予選会2
『試合開始!』
合図と同時に。二人は飛び出す。
オープニングに相応しい。素早い攻防が始まった。
━━━後に……。
あまりの見事な攻防は、語り草となる。
まるで……舞踊を見ているようだと……、
25年後……。この二人の戦いが元に。あるコンテスタが開催されるが、それは未来の話である。
5分以上続いた、二人の攻防は……、スタミナで劣る。オーラルが敗れた━━。だが、見応えある試合に。盛大な拍手が二人に送られていた。興奮冷めやらない中━━。
剣と拳闘の予選大会は、終了した。
明日は、弓の競技会と、槍の武芸大会予選が行われる。
「先輩!、お疲れ様でした」
満面の笑みで、興奮に頬を赤くしたケイタが出迎えた。
「ん~さすがに疲れたよ、明日休みたいが……」
ギロリ、ピアンザに睨まれてしまい。首を竦めた。
「明日?、え~と先輩、明日なにかあるんですか?」
当然の疑問に。部隊の面々は顔を合わせて、仕方なく代表してオーラルが答えた。
「まあな。俺とピアンザは、明日の午前中に。弓の競技会予選と、俺は午後から槍の予選に出るんだよ」
「まったくこいつは……個人ポイントのためとはいえ。無茶をする」
呆れた口調のミザイナに睨まれて、頬を、かきながら、
「ぼちぼち1ヶ月分の食堂無料券の期限が、切れるからね~その分ポイント稼いどかないと♪」
軽口を言って場を和ませようとしたオーラルをジロリと睨み。
「よく言うわね……」
まったくこいつは、呆れた顔を浮かべていた。チクリと釘を刺すのも忘れない。
「3ヶ月分はまだ、余裕にあるだろに……」
ミザイナの指摘に。肩を竦めて。
「まあね~、」
気楽に笑い、頭を描きながら本音をポロリ。
「後、三年はあるから~稼げる内に。沢山稼がないと、四年になるとそうもいかないしさ」
眠そうに、あくび連発しながら。さも当然のように言うオーラルを。
「全く。呆れた奴だ……」
眉をひそめながら、それでいて頼もしげに。唇を綻ばせる。
「え~と、もしかして先輩は、卒業まで、ただ食いしたいから、頑張ってるとか?」
恐々、当然浮かんだ疑問を口にした。他の三人は顔を見合うが、オーラルの視線に気が付いて、了承に頷いた。レイナが、捕捉すように。にっこりぽやぽや。日溜まりのように笑いながら、
「あったり~、オー君。入学式の初日以外、1クールも使ってない強者だよ~」
さっきまでの死闘が、嘘のような、元気一杯のレイナのポワポヤ、口調に戸惑いながら、
「それは凄い!」
素直に感心していた。しかしピアンザはケイタの耳元に顔を寄せて、
『ぼくとオーラルは、自分で、稼がないとならない環境なんだよ』
「えっ……」
意味深な囁きを聞いて、ケイタはただ戸惑うばかり、ピアンザは全部言ったぞと、1人納得して頷いていた。
━━翌朝。
ミザイナに誘われたケイタは、学園内にある。森の中の訓練場に来ていた。
適度に開けた広場の周りには。普段部隊戦や。クラスごとに行われる。部隊訓練用の障害物等があった。
「平時は、ここで弓の訓練にも使われている」
かいつまみ簡単な説明をした。辺りを見るが、早い時間だからか、あまり観客はいない。静かな会場に。僅かだが目の肥えた仕官らしき。制服姿の将兵が見守る程度。弓の競技会に参加する生徒が、集まっていた。
ピアンザ、オーラルの二人は、黒髪と目立つので、すぐ見つかった。随分と参加人数は少ないようだ。
ミザイナ先輩に聞いたら。弓の競技大会は、4競技の中で、もっとも参加人数が少なく。僅かに40人ほどしかいないとのこと。
「ケイタ。君は今、人数が少ないから、二人は余裕で勝てると、そう思っただろうね?」
心情をずばり言い当てられて。びっくりしてると。唇を綻ばせながら、
「実は、私もそう思ってたんだよ、あれで中々。弓技の競技会は、様々な技術を必要とする。難しい競技なのだよ」
そう言い置いて、
「それに弓技だけは……、剣、体術みたいに。まぐれ勝ちはあり得ないから。参加人数も少なく。玄人ばかりが集まる」
そう説明され。ゴクリ唾を飲み込んでいた。
予選は、8mの離れたところからの速射、20m離れた遠射の2競技が行われる。
的である。藁人には、人体の急所に8つの的があって、これに当てるだけの。楽に出来そうな競技だ。だが採点方法は、矢をつがえ。構え。放つスピード。的に当たった数、的に当てた場所により得点が変わる。
ただし、自分の矢を壊したら減点となる。
グループ毎に競技が行われるため。一列5人づつ並び、同時に、速射から行われた。
2つの競技を終えたグループ毎に。得点上位者2名が発表されて、二回戦に進める厳しいものだ。
ピアンザが、最初のグループにいて、1人だけ次元の違う技量に、周りが霞んで見えていた。
オーラルは第三グループで、無駄のない正確な速射で、危なげ無く得点をか重ね。遠弓も減点なく。二回戦に進出した。
二回戦は、さらに5m距離が伸び、13mある的を狙うが、白線まで走って移動してから。矢を射るのだが、一本を8クオール(8秒)以内に、矢を放たなければならない、
さらに二回戦は、3射の内、的に一本でも、当てれば、優秀なのだそうだ。
それをピアンザは三本、オーラルは二本的に当て、決勝進出となった、
決勝は、明日行われると説明された。
「時間がないから。俺は先に行くからな」
三人に言い置いて、オーラルは、慌てて走しり去った。
「相変わらず忙しなオーラルは……、ピアンザも見に行くのだろ?」
汗一つかいてない、ピアンザは
「ああ、そのつもりだ、でも先に昼にしよう……」
「そうだな、今頃
レイナも起きて、食堂にいるだろうし、ついでに誘うか、ケイタもそれでいいな?」
「えっと、はい……、でもいいんですか、先輩の応援は……」
チラチラ演舞場を、気にしているケイタに。二人は苦笑を隠せない。
「大丈夫さ。オーラルならな」
自信タップリにミザイナは言ってから、まるでひきづられるように。ケイタを食堂に連れ去って行った。
学園の食堂は、全部で四ヶ所あり。学舎毎の生徒で、ごった返していた。人気のある。窓際のテーブルに、ピンク掛かった髪の可愛らしい少女が1人佇む。端で見れば非常に絵になるレイナが、何故1人で陣取っているかと言えば……、テーブル中にデーン、デデ~ンと効果音がありそうな。テーブルから溢れる程。大量の皿が、テーブルに所狭しと並ぶ。あまりの量に。ピアンザが呆れ、ケイタは目を丸くした。
「ミザー、ピア君おはよ~。草むしり君もついでにおはよ~♪」
ほんわか、ポヤポヤ、朗らかに笑う、
「あっあの……ぼくはですね……」
「みんなも食べるでしょ?」
「そうだな、諦めてピアンザも食べようか……」
「だからぼくの話を……」
「ケイタも食べよう、……ん?、どうかしたか」
落ち込むケイタを、ピアンザが不思議そうに認め。首を傾げた。
「……何でもないです」
何だか悲しそうに呟いていた。
━━豪華な昼食の後、演舞場に着いた4人は、白熱の予選会を観戦した。
剣や体術の大会と違い、槍の大会は、とにかく技が多彩で、目が離せない。息も着かせない早い攻防は、見ている方は、息を詰まらせるほど、最後の試合が終わり、ベスト8が発表された。オーラルは辛くも勝利して、明日の準々決勝に、進出を決めていた。それに伴い。学園側も異例の処置を発表した。
『オーラル・ハウチューデンは、全ての競技で、ベスト8に進出するという。快挙を達成した。よって!、特別ボーナスを設定した。学園として新たに複合優出ポイント50を、個人、部隊ポイントに加算する!』
突然のボーナス宣言である。生徒はどよめいた。様々な憶測を飛ばしだした生徒達の反応を見ながら、教頭のバレンタインは、気弱そうな表情とは裏腹に。学園長のエドナ筆頭がなされたことは、学園側にも、大きなメリットがあったのも事実、些か胸中は複雑ではあるが……、効果を認めないわけにはいかない。
この数年━━弓、槍大会の出場者が減っていた。その抑制と新たなポイント導入で、話題性を求めたのだ、
『さらに、複数の競技に出た生徒には、個人5ポイントが加算される事が決まった』
一石が投じられ。大きな波紋を広げていった。
例えば今年ならば、体術の部出場だけでは、従来参加ポイントの3ポイントだけである。
━━だが、剣の部、弓の競技大会、槍の部のどれか複数にエントリー、これに参加してれば、それだけで参加複合ポイントとして、基本の3以外に、5ポイントのボーナスポイントが、付くと言う……、
オーラルならば、参加競技の3ポイント×4つで=従来の12ポイントだけが……、
ボーナスポイントまで加算されると。複合5ポイント×4つ=20ポイントが別に付くわけだ。それだけで個人37ポイント稼げたことになる。
先ほどのバレンタイン教頭の話通りなら。オーラルのように部隊の1人が、複数の大会にでて、ベスト8に入れば、今回特別ボーナス50ポイントが、部隊、個人に加算される……。これは非常大きい……、大会に参加するメリットにもなる。
今までのポイントを合わせると、個人で207ポイント稼いでいて、さらにベスト4に3つも入賞しているから。60ポイント加算され。トータル267ポイント稼いだことになる。
個人ポイントだが、大会や授業等で、貰えたポイントの半分が、部隊ポイントに加算される。しかしボーナスポイントの50はそのまま加算されるから、217ポイントの半分。108ポイントと合わせた。158ポイントが部隊ポイントに加算されたと言うことになる。
これはミザイナにとって朗報だった。ざわざわ学生の目の色が変わる。勉強の苦手な貴族にとって垂涎物。苦学生には、貴族、資産家の子息子女に。ポイントで交換した。様々な特権を売るチャンスである。
「あれ……先輩、囲まれてますね……」
学生の裏事情を知らないケイタは、キョトンとしていた。それに微苦笑しながら、
「あいつらは、貴族や資産家の子供達さ、赤点間際で苦労してる進学組で、オーラルが、手にしたポイントと交換出来る特権を。金銭で買おうとしてるんだよ」
「えっ……エ゛━━!?、いっいいんですか」
驚き戸惑う新入生に、少し迷い、三人と目配せすると。ピアンザ、レイナが頷き、仕方ないな、溜め息を吐いた。
「実はな……」
槍の大会予選の閉会が告げられ、大会に参加してた、生徒が早々に外に出ていく。
━━何人か、オーラルの元に残り、交渉が上手く行って、様々な特典をゲット出来た。貴族・資産家生徒は、もう満面の笑みを浮かべてる。一方で競り負けた生徒達は、憎々し気に特典を得られた生徒を睨み付ける構図に。呆然と息を飲むケイタの目が……、驚きに見開いていた。