魔王の魔の手
━━南大陸、ダーレン自由解放軍本部。
陣営内、中央に置かれた豪奢な天幕。元はダーレン王の持ち物であったマジックアイテムの天幕であった。外観も大きく豪奢で贅を尽くした物であるが、内分は更に驚く、外観とは広さが10倍以上になっていて、執務室以外にも控え室、会議室、寝室、その他区分けされた小さな部屋等。風呂まであるのだから驚きであった。執務室の豪奢な椅子に座る野心に満ちた精悍な眼差し、痩せて風貌が変わっているが、隠しきれない洗練された、品の良さが。男が貴族出身か、はたまた裕福な家の出かを気付かせる。たが男は王家に連なる。名家の生まれだった……、
しかし父の失脚とともに家は没落していた。膨大な領地と財産を奪われ、成人した日に男は国を逃げ出した。男の名をエトワール・バローナと言う、
「バローナ将軍、いよいよですな」
感慨深く。呟くのはダーレン自由解放軍参謀、アルマン・ソゲン、黒髪は、南大陸では珍しくない、顔立ちこそ木彫りの木を、荒く、削りだしたような。ある意味味のある顔立ちの男で、南大陸の地理を隅々まで、知り尽くしていた。南大陸最大の商家アルマンの時期当主で、ダーレン自由解放軍の資金を出してる人物である。
なぜバローナが、南大陸にいるのか、そして反乱軍で将軍などと祭り上げられているのか……、
━━彼と出会ったのは、今から数ヶ月前になるか……、
アルマンの手引きで、小国ダーレンの民衆を煽り、一つの国を手に出来たのは行幸である。
━━アルマン商会の目的は、自治区の商業都市国家を造りだすことだった。
そもそも南大陸の商人は、軍人と違い、発言力が無い。いや無しに等しい扱いを受けていたのである。
近年━━天候不良が続くことが切っ掛けではあった。でもそれ以前から………、
民に圧政を繰り返していたのが、小国ダーレンである。国王は女狂いで相手が民の妻であろうが、商人の妻であろうが関係なく求めた。それに倣うように二人の王子も傍若無人となり暴力と金を奪い女を犯すことを史上の楽しみと宣うクズであった。上がこうだと下も腐り、鉱山で財をなしてたことから。逆らうものはみな鉱山で死に絶えた。正に死屍累々、希望も未来も懐けない最悪な国と有名であった。
突然の財政難がダーレンを襲った。隣国からの輸入が止まったのが始まりだった、売れない鉱石、必用な食料もなく酷い飢饉のような状況になった。しかし国王を含めた貴族達、クズの兵士達は苛立ちを民にぶつけた。数多くの死者を産み出した。やがて資金を無くした王は急場の穴埋めに。アルマン商会から多額の金を貸りてたが、財政難を理由に、支払いを渋り、終いには……、アルマンの父と妹をなぶり殺した、無惨に殺された父、何度も犯され。殺された妹………、アルマンは復讐を誓うには十分な理由だった。
そして……。
商人と民の為の国━━━、
商業都市を造る為に、バローナを━━。
同じく理不尽なことをされた不遇の男、南大陸の魔法使いギルドに在籍していたデーア・オルトスと言う男も似た理由で仲間にした。
バローナはと言うと、南大陸で細々と冒険者をしていた頃、アルマンに拾われて、とりあえずの頭に据えられたのだが……、元来の負けん気の強さが、苦労を重ね。それをバネに出来たからこそ。バローナ本来の力。圧倒的なカリスマ性ある指導者に生まれ変わっていた。見事に鍛え上げられた肉体。2m近身長。地下迷宮で培った戦闘技術。貴族だったことによる人を使う技量。繊細で大胆な戦略眼と、緻密な計略を立てられる頭、一見粗野な口調ながら人好きする笑顔に。反乱軍の将兵はバローナを認めていた。それを演出し仕立てあげていたのだ。憮然と眉を寄せたバローナが、
「そうだな……、この戦、上手く長引かせれば、十分にお前たちの準備は固められるな。そうなるとそろそろ俺はお払い箱か?」
鋭い先見性、商人であるアルマンにはない、素晴らしい読みを、バローナは見せた。惜しいと実に惜しいと思わぬ拾い物に。表情に出さないが、素直に感心していた。
彼の言う通り、使い捨てとして、それも考えた。が……、今では惜しいと……考えるようになっていた。
所詮は商人であるアルマン。表に出るには不都合と、理解していた。
あの━━魔王の配下との約束もある。ファレイナ公国との戦が長引けば、それだけ盟約をも結びやすいとの思惑があった。
うまくファレイナ公国と戦い。新しい国と認めさせることが出来れば。土竜馬車ギルドにも。参入しやすくなるそうなれば停滞した南大陸処か、他の大陸にまでアルマン商会の名を、全大陸中に知れ渡らせる事が出来る可能性があった。いつしかアルマンの夢は、復讐から大陸一の商人になること━━。
父や妹のような不平等を無くす為にはとほくそ笑む。時間になった。三人は外に出ると眼下に整列する。ダーレン解放軍の兵達を見ていた。
━━ダーレン自由解放軍5万に対して、ファレイナ公国は僅か8000の陣営だ、しかしパライラ騎士団の兵は、一騎当千の強者ばかり、
対して、ダーレン自由解放軍は人数こそうわまるが、半数以上が元農民である。
「デーア次席」
黒のゆったりしたローブを着た、若い魔法使いは、敬愛するデーアの手伝いを申し出る。彼に肩を借りて、不自由な足を引きずりながら、目的地に向かう。
南大陸には、他の大陸にはない古き歴史ある。魔法使いの塔があった。
神代の時代。最初の魔法が生まれたのが南大陸であったと言われている。
時は流れ。何時しか、魔法使いの塔とは、魔法使いの象徴とされるだけの存在となっていた。
━━数百年もの怠惰は……、魔法使いをも腐らせたのだ。
古き叡知はごみ溜めに埋もれ、知識は金を得る手段に変えて、今や権力者に成り代わろうとしてる学舎であった。もはや魔法使いの塔とは……、ただの不正の温床になり。腐りたるは、南大陸最大の国と変わらない……、
清廉こそ美徳、武こそ雄弁、そう語り、体現してきた、剣の国ファレイナ公国以外は、もはや隣国達は歴史にあぐらをかいて、腐っていたのだ……、
若き学生時代のデーア・オルトスは、天才の名を、欲しいままにしていた魔法使いであり。稀代の歴史学者であった。
━━彼は8年前……、一つの概念と出会った。
東大陸で使われ始めた。因子変換魔法を、デーアは新しい系譜として、独自に研鑽した。そして研究の据え新らたな魔法をいくつも作り出していた。
若い魔法使いは、デーア・オルトスの才能に畏怖しながらも。彼を師として慕う、同じような若い魔法使いは、彼に師事を願い集まったのは言うまでもない、
結果━━デーアを妬み。魔法使いの塔、魔法使い筆頭を含めた幹部は、デーア排斥を行った。
無論デーアとて、沢山の仲間と抵抗したが━━ダーレン国王の甥にあたる筆頭に破れ━━、
多くの仲間を失いながら、デーアは拷問された。長い拷問の据えに。左手と右足を失い。腐りかけたパンを食べ。泥水を啜りながら、それでも最後の最後まで生きることを止めなかった。まさに殺される直前。ダーレンでクーデターが起こり……、デーアは一命を取り止めた。
ゆっくり義足を引きずりながら、不十な身体を動かし向かう。
そして……稀代の賢者は、自分を慕い。世界が、国が、変わる瞬間を己が目で確かめること望んだ者。百人近い若い魔法使いが集まっていた。陣営近くの山間。石切場に作られた。巨大な魔法陣。整列してる巨大なゴーレムを前に。表情を改めて。デーアは手を血に染めることをい問わない。
自分の知識を使い。また有用と認めてくれた。若き英雄の為に━━その力を使うことを。デーアは求めたのだ。
複雑な魔法陣が、幾重にも描かれ、魔力は一体の巨兵に、注ぎ込む、
「明日の戦にまにあおうぞ、我が主よ」
満足そうに、デーアは微笑する。
━━━ファレイナ公国・陣営。
「団長、本国から連絡です」
着物と呼ばれる。着流しの白装束姿の壮年の武者は、小間使いに髪を結い上げさせながら、おうように促した。
「お嬢━━ミザイナ様が、来るそうですぜ」
ザワリ……、
驚きと嬉しそうな声音が、陣営に木霊する。
「ふっ、そうか……、ならばあやつに良いところ見せねばな、ジンベイ?」
傍らの重鎮の中でも、一番若い武者は、ほんのり赤面しながらも、ぼくとつと頷いた。
ファレイナ公国には、厳然とした序列がある。
━━最強の剣王=国王を筆頭に、
騎士王=パライラ騎士団長アルタイト・アルタイル、
剣姫=ミザイナ・アルタイル、
剣聖=ジンベイ・アート
剣将、騎士、剣士の順に、剣の奥義を極めたかによる腕が問われる。ファレイナ公国にとって、八人の剣将になるのはある意味、夢であるが、次代の王となることが、決まってる剣姫=剣皇は、ミザイナ1人だけである。次代の王となるミザイナが、参戦すると言うのだ。幼なじみで、婚約者である。ジンベイにとって、憎からず思ってるミザイナに、良いところを見せたいと思うのも仕方ないところ。アルタイト・アルタイルにとっても、久しぶりの愛娘の参戦だ、うっすら笑んでいた。
「明日は、思い上がってる。商人どもに鉄槌をくれてやれ」
「おう!」
嫌がおうなく、士気が上がっていた。
真新しい、剣姫用の純白の白銀鎧を身に纏い。重厚ある。片刃のロングソードを腰に懐き、眥を険しくして見定め。剣姫にだけ、着用を許されたマント、赤に、王家の家紋、馬と剣を錦糸の刺繍で、精緻に凝らせていたを翻し。ミザイナは、伯父である国王の前に立つと、恭しく頭を垂れる。
「剣姫ミザイナ・アルタイルよ。その剣をもちいて、我が国を狙った愚を、思い知らせるがよい」
「はっ!、我が剣に掛けて」
ミザイナは颯爽と立ち上がり、中庭に待つ、剣姫親衛隊12人と馬上の人になり、ミザイナはベランダに出た伯父に一礼して、愛馬の腹を蹴った。
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山岳地帯であるファレイナ公国だが、隣接する国境は、平原となっていて、真っ直ぐ街道が走っていた。伯父の話では、遥か昔建てられた、とても古い見張りの塔がある。塔と言っても、二階建ての古い屋敷に毛の生えた物に。敷地と、申し訳程度の掘りが作られている程度の物だった。
━━いきなりダーレン自由解放軍が、国境砦を意表を突いて占拠されてしまう、
さらに予想外なことに。僅か半月の間に、予想外の要塞化がなされていた。
周囲に家々を建設して。さらに木造の騎馬返しが、正面入り口に作られ、更に、国境を新しく作られたに等しく砦を中心に壁が作られたにばかりか、三ヶ所に見張り台と、騎馬返しの横に土嚢が幾つも掘られ、弓兵が、隠れてると見るしかない頑迷な陣容であった。
「こんな僅かな時間でここまでやるとは……」
パライラ騎士団の主力は、騎士である。騎馬戦を主流にしていて、剣聖他、剣将率いる。剣士が少数精鋭で、斬り込む戦略を得意としているため、消耗戦のような、地道な戦いに、向いてないと言う、弱点を突かれた型になる。いささか驚きを隠せないが、困る程ではない、アルタイトにとってこの程度のこと……、想定内であったのだ。
「白兵戦用意!」
「騎士全員、馬を降りよ!」
「抜刀、第1陣から、流水の陣を形成、第2陣側面から急襲、第3陣は待機」
剣聖ジンベイ率いる第2陣は、騎士を囲む様に、左右に待機する。アルタイトの号令一陣、凄まじいスピードで、走り出していた。
ファレイナの剣士の足は、馬に並ぶと言われている。
第2陣にはスピードを誇る剣士が集まっていた。
騎士は鎧の重量のため、ややスピードは劣るが、息一つ乱さず。鎧を着こんでるとは考えられないスピードで、走っていた。
これこそファレイナ公国独自の魔法である。肉体強化に特化した。北大陸の魔法似てるが、ファレイナ公国独自の魔法それは……、
慌てる。ダーレン自由解放軍は、単発的にだが、数千もの凄まじい矢が、雨の如く、落ちて来たのだ。
ダーレン軍にとって信じられない光景を、目にすることになる━━━。
「ほう……あれをかわすか、あの動き、風の魔法か?」
学生時代は、落ちこぼれだったバローナである。しかし卒業間際の頃には、アレイ学園の『院』に在籍していた。無論大陸ごと、国ごとに魔法が違うことを知っていて、軍師デーアより学んでいた。
「オーラルを嫌ってた俺が、あいつの魔法を得意とするとはな……、変な縁を感じるぜ」
皮肉気に笑うバーロナの元。次々報告が入る。
「魔法弓部隊、配置に着きました!」
直ぐ様命を与える。
「引き付けて、目にもの見せてやれや」
バローナの命令に。伝令が走り、各部隊に伝達されていた。
━━突然土嚢の穴から、数人が立ち上がった兵が、矢をつがえぬ弓を引く姿を。目のよいジンベイは見た。長年培った戦士としての勘が、警鐘をならした。
「気を付けろ!普通の矢ではないぞ」
即座にその場に立ち止まったジンベイは、両手持ちの大剣を正眼に構えた。それを見て周囲の配下は、ジンベイの斜線から外れ、背後に下がる。
同じ采配をした。各剣将も同じような陣形を型どった。
━━上から見ると、10の矢じり陣形が、逆扇状に見える筈だ。
「てい!」
間髪入れず。色彩様々な矢が、装填、次々に放たれた。
「ちっ!魔法を矢にして放つ武器か」
魔法武器、そう呼ばれる。遺物が、まれに遺跡から発掘される。魔力のあるものなら、誰しも簡単に扱えるため、国々で、研究されてたが、あまりに難しく、配備されていないと聞いていた。
「舐めるな━━━!、はぁあああああああああああ!?」
ジンベイの構えたる大剣。精緻な竜は魔力に反応して、生き物のように動きだした。大剣の台座にあるオーブに向かい竜は、手を伸ばしオーブを掴んだ。
「うおぉおおおおおおおおおおお!!」
ジンベイの魔力は、一瞬で、オーブに吸われ、オーブは赤く明滅する。
「喰らえ。竜の咆哮」
凄まじい烈風が、剣の一振り切で、放たれ、迫る魔法の矢を滅した。
次いで、爆発が、次々と上空で起こりる。両軍を強風で凪いだ。
それを見たアルタイトは、薄く笑い、
「良い判断だ」
弟子の成長に、眼を細めていた。
━━━ダーレン自由解放軍、
「ちっあれを斬るか、とんでもな奴等だ……、だが、ミザイナに絡んだお陰か、それくらい出来て貰わないとな面白くねえぜ」
不敵に笑う、そしてバローナは先日アルマンから打ち明けられたことと。魔王ピアンザの配下である。不気味な双子と会談したのを思い出していた。
そもそもの始まりは、バローナが、アレイ学園卒業を数日に控えていたある日のこと、叔母のレイダ王妃から、自身の暗殺計画があると知ったことが始まりだった。
━━当時のバローナは、クソたれな少年だった。父を失い、飾り物の家名だけ残された没落した貴族家など、誰からも構われず。無視され。ついには苛められていた……。
……元来バローナは、剣の素質に優れていた。魔力も高く、才能に溢れていた。しかし駄目な父を真似て荒れていたこと、ただ敵対した者を、がなり散らし。自分よりも弱い存在に当たっていた、どうしょうもない男だった。しかしミザイナと彼女の部隊と散々戦って、むきになって努力を惜しまず豪放な戦いかた。緻密な戦術。確かな魔法技術を身に付けていた。気が付けば……、バローナを見る目も変わっていた。
そして………、唯一残った肉親。叔母のレイダ認められていた、あの移動国家リバイアサンに招待されていた。
ミザイナ達と共に、あの船に乗ったことが、バローナの今を変えたきっかけである。
色々と苦労はしたが……、どうにか助かり。学園に戻ってからは。真面目に勉強をするようになっていった。
元来バローナは、レイダ王妃に似て、聡明な少年だった。ただ父の悪影響で、腐っていただけで、今ならば素直にオーラルを尊敬すら出来る。あんな状況から『オールラウンダー』の称号を与えられたのだ。
当時は考えもしなかったな……、あのケレルが、自分を危険視して、暗殺を企ててるとは、知らせてくれた叔母も辛かったに違いない……、
もはや権力に、興味すらなかったバローナだったが、外の世界を見て回ることを決め。
命からがらアレイク王国を逃げ出していた。
━━そして最初に向かったのが、両大陸を繋ぐ地下迷宮。徒歩で巡り、様々な亜人の街や、人間の集落を巡り、三年かけて━━、
南大陸にやって来た。
たまたま立ち寄った次の国で、色々な不運が重なりダーレンで、農民のクーデターに加わり。大きな屋敷を襲っていた。その地下牢で見つけたのが、死にかけていたデーアである。ついでに助けた。逃走の途中、ダーレン軍の追撃を撃退して、命からがら逃げた先にいたのが、傭兵を集めていたアルマンと出会う……。
彼から自分の父と妹がダーレン王家に殺された事を聞いて、迷いはあったが、力になることにした。
アルマンは当時ダーレン国王の暗殺を考えていた。だがバローナの説得もあり反乱軍と手を組むことを選んでくれた。
だが所詮は農民である。無論ダーレン軍は侮っていた。バローナの目覚ましい活躍で。次々にダーレン軍を敗退させていった……。
瞬く間にバローナは反乱軍で一目置かれるようになり。一月とせず。反乱軍のリーダーに据えられていた。
━━数日前。
深夜━━、
国境の見張り台を占拠した反乱軍の陣営。アルマンに呼ばれて。やつのテントを訪れた。
出迎えたのは二人の子供だった。訝しい気に眉をひそめさせたが、アルマンは二人の子供を敬っている様子で、さすがに違和感を感じていた。無邪気に笑う仲の良い双子。最初はそう思った。だが……兄弟がバローナを見た瞬間。
肌が粟立つっていた。
まるで人形でも見るように、ガラスの眼のように透明だが、何も写さない瞳……、
そう誰もが一度は見たことがある筈だ、人形を可愛がるが、大事にしない子供を……、
人間を玩具か、何かとしか見ていない……、壊れた眼差しこそ双子の少年が、人間に対する思いであると、バローナは直感した、こいつらの見た目に騙されるなと……、眼差し鋭く双子を警戒しながら、席に着いたバローナ、驚きを隠せず。立ち尽くすデーア、
「お前たちは……」
「ああ~兄さん兄さん見てよ。アハハは、先生がいたよ」
「アハハは、生きてたんだね~馬鹿学長から逃げ出せたんだ」
同時に喋るようで、どちらが喋ったか解らない……、
「流石は、魔法使いの塔で、学長に次ぐ、次席魔法使いである。デーア・オルトス様、二人をご存知でしたか!」
恭しく丁重な口調ながら、アルマンも何処か壊れた笑みを浮かべていた。
「お二人は、魔王ピアンザ陛下の配下。6将の1人━━、正確にはお二人ですが」
「グラベル」
「グレム」
同時に答え。無邪気に笑う。
「闇術士━━━そう呼ばれてるそうです」
バローナの顔色が変わる。地下迷宮で、さ迷っていた時だ。アレイク王都を襲った、奇妙な伝染病があったと聞いていた。
南大陸でも珍しい病……、テロを起こしたのは年端も行かぬ。双子の少年と言われていた。
バローナは、アレイ学園の入学式前に、地下迷宮に入っていて、噂で知った程度だが━━━。
バーロナの顔色を見て、アルマンはにやりほくそ笑むと、胸中を考えもしない盲信者のうよな、言葉を連ねる。
「バローナ殿も知っておられましたか、それは好都合━━」
日を追う毎。狂喜を抱き変貌するアルマン━━。
まさか━━。
今さら見捨てることは出来なかった……、魔王の狙いを知り、叔母に密かに知らせるためにも残ることを決めたバローナ、
「それよりも……楽しみだぜ」
ミザイナと再び戦う機会が与えられるのだ。自分の力量を試す好機である。




