獣の処理に追われていた。


それもそのはず。


 今まで最奥地に生息していたはずの強くて危険な魔獣が、神竜によって森の中域まで追いやられた。

…そして中域にいた魔獣は追い出されるように森の隅に隠れ、弱い魔獣はいる場所が無くなり道に飛び出してしまっているのである。



神竜のせい………いや美希のせいである。


 今の状況が長引けば、他の国から来た商人は帰れずに路頭をさ迷い、東の森で稼いでいた冒険者は固いパンを(かじ)り、味のしない薄いスープを飲むことになる。


そして王国領土にある農村からの流通が滞ってしまうと、王都民は生活が困窮し犯罪が増加してしまう。



【ファルティア王国・王城】


 王城は今、対応に追われた職員が走り回り、様々な部屋に落ちる怒号が廊下に響いて聞こえてくる。


………まさに阿鼻叫喚の地獄であった。



 その王城の一室には国の重鎮が集まっており、朝から()()()が下りた今も休むことなどなく、ずっと会議が続いていた。



「…そうか。昨日の今日でそこまで事態が悪化してしまったか。」


「はい。そして最奥地から女性の悲鳴を聞いた冒険者が数名おります。ですので、神竜調査と女性の保護を作戦に加え、明日の朝には出発致します。」


「東の森のしかも最奥地に女性がいたとしても、もう手遅れのような気はするが……。分かった。明日の出発を許可する。……呉々も気をつけてな。」


「はい。」



 疲労の色が浮かぶ顔で答えた"国王様"と話しているのは、第三騎士団の団長を務めるアルバート。


……朝は元気だった"宰相"はここ数刻の間、一言も言葉を発していなかった。

会議室内にいる数名の人間も喋る気配はない。



王城内が地獄であるならばこの部屋は、まるで通夜のように静まり返っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ