再び予選会
━━━日が、随分高くなり。予定より時間が少し回ったばかりだった。
城門で馬を止め。怪訝な顔の門番に、ことの次第を伝えた。人足頭と商人に、言伝てを頼み。オーラルはアレイ学園に急いだ、
━━━演舞場。
息を切らして。入ってきたオーラルを、心配していた部隊の面々が出迎えた。体術の試合間近のようだった。
「先輩!遅いですよ」
ケイタが焦りの顔で手をブンブンさせながらいい募る。ミザイナがため息を吐きながら手招きして、ピアンザは眉をひそめ、手にした水を渡してくれた。
「助かる……」
礼を述べて、一息に飲み干した。
「第96回、武芸大会、体術の部、準決勝を開始する」
オオオー。
絶大な人気を誇る。お嬢様な風貌のレイナが、愛想よく手を振りながら、舞台に登場する。対するは、昨年準決勝でレイナに負けた、
ボルド・ホウリー、
寡黙な男で、浅黒い肌から西大陸の人間のようだと推測した。
「試合開始!!」
━━ワァアアアー、
開始と同時に、ボルドが迫り。重そうな横薙ぎの蹴りを一蹴。レイナは腕をクロスして受けると。横滑りしながら数メートル下がっていた。
「なっ、なんですか今の蹴りは……」
あまりの破壊力に。ケイタの顔面は蒼白になっていた。ボルドの猛攻は続く。
息を飲む声や、悲鳴まで聞こえた。
「どう見たオーラル?」
顔を強張らせ。息を詰める。ミザイナに、ただ小さく首肯した、代わりにピアンザが呟いていた。
「レイナ……、強くなってる」
凄まじいラッシュに、周りからは、レイナの防戦一方に見えた。
━━攻防に変化が起きたのは、突然だった━━。
優勢に見えた、ボルドの動きが……、
目に見えて━━鈍くなったこと。誰しも驚き、動揺した。
「いっ、いたい、どうしたんですかね?」
少女のような幼い顔立ちを、不思議そうに傾げる。
「あれは、カウンターだ」
ボソリとピアンザが答えた。
一見━━。
レイナは受けに回ってたように見えていたが、事実は違う。最初の蹴り意外は、ほんの少しずつ……、ボルトの蹴りに対して、
さらに拳打の一つ一つに、軽く拳、蹴りを置いて、自分の攻撃で、ダメージを負わせるタイミングの攻撃を。繰り出していたのだ。
「あの技は……」
「ああ……」
昨年三連覇して、卒業した彼女と同じ闘い方だ………、
今までレイナは、恐ろしいまでの腕力と、スピードで、相手を圧倒する。戦いを得意としていた。今繰り広げられるのは、それと真逆の緻密な計算と、凄まじいセンスが、問われる高級な戦いだ。それに気付いた者は、少ない……。ボルドは最後まで気付かず。力尽き、倒れていた……。
━━ドヨドヨ……、何が起こったか……、しばし会場はどよめいた。すると軍服を着た。線のほっそりした顔立ちの男が、壇上に上がり。さらなるどよめきが、大きくなっていた。
『ただいまの試合。レイナ嬢による。カウンターにより、ボルド君は、倒されました』
一瞬で、広域魔法を構築。会場内にいる。全ての人に、声を伝えた。四人は、息を飲んでいた。
「あれは……、カレイラ少将!」
誰かの叫びで、会場は興奮のルツボと化した。
「凄い、凄い!、あれが噂の……」
ケイタが頬を上気させ。興奮気味に、身を乗り出した。
「すると……、あれがケレル皇子様か……」
ミザイナは同盟国の貴族令嬢だ。会った事があるのだろうな。殿下の護衛を、カレイラ少将が、務めてるのだろう……、王族の展覧試合だとは、言われてたが……、まさか一般生徒に混じってとは、流石に呆れた顔で、皇子と
『オールラウンダー』の称号を持った。我が国。最強の人物を、見つめてると、カレイラ少将と、目が会い、三人が黙礼した。するとミザイナに気が付いて、驚いた顔をしたが、愉しげな笑みを張り付ける。
「どうしたカレイラ、面白い人材でも見付けたか?」
カレイラは、笑みを振り撒きながらも、小さく苦笑を忍ばせる。表面上では笑顔のケレル皇子だが、その眼は油断なく。注意深い。その点は病弱な兄レヴル皇太子と違い、政務で表に出ることが多い為である。
ケレル殿下は、一般人に混じって、民の生活を、肌で感じる行為を好む。そう言った印象を与えたいのだ。だから民に気さくに声を掛ける。民からは分け隔てない王族と。ケレル皇子は人気がある。
「ええ……、彼処にいる彼等、かなりのレベルにいます。さっきの試合には、正直驚かされましたが……」
満足そうな笑みに、嘆息して、
「もう、部下探しかカレイラ?、いくら貴様とて、一団を率いるには、今しばらく時間もいるだろう」
フッと笑みを深め、カレイラ少将は、
「さあ、それはどうですかね~」
「こいつ……」
虚を突かれたケレル皇子は、呆れを露にしたが、胸中では、カレイラなら可能か?、瞬順する。
そう思わせるだけの力と、期待させる魅力がカレイラにはあった。
「殿下、剣の部決勝まで時間があります。学園の案内をしましょうか?」
「そうだな……、こうなると、身動き出来ないからな……」
体術の部。決勝までゆっくりしたかったが……、諦め混じりに、嘆息した。
満面の笑みでレイナを出迎えた4人は、早目の昼食を食べることにしていた。
剣の部決勝は夕方からで、体術決勝までも時間はあったからだ。
「あっレイナ君。……良いかな……」
バレンタイン教頭が、何やら気難しい顔をして、手招きしていた。何やら深刻そうに話をしてた。徐々にレイナの顔が、残念そうに曇る。理由は直ぐにわかることに……、
『お知らせします。体術の部決勝は、対戦者の怪我が酷く。欠場となり。レイナ・フォルト嬢の優勝とさせていただきます』
放送で知らされて。レイナはガックリと残念そうに肩を落とした。
結局……。夕方まで、時間が空いたので、5人で、屋台を回ることにした……、レイナのやけ食いに付き合わせれるかと思うと……。気が滅入るミザイナとオーラルだった。
校庭では……、噂を訊きつけた生徒、その家族が、ケレル殿下を、一目見ようと、人だかりが出来ていた。
5人は、校庭の屋台だけでなく、『院』の実験棟が、一部解放されていて、変わった催しを冷やかしながら。見て楽しんでいた。
それから校庭の一つに出た5人は、出店を見て回る毎にした。中には珍しい『院』の屋台まで出ていて、簡易マジックアイテムまで売られていた。物珍しそうに。学生がたむろしていた。
一通り屋台を巡り。レイナとピアンザは両手一杯に。大量の戦利品を抱えて。ミザイナとオーラルは渋々。レイナの持ちきれない食べ物を持たされ。急かされるように。いつも通う学生食堂の一つにやって来て、何時もの窓際のテーブルに着いた。あんぐり口を開けて、惚けてるケイタを他所に、レイナのやけ食いは凄まじい勢いで始まり。山のような焼きそばが、一瞬で、ずるずるって消えた様子を見て。思わず目を擦る。そんな何時ものこと。今さら気にすることがないミザイナ達は、
「レイナ、いつの間に、あの見切りを身に付けたの?」
最初はモグモグ。レイナの。戦利品を分けてもらい大人しく食べてたが、イカ焼きで、レイナを指し。気になったこと口にした。ミザイナには珍しいことに、口にべったり、ソースが付いている。そんなことも気が付いてないようだ。
「え~多分。去年あの女に負けた時かな~?、でもあの人には、今の実力でも勝てないだろうな~」
あっけらかんと言うのだが、唸るように。懐かしい気持ちで吐息を吐いていたミザイナも。素直に頷く。レイナの言うあの人とは、昨年無敗のまま卒業した、武の女神とよばれた。ある女生徒のことだ。今の部隊全員で戦っても、あんな化け物には、そうそう勝てない……。オーラルとミザイナは今もそう思っている。
「そっ、それは確かに……」
「ミザ~これでとりあえず300ポイント貰えるね♪」
お気楽に言うが、その意味は大きい。
オーラル達三人は、ミザイナの夢を叶えるのが、目標である。
「みんなで、あの中立移動国に乗って、世界中の国々を回る」
他の生徒が聞けば、鼻で笑われるだろう。学園の優秀者が、国を代表する使節団に入れるのは、精々年1人位で。優秀な生徒か、部隊長だけの特権だとされ。大変な名誉ではある。
今まで歴代のポイントホルダーの1人を、学園は毎年使節に参加させている慣例もあり。他国の王族と同席出来る。数少ない。機会だが……、
ミザイナが語った夢は、部隊長1人ではなく、部隊全員での参加をと願ったのだ。
「二月後の魔法理論会は、私とピア、オー君と草むしり君が参加するのね?」
20本はあった焼鳥の最後の一本を。アムアム噛みしめ、唇に付いたタレを舐めながら、お行儀悪くピコピコ串をふるう。
「あっあの~僕の名前は」
まったくケイタの話を無視して、レイナと二人。これからポイントをどうやって得るか、二人は話し合った。
「あう……、いいですよ」
拗ねる。ケイタの頭を撫でながら、オーラルは苦笑する。
「何時ものことだ、気にするな」
ピアンザの慰めにならぬ一言に。
「はあ~、そうですよね~、でもぼく頑張ります!」
ムッとして拗ねたように答えたが。内心では健気に気合いを入れる横顔に。しみじみやっぱり女の子のようだな~、密かに思ったオーラルだった。