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第10話 ヴァルコアトル視点・本能


月が隠れ、太陽が昇り始めた。

 森には、小鳥の囀りや朝告鳥(あさつげどり)と呼ばれる魔獣の鳴き声が響き一日のはじまりを知らせている。


昨夜満開だった幻惑花はその姿を隠したのか、花畑だった場所は一面芝生が生え揃っていた。


…芝生の絨毯が敷かれた、広く開けた土地の中心に一台のベッドと二つの人間の姿が在った。



「………ん………。」


 一つの姿は少女と思われ、まだ夢の中に居るのか度々寝言を喋っている。


そしてもう一つの男性と思われるその姿は、少女の抱き枕にされているようだった。



―――――――――――――――――――――



神竜ヴァルコアトルは今、本能と戦っていた。



昨晩、少女の姿を見つけ人型になるまで心は歓喜に満ち溢れていた。


では変化した後はどうだったのか。



変化を終えて少女に近付いた。


すると、人型になった影響なのか今まで感じる事の無かった感情や欲求が堰を切ったように零れ落ちた。


心の中に様々な感情が入り乱れた。



少女の全てに触れて、食べてしまいたい。


そう思った。


 シーツに散らばった少し癖のある艶やかな長い黒髪に、閉じられた瞼を飾る長い睫毛。

白い肌は頬だけ薄っすらと桃色に染まっている。

小さく、それでいて扇情的な唇から覗かせる赤い舌。

仰向けに寝ているお陰で強調された体のライン。


網膜に、脳に、その姿を焼きつけた。



鼓動がありえないほど速い速度で刻まれている。


今まで経験の無いこの感情の名前が分からず息を飲み込んだ。


愛しい。


美しい少女から目が離せなかった。


聞こえてくる呼吸の音でさえも愛おしい。


欲望が溢れ出して止まらなかった。



……そして神竜ヴァルコアトルは少女に触れた。



少女の手に触れ、思わず口付けてしまった。


細く小さな手も、爪も全てが美しい。


全てを奪ってしまいたい。


そう思い少女の顔に視線を向けた。



目が合った。


いつの間にか起きていた少女は頬を赤く染めていた。


瞳は少し涙目になっていて、理性が飛び掛けた。



けれどその黒の瞳に映る花の光を見て理解した。



――この淡く光る花は幻惑花だ、と。



ヴァルコアトルは欲求を理性で押さえ込んだ。


この花のせいで欲求が溢れ、本能に身を任せると少女を傷付けてしまう。


必死に押さえ込んで、少女に声をかけた。


だが、先程よりも頬を真っ赤に染めた無防備な少女の前にそれは崩壊した。


透き通るような美しい声だった。


消えてしまいそうなほど小さく震えた声だった。


―――愛おしい。



そこからはもう止まらなかった。


押し倒し、欲望のままに口付けた。


少女は驚き、狼狽えていた。

その姿に、残っていた理性が吹き飛んだ。



キスをするたびに少女の肩が僅かに跳ねる。

耳や首にキスをすると、少女の声が小さく漏れた。


その声の漏れる小さな唇を食べてしまいたかった。


だが、必死に理性を掻き集めてそれを抑え込んだ。


その代わり、自分の存在を示すように少女の白い肌に赤く小さな花を咲かせた。




……その時、少女は気を失った。




すやすやと眠る少女に何かしようとは思えなかった。


少女に布団を掛けて、ベッドの横に腰掛けその美しい寝顔を眺めた。


とても幸せな時間だった。




眺め始めて幾許かの時間が経った頃。

ヴァルコアトルは猛烈な睡魔に襲われた。


一日の内、殆どの時間を飛んでいたせいだろう。


気が付くと夢の世界を漂っていた。






だが、何か違和感を感じ目覚めた。


そして、赤面した。


何故か少女と一緒のベッドに入って寝ていたのだ。


さらには少女の柔らかい体に抱きつかれていた。


昨日の欲求が溢れ出すのを感じた。

幻惑花は咲いていないのに、である。







…神竜ヴァルコアトルは今、本能と戦っている。




頑張れ、ドラゴンさん!

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