友との約束事
「ああ~なるほど。道場潰れたんですね♪」
「てめえ………、いきなりご挨拶だな」
伝法な物言い、獣のような体躯、筋肉の付け方から。相当鍛えてるのが分かる。
━━━が……、
昔のような、ゾクゾクした。抜き身の刃のような、触れれば殺されるような恐怖を覚えない、
『今と昔か………』
当時は、血に飢えた獣のような眼差し、いつも勝利に貪欲で、常に相手の隙を伺うような感じで。誰も信用しない。探る目をしていた……、
だから彼女は周りから疎まれ。嫌われていた…。
あの当時。彼女は常に独りだった。
だが……。
それでもミラ先輩は、孤高の美しさに輝いていた……。
これでは……ミラ先輩は、ただの飼い猫だ……、
失望していた。
いや怒りすら覚えた、
だから……、
「弱くなりましたね先輩、残念です……」
わざと挑発する言葉を。ミラに投げ掛けた。
「テメー…」
ギリギリ……、
機嫌の悪かったミラは乗っかる。
「上等だ、今からたたんでやるから。裏にこいや!」
「ちょ、2人とも、たっ、隊長」
殺気立つミラに慌てるクエナ。それを放ってなお余裕の笑みを浮かべ後に続いた。内心でオーラルはほくそ笑む、
どうやら隊舎の裏側は、鍛練場となっていて、人数のいない第一分隊では、全く使われた形跡は無い。
「覚悟しろや、テメー、吐いたツバ飲むなよ、ハアアアア。オラオラオラ」
怒りが加わる。気合い入れた鋭い眼差し。
ユラリ、ユラリと左右に身体を揺らしながら、独特の歩方で。瞬く間に。オーラルが身構える前に、いきなり突っ込んで来るや、ズサザッ滑るように飛び込み。一瞬の飛び込みで、オーラルの懐に入る。
━━かと見せ掛けて、闘気だけ飛ばす業。本人は逆に気配を消して、オーラルの死角に入り込み。左右からの連打。
最早見慣れた技である。オーラルはバックステップにて、あっさりかわしていた。
「チッ、口だけじゃねえのかよ」
かわされたと見るや。素早くバックステップしてから、ミラはしゃがみこみ。前に出たオーラルの意表を突いた水面蹴り、
腕でパーリングしたが、しなやかな鞭のような蹴りを受け、軽く痺れた。
ミラは受けられた瞬時。追撃に出る。ひょいと腕の力だけで、二度目のムーンサルトを放つ、
ふわり風が木の葉を巻くように。
蹴りをかわしたオーラルに。今度は前中からの浴びせ蹴りを放つ。体勢を崩しなが何とかかわしたが、今度は片足を上げた体勢から、膝を柔らかくしたミラは、オーラルを追いかけるように。蹴りが伸びてきた。
仕方なく後ろに飛んだオーラル、
「よっと。へっ、今のもかわせるのかよ」
ニヤリ獰猛な肉食獣の笑みに。背中がゾワゾワした。
二人は喋りながらも動く。フェイントを入れながらの連打、廻し蹴りの爪先が、オーラルの前髪を揺らしていた。
ミラは接近戦から、肘打ち。避けたオーラルに、打ち下ろしの裏拳。ミラの腕を取りに行くが、ひょいっと手を引いて、離れた。オーラルは素早く体制を整えた。
「すぅ~~はぁ、ハアアアア!」
呼気を吸い込み。鋭く吐き出して、素早く溜めを作ると。ミラの体内に凄まじい勢いで魔力が溜まる。
「ガアアアアアアア!?」
魔力が爆発的に両足から放たれ。一瞬にしてオーラルの懐に飛び込む。
ミラの得意魔法。身体能力アップによって、常人ならば二倍のスピードで動き、三倍の攻撃を可能とする。しかしミラの場合だけは少し違う、素早さは常人の三倍、攻撃は実に六倍に上がる。
目にも止まらぬ連続パンチ、オーラルの視力では、僅な残像を捉える程度だが、身体能力アップによってうまく弾く、ミラの気が一瞬外れた。オーラルはチャンスと膝蹴りが、ミラの腹部を狙って放つ。
決まるかと思ったら、あっさりかわしていた、ゼロ距離の間合いから。必殺の撃ち下ろしの肘が放たれていた……、
ゾクリ、ヤバイ。オーラルの死角から、見せかけの肘打ちから同時に、膝蹴りを放つ。
ミラの必殺技『破砕』(はさい)である。
ミラの身体能力アップからの攻撃は全て、当たれば必殺である。手首を使ったパンチ、膝、肘の攻撃の全て、オーラルは紙一重で受け流し、なおかつかわしていた。しかも体制を崩したミラに、前蹴りをまともに食らわせるおまけ付きで、
これには予想外の破壊力があって、ミラは防御したまま吹き飛んでいた。
「くっ……、なによこの破壊力は」
防御したにも関わらず。ダメージを受けていた、痛みに顔を歪ませたミラは、怒りを顕にしていた。
「ちっ、こんなまぐれ当たりで、勝った気になるなよオーラル!」
━━確かに、技の一つ一つのスピード、破壊力こそ学園にいた頃以上である。当たればオーラルとて、相当なダメージを受けるだろう。
━━そう……当たればだ、ミラは確かに強い。ただそれだけで、今は怖くはない━━。
あの飛竜ワイバーンのような絶対的な恐怖も。ターミナルで戦った。はぐれワームのような、強靭な肉体もないミラは、所詮只の人でしかない、人ならば、癖や足の運び、呼吸の仕方。構えから次の動きが予測が出来てしまう。
今やミラは、それだけの強い武道家に、成り下がっていた。
それだけに……、
とても残念に思う、
『ミザイナさんと対極にある才能』
ミラ先輩なら、必ずまだ強くなれると確信した。
「先輩……残念です。やはり弱くなりましたね……」
地面に、這いつくばり、血の混じる唾を吐きながら、喚く。
「何でだよ……、嘘だろ……」
何かにすがろうとするミラの心を砕くように。
「ミザイナ先輩は、今の俺よりも強い……、きっと哀しがりますよ」
残酷なトドメ、だが、ミラには必要だと感じていた。
「これが……カレイラ准将と同じ『オールラウンダー』の力?」
蒼白に身を震わせる。クエナ、何時の間にか来ていたようだ。ミラの横を通る時。クエナだけに囁く。
「夕飯の支度します。泣き止んだら……、ミラ先輩も連れてきてくださいね」
優しく気遣う声音。驚くクエナに、苦笑滲ませるオーラルのお願だ。
「わっ、わかった」
どぎまぎしたが寂しげな横顔の。オーラルを見送っていた。
既に買い出しの点検を終えて、倉庫に綺麗にしまってくれたアロ中隊長は、食堂で何やら嬉々と大量の紙を持ち出して、鬼気迫る勢いで、何かを書き出していた、青白い顔だから、
余計━━不気味に映る。
オーラルは倉庫に行って、材料を物色しながら、思念を広域に送り出していた。
”美味しい料理をしますから、遅れないように”
オーラルは手早く、5人前の料理の準備を終える時だ。
「オーラル、エル来たぞ!、お前の心辿れたから迷わなかった」
ちびっこは元気である。
`お皿の用意頼めるか?´
「わかった♪」
素直に従うエル。身長が低いからか、食器棚から苦戦しながら、人数分のお皿を用意してくれた。優しい子なのだ。
「大丈夫だからね」
エルと入れ替わるように。クエナが、ミラを気遣いながら食堂にやってきた。オーラルと目が合って、ヒクリ泣きそうな顔をしていた。
「うっ…だって……」
不安そうなミラを宥めながら、どうにかテーブルに座らせるクエナ。オーラルは小さく頷いて、
「さて、久しぶりの再会です。少し豪華にしました」
腫れぼったい顔のミラの前に、デッカイ鳥の丸焼きを置いた。
「これ……」
驚くミラに、片眼を瞑り、オーラルはさらに沢山の料理を次々と並べ始めた。
━━━結局。アロ隊長は、最後まで何も口にせず。ぶつぶつ言いながら帰った、
「なんだろうあの人は?。」
ようやく覇気が出てきたミラは、帰る直前、軽くオーラルの胸を叩き、
「強くなる。ミザイナより………」
ミラ先輩の目には、かつての━━野獣の眼差しが戻りつつあった。
「ミラ先輩なら大丈夫」
小さく笑う、オーラルに対して、ばつが悪そうに赤い顔しながら呟く、
「だから……待ってろ」
それだけ言うと走り去っていた。
食堂に戻ったオーラルの耳に。少し迷うような声が聞こえた。
「エル泊まる。クエナいいか?」
不器用に尋ねていた。クエナは優しい顔をしていた。
「構わないわ、貴女の部屋は用意してあるから」
気遣うよな優しい口調である。そしていきなり抱き抱えられて。エルはクエナの膝に座わらされていた。エルの顔に戸惑いが浮かんでいた。
「女の子なんだから、髪くらいすかなきゃね♪」
慣れた手つきで、エルの髪をすいてやる。
「ありがとう……クエナ」
いつの間に………、感心したオーラルは、よしっと腕捲りして、片付けを始めた。
その間も二人は、少しずつではあるが、何か話てる様子ある。まるで久しぶりに会った姉に、恐々なつくような姿である。
紅茶を二人に入れて食堂に戻ると、すっかりエルはなついていた。もともと甘えたい年頃のエルと、優しい性格なクエナ、波長が合ってたのだろうな……、
「ケイタとの約束。少しは果たせるかな?」
柔らかな笑みを浮かべ。囁くように呟いていた。




