知の試練。
━━━数日後━━。
Jr.や他の子土竜達の世話をしていたオーラルの元に、ケレル殿下から、
『地の試練を、見事終えたと認める』
との手紙が届き、その日の内に、出迎えの馬車が用意されていた。
詳しく書かれていないが、オリベ老がはぐれワームを倒した事を。知らせた節があり、評価されたのだろう……、
━━次の試練のため、オーラルは、王都カウレーンに戻ることになった。
オーラルは馬車に揺られ、久し振りに都に入ることに。
馬車は真っ直ぐ東の大通りにある。アレイ教の大聖堂の前で止まった。
馬車から降りると……、
「オーラル!」
慈愛に満ちた、優しい声が掛けられた。
「エレーナ母様……?」
オーラルの驚きに満ちた顔に向かって、にっこり嬉しそうに微笑む姿こそ。オーラルにとって懐かしい姿とまるで変わってなかった。
エレーナ大司教様の変わらぬ優しい笑みは、無垢な少女のようでいて。優しい母を
連想させていた。彼女こそアレイ教のトップ。大司教様であるエレーナ・シタインであった。
満面の笑みで、いきなりオーラルを抱きしめていた。我が子を心配してた母のように、顔を掴み、じっと目を見つめると。
「まあ~、オーラルから、そう呼ばれると、懐かしいわね」
コロコロ楽しそうに笑い出すから。思わず恥ずかしさと懐かしさに胸が熱くなる。
「こうして話せるのは、何年振りかしら?、せっかく孤児院にいても会いに、来てくれないんだから」
ちょっと非難するように言葉を重ね。口を尖らせるエレーナ大司教に。オーラルはばつが悪そうに右目を隠すと、エレーナ大司教は楽しそうににっこり微笑を称え。
「あらあら困ると右目を隠す癖。昔のまんまね」
コロコロ鈴を鳴らすように笑うのだ、たくさんの信者が、エレーナ大司教の笑顔に、嬉しそうな顔を向けていた。
「エレーナ母さ……、じゃなくて大司教様」
オーラルに釣られたか、間違えて母様と呼びそうになり、真っ赤になる少女を、優しく見つめながら、微笑むと、
「リーラは……、母様と呼んでくれないのかしら?」
片目を瞑り、悪戯ぽく笑われてしまい。余計真っ赤になりながら、
「……意地悪です」
うっすら涙ぐむリーラはむくれた。頭に付けたケープの色から、彼女は侍祭のようである。
アレイ教では、
大司教を筆頭に、司教、司祭、侍司祭、侍祭、見習い(シスター)と階級がある。侍祭とは聖なる魔法、癒しの魔法を使える者。聖フロスト騎士団に所属していることを意味していた。
「ここで話すのも人目があるし。貴方の部屋に案内するわ」
エレーナ大司教直々に部屋に案内されると言う。戸惑うオーラルに構わず。昔話をされてしまい、恥ずかしい思いをしたが、話したりないエレーナ大司教は、荷物を置いたオーラルを引きずりまわして。食堂に連れてくるや、オーラルの話を聞きたがるわで……、
楽しくも騒がしい姿は、昔のままである。程なく数人の司教に抱えられて、連れ戻されてくのを苦笑を滲ませ。見送っていた。
「……はあ~、エレーナ母様にも困ったものです」
苦笑を滲ませる癖なのか、大きさのあってない、丸眼鏡を直すリーラ侍祭に、不躾とは思ったが、
「もしや孤児院の?」
オーラルの質問に、やや顔に緊張を漂わせ。
「はっ、はい……」
「成る程ね」
柔らかく笑うオーラルを、戸惑いながら、チラチラ見てたが、自分の手を握り、一瞬迷いを見せいたが意を決めて、
「オーラル様は、母様とは?」
よっぽど気になってたのか、真剣な眼差しだ、だから優しい笑みを向けて答えた。
「俺の父は、孤児院の出でね。母は侍司祭をしてたんだよ」
オーラルは懐かしそうに答えた……、
いつも適当な父が、エレーナ母様の前では、子供のようだったな~と。いつしか姉やオーラルもエレーナ母様と呼ぶようになっていた。
「オーラル様は……、アレイ学園の『特待生』だったと母様から聞いてました、自慢してましたよ?」
話を聞き終え安堵したのか、そっと教えてくれた。にっこり笑うと、エレーナ母様にとても似ていた気がした。
……本当は……、
孤児院で、先生をしてた時……、
━━何度も会いに行こうとしたが止めた。
だって……、甘えてしまいそうだったからだ。
オーラルが一瞬暗い面差しをしたのを、リーラは直ぐに察して、優しい笑みを浮かべていた。
「本当は……、言わないつもりでした……」
真っ直ぐな瞳を、真摯な気持ちでオーラルに向けて、握ってた手を開き。
「エレーナ母様は……、オーラル様が、来ない理由……わかってましたよ。だから……余計に嬉しかったんだと思います」
虚を、突かれた気持ちでリーラを見ていた、彼女の優しい気持ちを汲んで、微笑していた、この人はなんて優しい人なんだろうと、この時感じていた。
「ああ~そうだったな、エレーナ母様は、何時だって、気付いてたよな……」
オーラルの優しい吐露を聞いて、思わずうっすら涙していた目を拭うリーラに、小さく礼を述べた。
━━落ち着いたリーラ侍祭から、ケレル殿下の試練について、詳しく話を聞いて、一つ頷いた。
アレイク王国には、国内に三大図書館と呼ばれる施設がある。フロスト騎士、またはアレイ教の侍祭以上の教団の者しか入れない特別な図書館が、アレイ教にはあった。はるか以前。戦争で失われた昔の技術等。様々な古書が仕舞われている。
様々なことをより深く、学ぶことをオーラルは求められてると知った。
知識の試練と呼ばれたもの。
大聖堂の図書館にある蔵書は、主に過去の政治、諸外国の治世。様々な建築知識。技術者の為の専門的な本が多い。珍しいところで、各大陸で、主に生産されていた品など、あまり目にすることが無い本ばかりである。今日は、早く就寝を取ることにして、明日から勉強することに決めた。
━━━翌日。早朝。
見習い(シスター)に聞いて、若いフロスト騎士の見習いが、訓練に使う中庭に降りた。
見習いに混じり、身体を動かした後。興味本意の見習いから、訓練を挑まれ。オーラルは快く受けた。
一通り手合わせが終わる頃には、見習い達と打ち解け、一緒に朝食を取り、談笑する姿をみて、思わずリーラは驚いていた。
朝食を終えて直ぐ。リーラと共に図書館に向かい。早速手近な、
『建物様式』
『年代順年号』等、やたら分厚く、眠くなる本から目を通すことに……、
とても地味で、経験したこともない、苦行に……、生まれて初めて、挫けそうになるオーラルだった。
何とか間違えず。年代順を覚えていく、建物様式なんて興味無いものを記憶出来たのは、半月後である。
それから毎日━━苦行を続けること二月。
もうこのまま本の虫になるのではないか?、変な杞憂を抱えていたある日のこと………。
エレーナ母様から、急ぎ来るよう呼ばれた。
━━久しぶりに再会したエレーナ母様は、やつれ果てていた……、
目元は隈を隠すように化粧が施され、血の気が無いのか肌が青白い、
さすがにこれは…………、何かあったと理解する。
「オーラル、貴方が元気そうで何よりです……」
「エレーナ様、まだ起きては!」
突然リーラが、真っ青な顔して飛び込んで来た。いささか驚き、エレーナ母様を見ると、ばつが悪そうに、顔をしかめていた。
「リーラ……、用が終われば戻ります。今しばらくお待ちなさい」
強い口調で、凛とした表情は、今はエレーナ母様ではなく、エレーナ大司教と言う立場。重責を背負った者の威厳ある眼差しに、リーラは顔を青ざめさせたまま口をつぐんでいた。
「オーラル、貴方が土竜騎士として、選ばれたと聞き及んでます。本当ですか?」
ただ静かに頷く。
「はい、エレーナ母様……、一体何があったのですか?」
嫌な予感がした、自分が図書館にこもってる間に何が……、
「オーラル……、子供達を助けて下さい……」
今までの威厳など、かなぐり捨てて、涙ながら1人の母として、エレーナ大司教……、嫌。
孤児院にいる。全ての子供達の母である。エレーナ大司教は語りすがり付いた。ただオーラルは快く。了承していた。
オーラルはその足で、すぐさま馴染みの商人に、商隊を組んでターミナルに向かうように伝え、オーラルは、フロスト騎士団が用意してくれた馬を借りて、見送りに出たエレーナ母様に声をかけるべく、笑みを作ったところ、
「お待たせしましたオーラル様!」
リーラ侍祭が、旅装に着替え、メイスを手に現れた。完全に虚を突かれていた、エレーナ大司教とオーラルに構わず。
「さあ!オーラル様、早く行きましょう」
鼻息荒く、言い出して、酷く皆を慌てさせた、エレーナ大司教の説得にも、ガンとして首を縦に振らず。しまいには、
「オーラルお願いしましたよ」
匙を投げた、顔をひきつらせながらも、連れてくしかなくなり、リーラを抱えるように、馬に乗せ。走らせることになった……、
━━途中。何度も休憩を入れたが、ターミナルまで数日掛かる道のりを、フロスト騎士団の駐屯地で、馬を乗り継ぎ、僅か1日で、ターミナルまで向かう強行軍。足と腰の痛みに、涙目のリーラは、泣き言一つ言わず、頑として付いてきていた、何故こんなに頑固なのか、心配よりも呆れるばかりだ。
ターミナルの街受付で、見覚えのある見習いがオーラルを待っていて、こちらを見つけるや、挨拶もそこそこに。
「オリベ老から伝言です。此方の準備は万端だから、直接土竜馬車乗り場に向かうように。とのことです」
「わかった、オリベ老に、次来たら酒を持ってきますと。伝えて下さい」
最近年のせいか、医者から、口煩く。飲酒を止められてるとオリベ老は、何時も不機嫌だったと、この見習いから聞いたことがあった、
「オリベ老、きっと喜ぶよ」
ぼくとつとした笑顔に見送られ。2人は地下に降りた……。
巨大な洞窟内━━。
土竜ファームのある駄々広い場所とは違い。ターミナルと言う名の真意を、オーラルは知ることになる━━。
ターミナルの街は、巨体な洞窟の入り口に作られた街で。地上部分は交易目的の商会所が沢山あり。宿屋や歓楽街が作られた交易の街である。
━━しかし街の本当の姿は、地下部分にあった。
オーラルが、以前来たのはファームのある街外れだったが。今回用があるのは土竜ギルドがある。大洞の前に並ぶ大通。通称駅舎の中にあった。
今日も駅舎には、沢山の土竜馬車が荷を下ろされ、また積まれる作業がなされていた。その為沢山の馬車が並んでいた。
━━巨大な駅舎の一階。ギルドの受付があって、書類の申請。土竜騎士の登録等もなされる。何より大切な身元を保証するために必要な手続きであった。ギルドの受付に名を告げると、駅員は名簿を広げ目を見張る。
「貴方が、あのリブラ・ハウチューデンの……」
駅員の声に、古参の土竜騎士は手を止めていた。
「オーラル・ハウチューデンです。急ぎの連絡がありましたよね?」
惚けたままだったギルドの駅員は、ガクガクと首肯しながら、
「1番駅舎で、馬車の車両は準備されてます」
それを聞き安堵の息をリーラが吐いた。
「おいリブラの息子!、仕事が終わったら、顔出せよ」
1人が言えば次々に言葉が掛けられ。背を叩かれた。つ~んと鼻の奥に痛みを感じた。若輩者のオーラルを、仲間として、受け入れてくれたのがわかったからだ。
2人が、1番駅舎に近付いてくと。オーラルに気が付き。
「キューイ、キューイ!」
喜びの声を上げる土竜が、真新しい頑丈な、一番大きな馬車が付けられ、待っていた。
「Jr.お待たせ、頼んだぞ」
「キューイ━━!」
任せろと鼻息も荒く胸を張った。
「あっ、あの……」
ここまで疲れと傷みで、真っ青な顔ながらも、気丈にしていた。リーラだったが、迷いながら、Jr.の前に行くと俯いていた。いささかJr.が訝しげに鼻っ面をリーラに向けていた。
「Jr.さんお願いします!。弟や妹たちを助けたいの……、ぢからを貸してぐだざい」
緊張していた気持ちが切れたか、ボロボロ泣き出したリーラ……、その時オーラルも彼女の気持ちにようやく気付いた。張り詰めた物が、氷解したのやもしれないな……、
最初こそ戸惑っていたJr.だったが、
軽く、リーラの顔に鼻を押し付け、小さく鳴いた。
まるで任せとけと言わんようにだ。
オーラルは、気合いを入れるため、顔を叩き、それから、古びた赤い手甲を右手、新しい手甲を左手に着けて、手綱を握っていた。リーラには馬車の中で、休んでるように言い含め早速。出発した、
━━大洞窟に向けて……、




