剣の部決勝
━━いつの間にか……、夕闇が、辺りを暗くさせていた。
校庭に出てる屋台は、西大陸で使われる。提灯が掲げられていた、中にローソクが入っていて、それに火が点されると。見ごたえのある風景が広がった。この教室からみる風景も。春の風物詩である。
━━学園の校門前……、
禿げた頭をツルツルと撫でた人足頭と、朝。オーラルに助けられた若い商人。その恋人が、にこやかに談笑しながら学園にやってきていた。
「本当に、本当に良かったな……、オーラルが、おめえを助け出してくれてよ……」
ずずず~っと鼻を啜る。夏には義理の父になる人足頭が、神妙な顔で何度も頷く、
「はい!、こうしてユキと話せるのも。あいつのお陰です!」
「うん……、それで、オーラル君て、本当にここの生徒さんなの父さん?」
訝しげな娘に、泣き笑いのまま苦笑して、大きく頷いた。
「ああ奴は、いつも言うんだ。決まってよ。ただ自分の出来ることしただけなんだってな……、なあ~」
間もなく婿になる予定の若き商人に、話を向ける。
「そうなんだ、あいつ変わった奴でさ、門番の詰所で、兵士に誉められても。何でもないと言うんだ……」
━━話は、昼前の外門前。詰所での出来事に戻る。
二人を助けた、オーラルは、門番の詰所に飛び込み。二人が、山賊に捕まってたこと━━、
二人の命が危なかったから、荷を捨て、馬で逃げて来たこと伝え。二人の保護を求めた。
「ご苦労だった……、その制服は、君はアレイ学園の生徒だろうに……」
感心する兵士達に、何でもないことのように。
「あの二人は、顔見知りで、助けられる可能性があった。だから自分の出来ること、したただそれだけです」
呆気にとられた兵士達は、直ぐに破顔一笑して、握手を求めてきた。
「俺は、これから試合があるので……」
「なっ…、君は…いや、皆まで言うまい、やれることをしたからか?」
あえて笑い含むように言われて、オーラルは照れ臭そうに、静かに頷いた。
後から知らせを受けた、人足頭は、商人と供に兵士に呼ばれた。そこで詳しく話を聞かされ。二人の心臓が止まるかと、血の気が失せたのだった。荷馬車に乗ってた内の1人は、人足頭の娘婿になる。若い男が乗ってたのだ。
そんなとき兵はにこやかに言った、清々しい笑みを浮かべながら。
「恐らく。荷は、戻らぬだろう、だが、二人は無事だったんだよしとするべきだな、それに二人を助けたのは若い学生だ」
「なんと……」
人足頭と商人は、絶句した。
「伝言だが、『試合があるので、学園に急ぎます 』
だそうだ、今時珍しいくらい正義感の強い少年だったな」
楽しそうに笑う兵達に、二人は戸惑いながらも確信する、同時に胸を撫で下ろしていた。助けられた二人は、そのあと詳しく事情調書を取られ。終わるとすぐに帰された。
そして、今に至る。
「ふ~ん、後でお礼言わなきゃね♪」
愛する男の腕に触れ、きつい眼差しを和らげた。
━━噂のオーラルは、その頃……。
演舞場の観客席の下にある。地下控え室で、やはり何時ものように寝ていた。
「先輩!、もうすぐ時間ですよ、先輩!起きて下さいよ~」
呼びに来た。審判員の先生に、恐縮して謝りつつ。オーラルの体を揺する。
「ん~あ~、眠い……。何だもう時間か?」
グッと伸びをして、ようやく目覚めたオーラルに、ホッとしていた。
「オーラル、殿下がお言葉を伸べられる。選手は、早く会場に、出ているようにとお達しである。話は聞いてるが、寝るなよ」
茶目っ気たっぷりの笑みで、オーラルに聞こえるような。微かな声で、こっそり囁いた。そんな先生とオーラルの様子に、訝しげな眼差しを二人に向けるケイタをよそに、
この男性教諭は……、確か近衛連隊所属だったけか?、アクビを噛み殺しながら、
「よっと」
立ち上がり、もう一度背伸びした後。軽く肩を竦めていた。
『皆さん静粛に!、剣の部決勝は、ケレル殿下の天覧試合となります。よって殿下からお言葉である。静粛に!』
━━会場にいる。観客全てに聞こえるよう、拡散魔法を使っているようだ。
徐々に会場は、静粛に包まれる……、
熱い眼差しが、観覧席にいるケレル皇子に集まっていた。
代々続く。アレイク王国の王族は、聖人アレイの親族であり、敬虔なアレイ教徒の信者が多い国民は、王族を敬う、それは歴代の王達が皆。名君ばかりであり、皇子と言うだけでも。民の尊敬を、一身に集めるのも仕方ない……、
切れ長のブルーアイ、憂いを帯て、会場の人々を見た、にこやかに微笑する姿は、絵画から飛び出した、英雄のように美しく気高い。
静寂のなかため息が、女徒達から漏れた。
『皆さん今晩は。僕は、今日と言う日を、楽しみにしてました!』
晴れやかな微笑を讃え。心からの笑みに、軽い笑いが起こる。
それに答えながら、
『若き英雄達に、盛大な拍手を持って、出迎えよう、この二人を……』
一礼して、ケレル殿下が座るや、
━━4つの舞台を繋いで、毎年剣の部決勝と、体術の部決勝のみ使用される。中央の演舞台に、
審判が上がる。
間もなく剣の部。決勝が行われようとしていた。
選手の紹介が始まった。
『ミザイナ・アルタイル、ファレイナ公国、聖アレイ学園、四年生、昨年、一昨年剣の部優勝、ミザイナ部隊長』
二人の経歴が読み上げられる。
ケレル殿下の傍らに控える。カレイラ少将を見れば、微かに頷かれた、感心したように微笑を深める。
『オーラル・ハウチューデン、聖アレイク王国、二年生、昨年体術と剣の部でベスト8、本年度全ての競技において、ベスト8の栄誉を得ました』
━━おおお……ドヨドヨ……、
違う意味の驚きによって、会場のみならず。カレイラ少将すら興味を持ったようだ、
『ミザイナ部隊、所属、なお本年度、武術大会においてミザイナ部隊は、槍の部以外、全て優勝しております』
おおお!、興味が、興奮となり、観客のボルテージが上がる。
二人が、舞台場に上がり相対した。
それぞれの獲物を手に。ケレル皇子に一礼して、身構えた。
『剣の部、決勝開始!』
審判である。教諭の合図で、二人同時に、飛び出した。神速を誇るミザイナの斬撃は、まるで鍔より先の刃部分が、消えたような錯覚を、カレイラにすら与えた。左右同時に、剣が振るわれてる。そう思わせるほどの双撃。
「ほほ~う、今のをいなすか、お前はやはり面白いよオーラル!」
艶然と笑み。ミザイナのスピードが、さらに上がる。
オーラルの劣勢、カレイラから見ても明らかで、あれほどの劣勢でありながら。よくギリギリの間合いを保ち。受け続けてると。感心するほどだ。
試合が始まり。早くも二分が過ぎていたが、当初のミザイナ有利の下馬評が、徐々に覆されていく。未だ有効な打撃は一度も決まらず。オーラルはひたすら耐えていた。だがミザイナのスピードが落ちることはない、凄まじいスタミナだ。
「これは……まさか?」
「どうしたカレイラ」
珍しく興奮した様子のカレイラに。
「少しずつですが、彼はミザイナ嬢の神速の動きに。ついて行っておりますな」
試合前までは明らかに二人の実力は、覆すことが出来ない程であった。それがこんな僅かな時間で成長するなど聞いたこともない、実力者にしか分からぬ変化。それは見るものに凄まじい衝撃と、感動を与えるていた。ケレル殿下は気が付かれないようだ。それ故歯痒く。これ程の者が、学園に居たのかと嬉しく思った。
「ほう……、剣姫のスピードに付いてくか……」
ここでようやく流石は目が肥えてる。ケレル皇子も気付いたようだ。
ざわざわ……、会場では。例年にない。見応えある烈戦に。息をするのも忘れ。ただ観客は見守っていた。
端での評価では、ミザイナ圧倒的な優勢が、今や互角に近い戦いを見せているのである。
いつしか二人は、立ち止まる。周りの声など聞こえないかのように、息き詰まる均衡。張り詰めた熱気が。二人の中間に確かに横たわるようだ。まるで空気がパンパンの風船の前で、刃を突き刺してるようなジリジリした空気のなか、一瞬にして、均衡を破る。
ミザイナが、全身に力を溜め始める。刃を潰した刀身に、剣気を宿して行く。
「アルタイル流……、剣技『流閃』(りゅうせん)」
突如。青い光が、オーラルの身体を貫き駆け抜けた。
「ぐっ……、今のは………」
突如として、オーラルの身体を突き抜けた、凄まじい衝撃波によって、脳震盪を起こして、オーラルは崩れ落ち。気を失っていた。
「まさか……、この技を使わされるとはな…」
全身…根こそぎの気力を失いながら、満足そうに笑うミザイナ、その時腕に鈍い痛みが走り顔をしかめた、訝しげに痛む腕を見て息を飲む、腕の痣に今ようやく気付いたからだ。
「オーラルお前、あの一瞬で……」
『勝者……』
絶句して目を見張るミザイナの呟きは、大歓声に、勝者の名すら、打ち消された程だ。
稀に見る学生による名勝負。惜しみ無い拍手が贈られた。
ケレル殿下は、満足そうに微笑む、
一方で、カレイラだけが驚きに目を細めていた、
「あれは……わざと負けたのか?」
興味深そうに、オーラルを見ていた。