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少尉ですが何か?改修  作者: 背徳の魔王
第四章
44/123

少尉のお仕事


━━ゆっくり港を出た船は、やがて風に乗って、船のスピードが上がる。晴天の空。輝く太陽に照らされ、海は鮮やかなスカイブルー。空との境目すら解らない快晴である。涼やかな風に髪を遊ばせ、満面の笑みを浮かべては。楽しそうに流れる風景を見ているのは、ピンクのサマードレス。ブロンドの長い髪を後ろで編み込まれ、スッキリと左右に垂らす少女、上品な面立ち、見るからに良家のお嬢様姿のミレーヌ王女であった。



ここ数日は、初めてのことがたくさんあった。外が見える乗り合い馬車に乗っては、目を輝かせて。街並みをいつまでも飽きずに見ていた……。



王女の可愛らしい仕草に、二人の付き添いは、微笑ましく見ていた。

カレイラ准将、フロスト騎士団長ブラレールの二人。考えられる最強の護衛である。



三人が王都を出たのは夜明け前。城門が開くと同時に出発した。無論乗り合い馬車を。貸し切りにしていたが、



━━第一分隊舎……、ケレル殿下が用意された、豪華な馬車と、それを引くための訓練された見事な二頭の軍馬である巨馬のほか、護衛任務に耐えられる。三頭の馬が鞍付きで、運び込まれた。無論姫様がいない以上は、誰かが影武者を勤めなくてはならない。誰が衣装を着るか、クエナとミラの前に置かれた衣装に。二人の顔は赤くなったり。困惑の表情になっていた。


「お前が着ればいいよ……、あたしこんなヒラヒラしたの着た事がないからさ」


クエナを牽制して、断りの口実にしようとした、要するに面倒事を押し付けようとしたのだ。


「わっ、わたしとて無いよ!」


このまま息苦しい姫様役。やらされては堪らないと。クエナも引かない。

唸る二人に、呆れたエルが眉をひそめながら、


「エルは、一応馬にも乗れるが、ミラは馬に乗れるのか?」


「あっ………」


二人は根本的な毎に気が付いて、ミラは嫌そうな、クエナは少し残念そうな顔をしたが、エルは内緒にすることにした。



オーラルが馬車の扱いが一番上手いからと、御者はオーラルに決まり、影武者役はミラが、二人の侍女の内一人をエルが勤め。アロ、クエナ、カールが護衛役に決まって、ようやく出発した。



目指すは、国境の街。フロスト騎士団本拠地がある。城塞都市ベセル。本来の任務は、ベセルでフロスト騎士団と交代する運びになっていた。

馬車の中には、豪華な、衣装着たミラと、以前戦士養成学校で会った。ミレーヌ王女の世話係の女性ジーナ、さらにエルが侍女服を着て同乗していた。


「たく、あたしにも戦わせろよな」


不満たらたらのミラがぼやくが、ベセルまで、我慢してもらう他ない。



色々な要因でミラに決まったが、小柄で短髪だから、ウィッグさえ着ければ。遠目に分からないので。案外悪くない選択である。もっとも馬に乗れないミラでは、護衛役は不可能だったので、仕方ないのだが……、



━━襲撃者は、馬上から次々と矢を放つてきた……、


エルの魔法により、今のところ無事だ、



━━クエナ、カールが馬を操り。隙の出来た襲撃者に剣を使いて。斬り込んだ。護衛役だが、全く武器が扱えないアロは、青ざめたまま、馬車に追走する。



執拗に何度も襲撃してきたが、間もなくフロスト騎士団の駐屯する。町が見えてきた、



とたん……諦めた襲撃者は、素早く馬を反転させて。走り去ったていた。



怪我した者こそいなかったが、今日だけで二度の襲撃を受けた、精神的疲労は━━かなりの物である。

疲れはてたアロ、クエナは早々に休ませ。オーラルとカールで馬の世話をした。まるでずっと見てたタイミングで、


「オーラル様。お疲れ様でした」


冷たく井戸水で冷やされた手拭いと、お茶が用意されていて、有り難く使わせてもらった。


「ありがとう、助かります」


「いえ……その節は、姫様共々お世話になりましたから」


辺りの日はすっかり暮れてしまい。暗い場所で会った、ジーナの声は知り合いに似ていたので、ふっと懐かしい気持ちになっていた。髪いろこそ違うが、とてもレイナに似てる。まさかな……苦笑滲ませながら。冷たいお茶で喉の渇きを癒した。


「お久しぶりですね。確かジーナさんでしたね?」


一息着いたところを見はかり、ニッコリ笑う浅黒い肌のジーナは、夏が似合う気がした。改めて彼女の顔を見ながらレイナを思い出す。彼女は色白で、ピンク掛かった髪色だった、ジーナは赤みのある黒髪だ、どうして似てると思ったのだろうか?、首を傾げた。


「姫様からもオーラル様に、よろしく伝えるよう、承りました」


優しげに微笑するジーナに。失礼と思いつつ。やはり声音が似てる。


「失礼と思いますが、気になったので……、ひとつ伺ってもよろしいですか」


「えっ?、はあ~、どんなことでしょうか」


小首を傾げ考える仕草、やはり似てる。


「北大陸に。ファルバス族と呼ばれる。体術に優れた部族を知ってますか?」


おっとりタレ目なジーナが、驚いて目を丸くした、


「もしやその人は……」


ジーナの言わんとする。先を理解して……、世の中意外と狭いんだよな………、呟いた。


「俺が学生時代の友人に。レイナって子がいました」


パッと顔を輝かせ。嬉しそうにパチリ手を叩く。


「やはりそうでしたか!」


安堵の吐息を吐いていた、意外な反応で、今度はオーラルが戸惑う番である。



━━ジーナが、わざわざ馬の世話が終わるまで待ってたのは、オーラルが共通の知り合いなのか、いまいち確信がなく、でも気になってたから……、それとなく聞くつもりで待ってたと、


「姫様の事件の後、レイナ様から、手紙を頂いたのを思い出しまして、そのもう一度読み返したら……、確信出来なくて……」


照れ臭そうに、呟くジーナ、


「俺も今話してるときの声。レイナに似た仕草でそうかな?でしたから、仕方ないですよ」


「そう言ってくださると嬉しいです♪」


聞けばジーナは、レイナの従姉に当たり。部族は違うが姉妹のように育ったと聞きながら、二杯目のお茶を受けとる。


「レイナ様から……、オーラル様に伝言板があります」


やや不安を滲み出し。ジーナはレイナの近況を語り出した……、それはオーラルにとって、考えもしない出来事であった。



あの優しいレイナが……、北大陸の16部族を統一させ、国を作り、宰相となり、魔王軍と戦う準備をしてると……、


「そんな……、まさか……、何で、そんなことに」


息を飲み、天を仰いだ……、複雑な胸中を、遮るように……、雲が月を覆う。




━━2日後……、港町ドマーニから船で、

リドラニア公国経由にて。ギル・ジータ王国に向かう交易船の船先に。ピンクのワンピース。女性用の丈の短い外套を着込み。目をきらきらさせながら、初めての海に興奮するミレーヌ王女がいた。



その目が見る先は、水面を走る。たくさんの回遊魚を追って跳ねた巨大な尾。黒光りする巨体、盛大に波しぶきが上がる。


「うあ~凄いですの♪、あはははははは」


喜色満面に。高らかに笑う姿を。少し離れて軽装だが、仕立ての良い洒落た服装の聖アレイク王国。ケレル殿下の右腕、カレイラ・バレスと、フロスト騎士団団長ブラレール・ロワイ、顎髭をお洒落に蓄えた。もう初老と言ってよい歳だが、40代と言われても信じるだろう。孫娘を見るような優しい眼差しで、眼を細めつつ髭をしごいた。


「楽しそうでなにより、良かったな」


「そうですね……、それよりも2人ですか?」


ブラレールは小さく頷き、僅かな視線の先、鋭い眼光の男が、明らかにカレイラだけを見ていた。



━━━数日前。アレイク王国。定例会議。



ケレル殿下が、唐突に告げた一言により騒然と顔を見合わせた。



魔王の暗躍……。



他国では事故・暗殺・謀略事件が起きていて、諸外国では、多くの不安を民の間に引き起こしてると耳にしているが……、

殿下はあえて魔王の指が動いてる宣言していた……、まだ尻尾は捕まえていないが、ミレーヌ王女を狙ったテロが始まりである。



数ヶ月前に起こった伝染病……、



それら全てに魔王が関与した疑いがあると言うのだ……。



カレイラに命じて、今まで調べた詳しい内容を記した書類を、重鎮に配布。


記された内容に。息を飲む貴族がいた。



━━一月前……、ギル・ジータ王国で突如。国王含め。王族のほとんどが暗殺された事件があった。


リドラニア公国の不穏な動きまで。


「まさか六将が……」


「北大陸に……、進軍してると聞いております」


カレイラの言葉に、誰しも衝撃を受けて、



ザワリ……、どよめきが走る。予想以上の動速さ。誰しも戸惑いがある。西大陸が平定されて、まだ三年足らずである。


「早すぎる……」


共同の意見である。


「これ以上……、指を食わえて見てる訳には行かない、そこで……我は、我が国に巣くう手を、炙り出そうと考えている」


ケレル殿下の鋭い眼差しで、一同重鎮の面々を見ながら、


「我が妹ミレーヌと、我が国が誇る『オールラウンダー』2人と、その名を使う……」


殿下が言うには、ミレーヌ姫が、ラトワニア神国に親善訪問すると噂を流すと言うのだ。


「それでは……姫様が、危険にさらされましょう……」


エレーナ大司教の不安はもっとも、他の重鎮が同じ思いであることを確認してから、


「敵もそう思うだろう……、だから……、ラトワニア神国の皇子と。妹姫との見合いが行われるからと噂を流し。真実だと誤解させ。囮を効率的に使うのだ」


「まさかケレル殿下『オールラウンダー』を使う、とは片方を囮にする口実にと?」


近衛連隊長セレスト・ブレアの疑問に、一つ頷き。まだ編成すらされてない。


「第1分隊を、使います」


カレイラがケレル殿下の考えを読んで、答えていた。


「魔王の手は、恐らく王都に潜入しているはず。情報を甘く伝えれば、口の軽い者が勝手に流してくれましょう」


「確かに……、カレイラ准将の指摘通りならばな」


重厚な声音。ギルバート・ガイロンはいかにも武人らしく厳めしく。厳かに告げた。



━━ミレーヌ姫の情報を、六将の1人、緑眼の騎士ギラム・ブライドがもたらしたのは間もなくであった……。


幻影の魔女ラグラド・エルバが、


「チャンスね!。あいつ等は何もわかってないわねクフフ♪」


狂喜の光を瞳に宿し、舌なめずりしていた。


「ナタク~、あんたどうするんだい?」


白銀の重厚な鎧に身を固める。銀髪の眼光鋭い男。六将で唯一、魔王ピアンザから、好きにすることを許された者。ナタク・レブロは、




━━西大陸、聖帝サウザンロードの片腕、聖騎士団長だった男で聖騎士の鏡とまで言われていた。ナタクは、なんと自らの手で、仲間を皆殺し、国王までもを殺めた。世紀の大罪人である。

同じ六将だが、ナタクが仲間だと誰も思っていない、まさに異物……。


「まあ~た。動かないつもりよね~」


鼠をいたぶるような、猫なで声で、わざとナタクの神経を逆撫でする。


「やれやれ……」


ギラムがいない間。よっぽど鬱憤を貯めてたか、渋い顔をする。恋人がいないから構って貰えず。嬉々として暗い眼差しを向けていた。調子に乗り過ぎるのは、


「流石にやばいか……、」


いかにラグラドを止めるか……、


「出る。」


あっさりと呟き、眼を丸くするラグラドは、驚いたように、ポカンと惚けていた。二人が見る前で、なんと……ナタクが、笑っていた、とても楽しそうに……、




そして……。




銀髪を、海風にさらしながら、眼差しを笑ませ小さく

`見付けた´ほくそ笑む。



━━蛇を思わせる。粘つく視線が、自分1人に注がれてると気付いたのは………、王都を出てすぐのこと。護衛の二人は直ぐに気付いた。自身だけを狙って来る可能性は高い、ブラレールも同意見だ。が、気になる視線は、一つではない。


ミレーヌ姫を見てる。好意的では無い気配が、確かにあった……、


そちらは、小物のようだ、拐かしの類いか?、



━━リドラニア公国港町で、一泊した日に。ミレーヌを狙った男を捕らえて。リドラニア公国兵に引き渡す。



翌朝━━船はギル・ジータ王国に向かい。出港した……、ミレーヌ姫、本来の親善訪問地である。



「二人の名とは?」


戸惑うギルバート・ガイロン、他の重鎮達に、オーラルの素性を調べた書類を配る。一読して、ケイタ筆頭とシルビア財務官が、何かに気付いた様子だ。


「オーラル・ハウチューデンと親交ある。サミュ・リジル外務官、現国王ギル・エバーソン王と謁見の約束をとってあります」


まさかオーラルと旧友とは……、ミレーヌ王女が襲われた時期が、重ならなければ、ギル・ジータ王国に引き抜かれていた可能性が高いと、カレイラは考えていた。テロが無ければ……、




━━ギル・エバーソンが、国王になったからこそ……、オーラルの有用性は増している。



ギル・ジータ王国を襲った暗殺者は恐らく……ダーク。そう呼ばれる。六将だと思われる。

謎に満ちた人物だが、暗殺に長けた男だと……、言われている。




ケレルの考えでは、


魔王が━━ギル・エバーソンを暗殺しなかったのは………、


自分の敵にならない、可能性が高い、と考えてのことだ。さらに魔王の妻と。2人が友人であったこと……。それがいかに恐ろしいことか、




世界中で、様々な事件が起こる……、

魔王の暗躍……、

表面上の親善訪問とは別に。2人の真意を計る必要があった。カレイラが、その任を任されていた。国内に、巣食う魔王の手も炙り出し、2人の『オールラウンダー』の名を使い、ギル・ジータ王国との謁見を了承させ、オーラルとカレイラを配した、理由だ。



━━━凄まじい異音を立てて、ミレーヌ王女が泊まっているはずの宿が……、


突如半壊した。複数の人間が、殺気を放ちながら、わらわらと集まる中。オーラルは予想通りの襲撃を前に。何故か1人で、待ち構えていた。



その宿は、最初から廃屋だった……、姫役のミラや、他の第1分隊の面々、さらに宿の従業員すら。オーラルが見せていた幻で、今頃みんなは違う宿で、ぐっすり寝入ってる頃だろう……、まだまだ苦労は続く、



不用意に入り込んだ、女の前に、突如現れ。無言で立つ。


「なっ……」


驚愕の声を上げる直前━━、女の急所を一撃して、昏倒させていた。オーラルは女を無力化させ。素早く魔法で拘束。ほんの一瞬の出来事であった。


「罠……」


鋭い殺気が、オーラルに放たれる。


「ラグラドは?」


緑の眼?、心配そうな目線のさき。


「気絶してるだけだ」


注意深く。仲間の安否を確かめつつ、油断なく。剣を構えている男がいた。

それが倒れてる彼女の名前……ラグラド?。


「彼女が、幻影の魔女か……、するとあんたが、緑眼の騎士か?」


「……」


図星のようだ……、


「成る程……、君たちは古代の民か……、するとピアンザは仲間を見付けたのかな……、さて……ピアンザの狙い、聞かせてね」


一瞬殺気が揺らぐ、隙を見せたギラムに瞬く間に肉薄すると、抜き手を見せず。抜き打つ、


かわされた瞬間、上下の連撃。


「ちっ………」


紙一重でかわされた!、身体が流れ。隙を作ったオーラルに、ギラムは、下からの切り上げを放つ、死角からの一撃、



オーラルは勢いに逆らわず。風に圧された紙のように、剣で受け流し。後ろに下がった。


━━ほんの一瞬の攻防。ギラムの力量は、オーラルの剣技を上回るか……、魔法を使う余裕すら与えられない劣勢に立たされた。


「チッ油断した……つつ、女の子相手に、マジに殴るか……、痣になるだろが」


口調と裏腹に、ダメージが残っていて、足元がふらつく。


「ギラム……」


同じ緑眼を素早く。目配せを受け、ギラムがラグラドを捕らえてる。捕縛の魔法を解く。


「解呪」


自由になったラグラドは、怒りで顔を歪め。狂喜を宿した笑みを浮かべていた。まるでいたぶるような口調で、


「あんたは逃がさないよ~」


毒々しく呟いた。対して劣勢にあるはずのオーラルは静かに微笑する。忌々し気に睨むラグラドは、オーラルの背後に居たためその表情に気が付かないが、ギラムは何故か嫌な予感がして眉をひそめる。


「因子を解き放つ」


オーラルは目をギラムから外さない。隙が無いなら……、作れば良いだけ。魔法を解き放った。


「何を……」


ラグラドの足元から、捕縛の魔法が書き変わり、


「きゃゃああああああー!?」


電撃の魔法に変化、焼けた肉の香りが漂う。


「なっ……ラグラド!」


ギラムが解いた筈の魔法が、突如変化した。あまりの毎に。驚愕したギラムは棒立ちになった……、


その隙を見逃さず。一瞬で、懐に入り込み、オーラルは死角から切り上げた━━、


僅な遅滞……、剣で受けに行ったが、僅かに遅く、ギラムの右目を浅く切り裂いた、


「くっ」


視界が朱に染まり。視野が狭まり、切り結ぶ内。徐々に、ギラムを追い詰めて行く、


「剣を捨てな。命は助けるからさ」


投降をうながす。しかし二人が恋人とは知らないオーラルを、凄まじい形相で睨み付けていた。


「はっはっ……」


右目から、血を流し、ラグラドを見ると迷いを見せるギラム、油断なくオーラルは剣を構えている。


「クッ……ここまでだと……、ギリギリ」


魔王の城で見た、現実を思い出した、ここまでなのか………自問自答した刹那。


「ざ……けんな!」


ラグラドの叫び声に、ギラムはハッと息を飲んだ。



閃光━━爆発的な魔力の放出。射抜かれた眼をしばたかせながら、狭まる視界で、見たのは、


突如。ラグラドとギラムが立っていた地面がはぜた……、


「これは……」


背後で、気を失ってると思っていたラグラドは、全身から、血を流しながら、蒼白の顔に。怒りで染めあげ、立ち上がろうとしていた、

ラグラドの眼が━━赤い、オーラルを見つめる。ニタリ不気味に笑いながら見詰め、狂喜の色を宿して。


「傷が……治っている?」


驚く、オーラルの呟きにニタリと笑うと、ヨタヨタオーラルに迫り、


「血を……」


鋭い犬歯が、口から覗いた。


「成る程……、これが幻影魔法か…」


オーラルは、一度瞼を閉じて、解呪を唱えた。迫る気配、狂喜すら眼を閉じて、なお感じた、凄まじい魔法である。



一瞬で、幻影が消えていた━━、


「逃がしたか……」


辺りの気配を探るが……、既に2人の気配は消えていた。


小さく嘆息して、さらに解呪を唱えると、壊れた筈の宿は、ただの廃棄に戻っていた……、



━━暗闇の中。ギラムは魔法で音を消し去り、


「なかなか厄介な……」


「くっ…」


痛みに、苦悶するラグラドを背う。右目を布で押さえ。湿血したが、背に冷たい汗が流れた。ギラムは、背後を伺ったが、追跡は無いようだ……、



一度。帝国に帰還するべきと判断した。


「急がなくてはラグラドが危ない……」


油断したとは言え。二人はオーラル一人に。手玉に取られた事実━━。



悔しさに歯噛みしながら。ギラムは急いだ。



━━2人が、遠ざかるのを見てから、


足音もなく人通りのない雑踏に。女が現れた。身体のラインを強調する皮の服を身に付ながら。何故かおでこに小さく湿布が、貼られていたが……、鋭く眼差しを細めると、部下に合図した。


「つっ……」


痛みに眉を寄せて、宿のある方を睨む。


「成る程━━。殿下やカレイラが、信頼するだけの力はあるようね。嫌な奴だけど……」


蠱惑的な唇を……、不機嫌そうに歪め。チラリ妹の寝る。本当の宿を見上げながら。小さく安堵の吐息を吐いていた。

それから間もなく



━━女の周りに黒衣の者が集まり、六将の2人が忽然と消えたとの報告を受けていた。


「帰還したと見るべきね。あちらは手薄か……」


ケレル殿下の策に、カレイラは自分達以外のおまけを付けていたのだ━━。


「……敵の一掃。探索を開始」


ノルカの命を受け、黒衣の中で、手練れの配下は、無言で消え去ていた。







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