少尉ですが何か?
プロローグ
━━━聖アレイク王国の東。
この広大な土地は
かつて、王家に連なる名家、エトワールが家が、長年所領していた広大な土地である。
現在━━━。
カレイラ師団の所領となっている。
カレイラ・バレス准将とは、『オールラウンダー』の称号を持つ、次期国王ケレル皇子の右腕である。
しかしカレイラにも悩みは尽きない……、
一番の悩みは、師団のこと。大望故に様々な困難に晒されていた。その最たる物は、設立して日が浅いことだ……、
いまだ兵は少なく。多くは戦士養成学校の卒業生と引退間近の兵士が多く、これから先主だったカレイラ師団の登用予定兵士である。
━━聖アレイク王国には、建国当初より国防の要たる三つの師団が存在していた。
ガイロン師団、
王家を守るため発足した近衛連隊、
人々に癒しと生活を守る目的で、アレイ教団が設立したフロスト騎士団。その3つの師団に比べ、
新兵士が多く、事務片の余剰兵士を押し付けられた為に、経験不足の兵が多く。有能な人物不足、さらに人員不足は深刻だった。カレイラ自身にも問題がある。それは生まれが、下級貴族故に、実家の力不足が招いて、資金的にもぎりぎりであること。ケレル殿下もそこら辺の事情から、多少なり気にしていた。そんな矢先━━。
戦士養成学校の有用性を示す事件が起こる。
妹姫を狙った。誘拐テロを未然に防いだことで、有用生を示せた。カレイラにとって追い風となる朗報であった。それにより国内外に広く名を上げたカレイラ准将だが、あまりにも名が知られ過ぎたと、深い懸念があった……、『オールラウンダー』となった訓練生がいる。その事実を多大なる宣伝として使うことに決めた。それこそが……国内外の眼を、彼に向けさせる毎に成した成功である。
━━報告書によれば、今年度の訓練生募集に対して、募集人員が増えていると言う━━喜ばしい報告があったばかりだ。
とは言え。魔王の暗躍は憂慮すべき問題だ、
不穏な噂は、政治を遅滞させ。民に多大な不安を与える。そこでケイル殿下は、妹姫を救った人物。オーラルを調べるよう黒衣に命じた。詳しい家族構成をわざわざ調べた資料が届いた。殿下が眼を通せと言うことだろう……、
「なるほど……エドナ筆頭は、彼の為に動いてたのか……」
案外『オールラウンダー』の称号を与えるそのためだけに、カレイラすら手玉に取った。その事に気付き嬉しさと苦々しさに、微苦笑する。
そして……オーラルの家族。特に父について面白いことがわかった。
リブラ・ハウチューデン、孤児でありながら、土竜騎士となり、勲位を受けた逸材。
ララ・ハウチューデン=旧姓ララ・ローゼンは、あのエレーナ大司教の愛娘とまで言われた才女、
そんな2人の子。オーラルは、政治的な動きで、排斥されたが、
学園史上、最強ミザイナ部隊の副隊長を勤めていた実績がある。
あの部隊は実に興味深く。
西大陸の覇王。魔王ピアンザ、
北大陸、レオール連合宰相レイナ・フオルト嬢。
南大陸の大洞窟の入り口、ファレイナ公国大使、ミザイナ・アルタイルは、剣士としても有名である。
宮廷魔導師筆頭ケイタ・イナバ。最年少で筆頭になった、魔法工学の天才。
財務のトップ、シルビア=カレン・ダレス嬢。建国からアレイク王国を支えたダレス家の現当主、財務顧問就任は、歴代最年少でありケイタの妻で、三児の母。
自国、各国の要人、重鎮となった彼等は、揃ってオーラル・ハウチューデンを、信頼出来る人物と、口を揃えて言う……、
━━3ヶ月前。
カレイラ・バレスは、多忙な中……、第1分隊中隊長アロ・ジムスの元を訪ねていた。
アロ中隊長は、自分自身でもそう思っているが……。軍席にいること自体が場違いだと思っていた人物である。
やや緊張を隠しきれず。カレイラ准将に敬礼をした。
彼は若くして一軍の将となった。軍人の夢を大願した人物である。萎縮しないだけでも、アロ中隊長は、瞠目に値する。
「アロ中隊長、近日新人を、第1分隊に赴任させることになる」
わざわざ新人の兵就任に、カレイラ准将もの人物が来るだろうか?、思わず首を傾げた。そんなアロの様子を、満足気に見ていたことを。アロは知らない。
アロは元々ガイロン重騎士団の経理で燻ってた所を。カレイラは直々に中隊長として、陸戦師団に引き抜いていた。
━━アロは軍人としては、まったく使えない人物である。体力は人並み以下。武器を扱う才能も、魔法を使う技術もない。虚弱な人物だが……、カレイラにも無い。鋭い先見の才がある。
頭も悪くないのに閑職にいたのは、彼の実力をきちんと理解しない。無能な上司のせいであった。
「これを見てもらおう」
『オーラル・ハウチューデンに関する報告書』
「オーラル・ハウチューデン?、何処かで、聞いた覚えが………」
アロが、内容を読み終わるのを待つ。
「あっあの……、失礼を承知で尋ねます」
息を飲み。蒼白な顔をするアロは、迷いながら、まっすぐカレイラを見た。
「彼ほどの人材をなぜ、閑職にある。我が部隊に配属なのですか?」
思わずカレイラは、満足そうにうっすら笑み、
「気にせず忌憚ない、意見を言いたまえ」
カレイラにそう言われたが、しばし瞬順した……、顔を強張らせながらも、自分の意見を言える。軍人が何人いようか?、皆無と言ってよい。
「カレイラ准将の右腕として、側に置くべきだとおもいます」
カレイラがあまりに……優秀過ぎた、多大な弊害があるとすれば、何も決められない軍隊になるのは、困るものだ……、
「成る程。それも悪くない考えだ、が、それでは、この国を守れないぞ?」
それ故。カレイラに意見が言える人間は、何よりも得難い人材である。
そんなこと思われてるなど。露とも知らないアロは冷や汗を流す。カレイラは窓の外の広大な、所領を見ながら、
「確かに、有能だろう、おそらく……いや。間違いなく彼は『オールラウンダー』になりえる。だからこそ、彼には自由な立場が必要になります」
チラリ、アロの様子を伺う、迷うようでいて、それでいて、何かに気付いた様子を見て、微笑を深めた。
「私は、彼の……」
アロの疑問は、カレイラを満足させるに十分な答えだった。やはり得難い人物である。
━━━━カレイラ師団所領から、南東、戦士養成学校はある。
オーラルは、戦士養成学校の卒業式に、出席していた。
次々と老教官ジタン・ロナベルが呼びに来て、1人また1人。校長のエドナ・カルメン・オードリーに直接。配属先を、口頭で知らされる。
━━オーラルとともにミレーヌ姫を助け出した第1師団の面々は、いずれオーラルの配下となることが、決まっていた。
━━数日前。いち早くカレイラ師団に入団した。第1師団のメンバーは、二月程の訓練が行われると聞いていた。
その為オーラルの就任地は最後に説明されるのであった。
「オーラル・ハウチューデン」
伝法な口調で、ロナベル老教官は、白髪の断髪を、ガシガシ掻きながら、にやり人の悪い笑み浮かべていた。
「はい」
まっすぐロナベル老教官を見つめ、深く一礼した、
「お世話になりました、」
いきなりの毎に慌てる老教官。
「なっ……ばっ、バカやろ」
ずすっと鼻を啜り、何処か照れ臭そうに、そっぽむく姿、教官らしいと小さく笑う。
「とっとと行くぜ!、俺は忙しいんだ、明日からは、また使えない奴が、沢山くるからよ。まあ~お前だけは、認めてやるよ」
しんみりと、口内だけで呟いた、無論オーラルになど言ってやる気はさらさらない。
「オーラル・ハウチューデン入ります」
ロナベル老教官に、背中を叩かれながら、入室して背後を伺うと既に教官の姿はなかった。最後まで教官らしいと、小さく笑いながら入る。
「久しいわねオーラル君」
「はい、ご無沙汰してました、エドナ筆頭」
茶目っ気たっぷりに、オーラルが応じて片目を瞑る。これには参ったと、髪をかき揚げながら、豊かなバストを強調するドレス姿である。
「オーラル君、よくやったわね……」
クスリ艶然と微笑を浮かべ、辞令書が手渡された。
『オーラル・ハウチューデンを第1分隊所属。少尉とする。』
驚きを浮かべたオーラルに、小さく口元緩ませながら、
「おめでとうオーラル少尉」
エドナ理事長の優しい抱擁……、オーラルの胸中で、
「エドナ筆頭……、貴女の優しさ、俺は生涯忘れません」
誠心誠意の感謝を込めて、呟いていた。
━━少尉の階級、それは新任の兵が受けるには、アレイ学園優秀者のみ、与えられる名誉階級である。まだ新しく実績も無い、戦士養成学校の卒業生は、そのほとんどが一兵卒、良くて曹長として、カレイラ師団に編入される。
先のテロ事件から、ミレーヌ王女を守った実績で、第1師団は、かなり優遇されたと言える。オーラルはカレイラ師団の儀礼課に寄り、制服一式を受け取り、一度帰宅した。
早速。制服に着替え。准騎士を示す。校章を胸に付け、部屋を出ると……。
あの日━━以来……、
主のいない、父の部屋に入って、使われることがないベッドの上に。決意を込めて、古い赤手甲を置いた。
「父さん……、行ってきます」
これから先オーラルは、兵舎で暮らす。あまり家に、戻ることは無いだろう……、
「せめてリーラとの約束は守りたいな。休暇が何時になるかそれ次第か……」
短い間だがリーラとは、苦難を共にした仲間である。それにしっかりと約束させられたのだ。
一緒に二人で、休日を過ごし。うちに来て母にオーラルが土竜騎士として、活躍したことを話すと……




