彼女と友との約束事
━━ちびっこエル・フィアンは……、実の両親に棄てられた。
理由は……、
その能力━━。
人の心を、見てしまう力を、両親は理解出来ず。気味悪がり、ケイタに相談した……、
━━ケイタは迷わず。エルを養女に迎えた……。
ケイタには実子の双子の姉妹がいた、不安に思ったエルを義母シルビアも優しく迎え入れてくれた。
……すんなりと、二人の姉となったエルは、とても幸せな時間を過ごした……、
━━不幸だったのが……。非凡な才能を秘めていたこと。僅か6歳の少女は、片鱗を発揮してしまう……、魔法の天才ケイタの側にいたため能力が、開花するのが早くなってしまった……。
不幸であるとケイタは酷い後悔と。懺悔の言葉を呟き。オーラルにすがった……。
━━自分を助けてくれたオーラルならば……、
━━大切な娘も……。
エルはケイタの不安を他所に。アレイ学園を僅か一年で卒業してしまう。聖アレイク王国の歴史上でも。最年少にて、宮廷魔導師に選ばれたのは、エルがまだ9歳の頃である。少女がだ……、
エルには、人並みの友人関係を築く時間も。大人に甘えて良いのだと言う考えすら与えられず。同じ宮廷魔導師ですら、エルの能力を恐れた……、
━━エルは……、人々の心の本音が聞こえた………、自分に向けられる沢山の悪意に。不安で不安で……、
1人で過ごす事が増えたのは━━、
━━エルは養女とは言え。双子の姉妹は、義姉エルになつき、ケイタは優しい父親であると聞いている。
エルは、幼いながら、両親や姉妹に、心配掛けたくないと考えた……。
毎日毎日……広大な駐屯地を、たださ迷っていたのはだ━━。
オーラルは、静かに吐露する。苦労人は健在であるようだ。
━━オーラル達に、急に休暇が与えられたのは、第1分隊に入隊して僅10日が過ぎた頃である。
なんでもアロ中隊長が、大きな手柄をたてたと言うことで、第1分隊全員に。3日の休暇が与えられた。オーラルが、やたらアロ中隊長に感謝されたのは、以前の砂糖に関することであった、多大な利益を、カレイラ師団にもたらしたらしい……、
何はともあれ、これで約束通り、リーラ侍祭を誘えるな。夕べ遅くまで、兵舎の片付けたをしていて、帰りが遅くなったが、早朝の鍛練を終えてから、週末行われてる。朝のミサが終わる時間を見計らい、オーラルは大聖堂を訪れていた、
顔見知りの見習い(シスター)がいたので、
「リーラ侍祭はいますか?」
……ざわざわ……、
何故か、沢山の視線を感じた。フロスト騎士見習いからも何故だ?、戸惑うオーラル、間もなく真っ赤な顔のリーラがすぐにやって来たのだが、やいのやいの何故か女の子達に囲まれていた。風邪かな?。リーラの顔が赤い気がする。楽しげな黄色い笑い声がするから、どうも病気とは違う気がするが……、
戸惑うオーラルの肩が、不意に叩かれる。振り返ると、何故か、騎士見習いが、ガッツポーズをしていた、何がしたいんだ?、とりあえず頷いてやると、満足そうに去って行った、意味が解らん……。
「オーラル様、お待たせしました」
やや緊張するリーラは、やはり赤い顔をしていた、珍しく化粧が施されていて。印象がだいぶ違う。
「とてもお似合いですよリーラ……」
素直な謝辞に、首筋まで真っ赤になるリーラは、大きさの合ってない眼鏡を直しつつ。
嬉しそうにはにかむ。
「あっ、ありがとうございますオーラル様……」
少しだけ嬉しそうに笑っていた。でも好奇な目に晒され。何となく足早になったリーラを連れだって、二人は早速出かける毎にした。
「オーラル様どちらに行きますか?」
緊張を隠せないリーラと並びながら、通称職人通りと呼ばれる。都の西側に向かって彼女の歩調に合わせてゆっくり歩くオーラルは、にこやかな眼差し向けて。
「それ」
と答えて、悪戯ぽく笑っていた。
「えっと……それとは?」
戸惑う、リーラを連れて、2人は、職人通りと呼ばれる。小さな裏通りを歩いていた。
小さな通りと言っても。金物屋、鋳型屋、硝子細工、アクセサリーのお店、洋服の生地屋、皮を使った製品のお店、中古の武器屋まで、大小のお店が所狭しと乱雑に並んでいた。
露店まで含めると、数百近く店が、小さな通りにひしめぎあってるらしい。らしいと言うのは、姉の口癖だからだ。
ほどなく小間物屋の看板を見つけて。リーラと中に入る。
「今日は~、オリバーさんいる?」
店の奥から、華やかな笑い声が聞こえて来た。姉と誰か仲のよい友人が来てるのだろうか?、
「おや。オーラル君、久しぶりだね~」
仕事場の作業台のある。店の奥から、ひょいと白い物が混じる。人の良さそうな店主が、顔を出していた。くすんだ前掛けで、真新しい光沢のある。銀細工を丹念に研く。前掛けの端が……、鞣した革で作られていて、簡単な研きが出来るよう作られていた。
小間物屋の主オリバーさんは、父の親友だった人で、
━━あの姉を雇ってくれる。優しい人だ。
「お久しぶりです。オリバーさん、母さんに聞きました。急な頼みなのに、もう出来てると聞いて……」
やんわり優しい眼差しのオリバーさんは、傍らのリーラに気付き目尻を下げていた。
「彼女のサイズ合わせに、連れて来ました」
ああ納得したように、柔らかく微笑み眼差しをリーラに向けていた。
「君が、噂の聖女リーラ嬢ですね」
「えっ……、え━━━━!」
カーッと真っ赤になり、悲鳴を上げた。まるで……。
釣り上げられた魚のようにパクパクしていた。
リーラ本人は知らないが、熱心なアレイ教信者からは、密かに聖女リーラと呼ばれていたのは聞いてた、息も絶え絶えだった。
「そっ、そんな、わっわわ」
慌てるふためくリーラを好意的な眼差しを向けて、オリバーさんは目を細めてから。
「あははは済まないね、ララから聞いたのだが、有望な侍祭がいると誉めてたよ」
「そっそんな……ララさんが」
何時の間に母さんと……、嬉しそうにはにかむ姿は、素朴な可愛らしさのある。魅力的な女の子である。リーラが落ち着いたのを見はかり。
「ミリアさん、オーラル君が、取りに来ましたよ~」
店の奥に声を掛ける。
「はあ~い、うん、そう弟、え~~見たいとか、あんたも物好きだわね」
パタパタ2人分の足音が、聞こえて来た。
「オーラル休みなんだって………」
夕べ遅く、帰ったから朝も姉と顔を会わせなかったからな~、帰ってたの母さんに聞いたのかな?、リーラに気付いた。
「リーラあれがうちの姉だよ」
「はっ、始めまして、リーラ・エスベリアです」
姉が一瞬驚いた顔をしてたが、元来の人好きする性格だからか、すぐににこやかに笑い。
「うんうん、母さんから聞いてるわ。ミリアよ♪」
緊張隠せないのか、頬に赤みが差していた。ミリアは優しくリーラの手を握る。
「ミリアさん………、そちら……が、ってまさかオーラルなのか?」
驚きの声があがったが、その声に聞き覚えがあった、思わず世間の狭さを感じていた。思わず苦笑を滲ませた。
「クエナさん……」
今度は、姉が驚き、友人の顔を見ていた。何故かリーラが不安そうな顔をして、睨まれた……何故だ?。
「ここで立ち話もなんだから、奥でお茶でも飲みながら、みんなで話してはどうかな」
オリバーさんに柔らく言われて、四人は顔を見合せると。お言葉に甘えることにした。
お店の奥には、オリバーさん。自慢の温室ラウンジがあって、季節に関係なく花を愛でながら、お茶を楽しめる。小さなスペースが作られていた。常連は買い物より。お茶を楽しみに訪れると姉が自慢していたけな。
お店に何度かお邪魔していたが、ラウンジに入るのは、これが初めてである。姉がお手製のクッキーを出してくれたので、礼を述べリーラは早速一口。
「美味しい……」
「でしょ♪、オーラルの友人に、ギル・ジータの王族がいてね。毎年蜂蜜が送られて来るから、ふんだんに使えるのよ」
「蜂蜜使ってるんだ♪……て、王族が友達って……」
クエナがミリアの話を聞いて、目を白黒させたが、ミリアもオーラルも気にする話でもない。やがて馴れたのか、甘い物があれば、女の子3人。直ぐに打ち解ける。
「あっ、あのクエナさん……」
「ん?」
何故か………二人は、急に小声で囁きあった。暫くして、リーラは安堵の吐息をついていた。どうしたんだろうか?、気になるな。
「あっ、そうそうオーラル。これが頼まれてた眼鏡ね」
ミリアは店に戻って、出来上がって、お客さん待ちの品々の中から。小さなケースを取り出し。オーラルに渡した。
「ありがとう姉さん」
ケースを開けて確かめてから、そっとケースごと中の眼鏡をリーラに見せた、
「あっ……、」
驚くリーラ。ずり落ちてサイズが合ってない眼鏡をミリアが外してあげると。
「さっそく着けてみてね。サイズ合ってないようなら、すぐに直すからさ」
「はっ、はい………」
おずおず……、ケースから真新しい眼鏡を取り出して、恥ずかしそうに俯きながら着ける。あつらえたようにピッタリ顔にフィットしていた。
「うん、とても似合うよ。リーラ」
サラリと嬉しい言葉を言われて。とても嬉しそうな顔をしたリーラは。
「あっ、ありがとうございます!、でも………、こんなに高価なの、本当に良いの……?」
妙に嬉しそうに微笑したが、フッと顔を曇らせ。心配そうな目をした。
対面に座っていたミリアは、サイズの合ってない眼鏡を置いて、小さく笑う、
「心配しなくても大丈夫よ~」
オーラルに目配せして、リーラに種明かしをした。
「その眼鏡はね。元々マジックアイテムだったんだけど、オーラルが友人のケイタちゃんから、魔法の効果は無いけど、まだ普通に使える眼鏡なんだけど。廃棄する予定のをただでもらって来ただけなのよ。だから安心してね」
「それを姉さんと、オリバーさんに、直してもらえるよう頼んでたんだよ」
「そう言う事なら……、ありがとうオーラル様……」
安堵の吐息と、真新しい眼鏡を着けた自分を、鏡で見ていたる。
「へぇ~似合うじゃないの、流石オリバーさんね♪」
感心する姉に。オーラルも同意した。
「見事な腕は、相変わらずだな」
クエナも訳知り顔である。
━━もっとも。ケイタからの頼み事からすれば……、
高価な眼鏡で済むなら安い物だ………、
━━エルは今頃、実家に帰ってるころかな。
『へぇ~、元は魔法の眼鏡なのか』
シンプルな銀フレームの眼鏡だったが、オリバーさんに頼み、今風に直してもらったのだ。
『ケイタとは……もしや!、宮廷魔導師筆頭の……』
クエナの妙な感心が、漏れ聞こえてきた。何故小声なんだ?。
『あっ、エレーナ母様から、聞いた事があります。オーラル様とはご学友だったとか』
『おおー成る程、オーラルは、顔がやたら広いからな』
訳知り顔のクエナ、楽しげなミリア、好奇心いっぱいのリーラと三人は、やたらオーラルの話で盛り上がる。クエナが、先日の商人との経緯を話して聞かせれば、リーラは、オーラルと知り合った経緯、南大陸まで、伝染病の薬を運搬した話等を。聞かせていた。
『そう言えば、あの子ワイバーンも狩ったらしいわね』
何故姉が……、それを知ってる?、驚くオーラルを他所に、『オールラウンダーの』試練にやたら詳しかった。
『おお~ちょっとした冒険譚だな』
正直なクエナの感想は、三人の思いも同じであった。姉とクエナの二人がやけに仲良いなと気になって、この機会に聞いてみた。
「まさかオーラルが、ミリアの弟とは知らなかったな………、よくよく考えたら、上の名前知らなかったよミリア」
「ん~だったけ?、私達わりと付き合い長いのにね」
朗らかに、笑い合う、
楽しい時間は瞬く間に過ぎていった………。
「そろそろ戻るよ」
クエナさんが、おいとまを告げたのを期に、オーラル達も店を出た。
━━夕方の町並み。
「リーラ……、君さえ良かったらさ、もう少し歩きませんか?」
このまま帰すのは、何だが勿体なく感じて、リーラを誘う。
「はい、そうですね♪」
嬉しそうに微笑んでいた。
二人は、楽しそうに話ながら歩き、赴くまま中央公園に向かう。
━━王都民の憩いの場である。公園の南側入り口は、林道になっていて、週末は市場がたつのだが。
「もう夏至祭が近いのね」
初夏の朝市の後だが、気の早い屋台が、早くも立ち並ぶ。だからリーラと見て周り、お昼はクッキーだけだったから、軽く食べ歩くことにした。
「この揚げたパン美味しいわね♪」
「うん。リーラお茶でいいかな?」
「はっはい」
冷たいお茶を買って来て、木陰のベンチに座った。
「ヤーダー♪。マジで~カールたら」
やたら甘ったるい声が、聞こえてきた。
「カール?……」
急に立ち上がるリーラは、真剣な顔をして、辺りを伺うと。
厳しい顔で。噴水の側にある屋台を睨み付けていた。唇を強く噛み締め。何かを思い詰めた顔をしていた。
気になって、リーラの見ていた。屋台の側に向けると。パラソル付きのテーブルが幾つか置かれていて、その中に数人の女の子達に囲まれた。制服姿の軽薄そうな男を見つけた。途端リーラの表情が強張る。強い眼差しで、なぜかスタスタ男の前に立つと、
「兄さん!」
怒った顔で、今にも男に噛みつく勢いであった。訳も解らないオーラルも、とりあえずリーラの側に立った。軽薄そうな男は、顔を上げ軽く驚き、目をしばたいた。
「ん~?。おお~リーラか、久しぶりだね~」
お気軽に手を振るも。自嘲気味にヘラヘラ笑う。リーラはそれが我慢ならず。
「兄さんいい加減にして!、母さんが……、心配してるのよ。お願い兄さん。戻ってきてよ」
何かに堪えるように……、今にも泣きそうな顔をしていた、それでいて兄と呼ぶカールを睨んだ。
「え~や~だ~、カールの妹さん、あんまり似てないわね?」
女の子達に言われて。皮肉気に肩を竦めていた。まるで自嘲するピエロのように……。
「そうさ、僕に似ない。優秀な妹だよ~」
軽薄そうに笑う、何かを諦めて、まるで言い訳するかのような、乾いた眼をしていた。
「ん?~……あんた、リーラの彼氏かい?、どこの部隊だい」
目敏く。オーラルに気が付いて、制服は着ていないのだが……、
「当たりだろ~あんたは。僕の階級校章見たからさ~、軍関係だと誰でも解るさ~」
……なかなか注意深い人間のようだ。
「カレイラ師団第1分隊所属、新人の少尉です」
オーラルの答えに、やや意外そうな顔をしてたが、皮肉気に笑いながら、
「僕はカール・シタイン。君と同じ、第1分隊所属の少尉だよ~後輩」
さっき……、
思ったが、
世の中………、てのは、意外と狭いものだ。小さく嘆息していた。
この男が、エレーナ母様の実子だったか、昔母に聞いたことがあったな……、
「またね~リーラ~、母さんにはそのうち~。顔出すと伝えといて~」
数人の女の子引き連れて、カールは何事もなかったように……、雑踏に消えていった。しばらく兄の背を見ていたリーラは。何かに堪えるような顔をして、雑踏をしばらく睨んでたが、
「ごめんなさい……、私…帰りますね」
泣き笑い顔のリーラを、大聖堂まで送り。奇妙な1日が終わった。




