激動2
━━会議場で一つ吐息を吐きながら、昨日のことを思い出す。
━━今や、どのような大型な船であろうと。外海に出る船は航行不能になっていた。
一つは暗色な海が、瘴気を多大に含むため人間には、長時間の航海が不可能なこと、
同じ理由で食料、水などが瘴気によって直ぐに腐り始めること、
最後にモンスターが瘴気を受けて狂暴になったため湾内とて、安全では無くなった事が挙げられる。
だから港に。見たこともない船が現れたと聞き、何者かとピアンザが問えば、
「ギル・ジータ王国の使者と……」
「何だと?」
驚くのも無理はない。詳しく聞けば、ギル・ジータ王国にはこのような事態に備えいて。
特別な船が用意されていたと言うのだ……、
「なんと……、そのような船が」
絶句したピアンザとて製法を聞けば、海中船の有用性は理解出来た。
お陰でこの異常事態でも。比較的安全に、航行出来たこともだ━━。
「それで、ピアンザ様━━」
旧友であり。ギル・ジータ王国の宰相となったサミュ・リジルは謁見の間で、久しぶりの会合をしある提案をしていた。ピアンザは淡々となんの感情も浮かべない旧友に、冷水を掛けられたように息を飲んで、その提案を聞いていた━━。
そして━━。
妻子を東大陸のギル・ジータ王国に、身を寄せる事が決まった。
━━その少し前……。
ピアンザは内密に、サミュ・リジルから。全てを聞かされていた。オーラル・ハウチューデン……、
「我が友よ……」
国王連名による。親書を目にして、静かに涙した。
「オーラル様から、後は、任せろだそうです。あの人はアマアマですよね。本当にとても優しいですよね?。私としては全てを知っても、貴方がしたこと、……赦すことは出来ません、でもね……シレーヌは、私達の友人ですから」
(あれから何年たったのかしら……、)
眼鏡を押し上げながら吐息を吐いていると、
「サミュ……?」
「ええ~!。もしかしてシレーヌちゃん」
別室で会談していたところ、夫ピアンザに呼ばれて入室したシレーヌは、とても驚いた顔をしていた。やはりと言うべきか、囚われていたときも美しい美少女だと思ったが、今や成長して美しさが増していたが、
あの日の面影を強く残した旧友を目にして、懐かしい思いが胸中に渡来し。思わず眼を細めていた。
「………」
「……サミュ……、ああサミュ」
シレーヌは、場も憚らずサミュに抱き着いて。嗚咽を殺して涙を流した。
「かあさま……」
心配そうにちょこんと可愛らしい少女が、母のドレスの裾を掴んで、見上げていた。そんな妻の姿を見れば、余計に辛い気持ちを圧していた。
ピアンザは涙を拭い、晴れ晴れとした顔で、
「我が、パレストア帝国は、此度の異変終息まで、全ての国々と協力を惜しまん」
ピアンザの宣言に、側近中の側近達の顔にも、安堵の笑みが浮かんぶ、
━━サミュ・リジル調査隊は、
海中船を用いてデスホール近辺を主に。海中内の調査他、
北大陸のレオール連合、
西大陸のパレストア帝国に使者として赴いた。
あくまでも一時期と区切り、異変に対処するまでの間だけでも。異変が終息するまでの同盟を呼び掛ける役目を担う為である。
それはギル・ジータ王国が唯一中立国だと宣言した国だからこそ。そのような重責な役目が出来たのであった。
それが……、
数年前━━。
ただ1人生き長らえ。オーラルから国内の再生を密かに手伝ってもらいながらも、内心はオーラルにどうせなら我が国の重鎮に迎えたいと、何度も誘いをしていたが、オーラルは断っていた。
その代わり密かに頼まれたことがあった。
サミュ・リジルは嘆息を漏らしながら、
『こんな日が、本当に来るなんて……』
嬉しさと同時に、オーラルの底知れぬ先見性の力量に。ただ身震いしていた。
「彼が、敵でなくて本当に良かった……」
これ程の苦難、だけど……、サミュは確信した。
『彼ならば、きっと━━』
━━━北大陸、竜の峰、
リブラは配下の竜騎士レダ・アソート、
プラ・カードラを連れて、竜の山にある。竜の巣に来ていた。
三人が目にしたのは、怯えた竜が固まり、リブラ達に訴え掛けるように鳴く姿であった。
「リブラさん……、何かに見られてる気がします」
流石のレダも普段見せる。わんぱく小僧のような強気が成りを潜めていた。
リブラ達、三人は竜の峰に入って、沢山の竜の死骸を見てきていた。強靭な竜鱗を引き裂く傷痕から悪臭が……、漂い。白濁した目は、薄く膜を被り、口からダラリ飛びだした舌は、紫色に変色していた、
まるで猛毒でも飲んで死んだようだ……。
リブラは竜鱗を引き裂き、猛毒を与えるモンスターに、一つだけ……、心当たりがあった。
そいつは女のような鳴き声を上げる一方で。
嗄れた老人の声で呪いを呟き。強靭な爪は、竜鱗すら切り裂く、
さらに、猛毒の蠍の尻尾を持ったモンスター……、
「キメラ……」
ただキメラが、一体だけでこのようにはなるまい、キメラは闇の魔法、死者を操る呪いが使えた筈だ。
すると………、ハッと顔を強ばらせ、そして気付いた。
「レダ、プラ、お前たちは、急ぎ竜を逃がせ!」
慌てるリブラに、二人は神妙に頷き、竜と契約者だけが自分の竜と話す力を得る。他の竜は、竜の契約者を仲間と認識するため、竜騎士の言うことを聞いてくれるのだが……、
凄まじい寒気を感じて、リブラは大地と風の防壁を張った。
「なんだ今のは、それにあれはいったい……」
顔色を無くしたプラが、慌てて口を押さえていた。凄まじい悪臭。毒のブレスにより、リブラの張った防壁の周りにあった、岩が融解していた。
「ドラゴンゾンビ!」
竜達が、怯え鳴き、若い竜の一頭が、羽ばたき、逃げ出した。
そして━━断末魔の悲鳴が、竜の巣に響き渡り、残された竜はうち震える。
━━グチャリ、
ドラゴンゾンビの眼前に竜は落ちた。
まだ息のある若い竜を、悪意ある光を宿した、ドラゴンゾンビが喰らう、
「うっ……、おえっ……」
凄惨な光景に、レダが吐いていた、このままでは、何れ皆が若い竜のような運命を辿る。
リブラは竜の巣の入り口に目をやる。
ここは人間が入る洞窟とは別に。竜が洞窟に入る為の。出入り口があるのだが……、
目を細め見上げると、蠢く影が微かに見てとれた。獅子の身体の魔獣キメラが岩影にいるのも━━。
「ちっ、厄介な場所に隠れおるか」
ここから死角になっていて、キメラを直接狙うのは不可能に近い、狡猾なキメラらしい戦い方である。
ずんずん、獰猛な唸り声を漏らし。死した竜は、元々竜王に並ぶ知ある竜、古竜だったのだろう。
リブラは、静かに黙祷を捧げ青み掛かった、金属とは思えぬ不思議な剣を引き抜いた。
これはリブラの相棒である。竜王の竜鱗から作られた剣である。それも竜王の魔力をふんだんに込めて作られた特別な。世界で一ふり、リブラの剣である。
使い方しだいで、竜のブレスすら模倣したり、属性魔法すら斬れる力を秘めていた。リブラが展開した魔法の壁は、あれだけの毒ブレスをそう何度も防げそうもない。
毒の力があまりにも強く。少しでも吸い込めば命に関わる。このままでは持たない━━。
ならば……、
飛び出したリブラを認め。悪意で、淀んだ金の瞳を細めていた、
すうっと死した喉が脹らみ。漆黒のブレスを吐き出した、
「リブラさん!」
レダの悲痛な叫び。リブラは魔力を剣に流し込めて。と同時に風の魔法を使い。加速しながら、溜めを作り、一刀両断。ブレスを切り裂いていた。
さらに歩を進ませ。隙間を縫うように。竜の死角に滑り込み。
「さらばだ……。知ある竜王よ」
リブラは悲しみ、怒りすら滲ませ。凄まじい破壊力を秘めた斬撃を放つ━━━、
邪悪な呪いごと、かりそめの命すら、一刀両断と……竜を、切り倒していた。
「きゃははは、ドラゴンゾンビやられてやんの」
甲高く、耳障りな声が、辺りに響いていた。バサバサ蝙蝠の翼を羽ばたかせ、現れたのは老婆の顔を歪ませ。陰湿な笑みをかたどる姿。
間違いなく合成魔獣キメラと呼ばれる。邪悪な生物。
「おまえ人間の癖に、強いみたいだから、わたしのお人形になりなよ。きゃははは、きゃははは、みんなしんじゃえ、きゃははは、きゃははは」
キメラが、歯の無い、老婆の口を開いて、呪いを紡ぎだした。すると周囲に満ちた。生ある者に嫌悪感を与える。凄まじい邪悪な魔力を集められる。
キメラは集まったその力で呪文を唱えた。『闇の光』(ダークロア)が放たれるや、リブラを狙う。
「リブラさん!」
プラの悲鳴から、まともに食らったかに見えた。ギュリン何か切ったような清みきった音がして、青み掛かった閃光に、闇の光は真っ正面から斬られていた、
魔法はリブラの左右に剃れた。
「きゃははは、嘘みたい、ならこれはどうかしら?」
キメラは、コウモリの翼を広げ、宙に浮き、再び呪文を唱え放つ。地の魔法だろう、リブラの周囲に魔力の光が見えた。
「ちっ」
素早く。竜鱗の剣を正眼に構え。足元から、無数に伸びる。岩の槍を、手元を見せず。一瞬で切り裂き、土塊に戻していた。
「きゃはははは、ムカつくよ人間が、だから早くシニなよ!」
キメラは、獅子の爪を振りかぶり、滑空しながら、リブラをなで打った。
直前にかわされたと知ると。自慢の蠍の尻尾を、鞭のように使い、リブラの足を払う。リブラは咄嗟に、竜鱗の剣で、尻尾を弾きながら。鋭い毒の針を、紙一重でかわしていた、
どうにか後ろに跳び下がっていた。
キメラがリブラに気をとられてる隙に、プラが弓を組み立てる、
「リブラさん!」
キメラに向け矢を放つ。援護してくれたお陰で、僅かに息を整える間が得られた。
キメラは鬱陶しそうに、爪と尻尾を使って、矢を落とすのに気を取られている。
(よし今だ!)
素早く魔力を練り上げ、一気に高めた。
魔力の流れを感じたキメラの目は鋭く細まる。
「きゃははは、人間何をするつもりだ」
憎悪の目で、怒りを露にしたキメラ。だが遅い━━。
「我は求める。契約者リブラ・ハウチューデンの名に答えよ。大地の竜よ。汝の名は、暴君!」
手を地に着け、魔力を解き放った━━。
━━━リブラの手を中心に、魔法陣が浮かぶ、素早く、魔法陣から離れた瞬間━━、
特徴的な鼻から、魔方陣からつきだして、ついで可愛らしい円らな片目の巨体の土竜が現れた。
「きゃはははは、土竜!?」
キメラの爪の攻撃どころか、毒を一切受け付けない、岩のような皮膚をもつ土竜は、見た目と違い、俊敏に動き、キメラが驚き身を硬くした瞬間を狙う。
ピョンピョン飛んで、一本が一抱えもある、シャベル程もある爪で、キメラを叩き落とした。
「ギャアアアアアア?!」
女のような悲鳴を上げるキメラ、尖った岩くれの上に、叩き落とされ、頭蓋を穿う、
ビクン……、
悲鳴が消えた瞬間、身体を震わせ、やがて動かなくなった。
「リブラさん!無事ですか」
レダが慌てながら、リブラの無事を確認して、安堵した。すると邪悪な気配が消えたのに気が付いた。竜達が安心したのか、リブラに擦り寄って出てきたのだ。それにつられて幼竜が、可愛らしくきょとんと顔を出た。
徐々に……辺りに漂う、悪意が薄まり、どうにか竜の巣は、守れたようだと安堵した。




