テロ3
━━姫様とジーナが案内されたのは、人に見られない小さな窓の無い部屋だった。本来空調など望めない筈だが……、
程よく、心地好い清廉な冷気が、季節外れの猛暑の身体をジンワリ冷やしてくれた。ジダン・ロナベル教官には、姫が遅れるようだと知らせるように頼み。
「お茶の用意をしました」
喉の渇きを感じてた頃だった、ジーナは、素直に感謝して、冷たい冷茶に、顔を綻ばせる。姫も休まれて、だいぶ顔色が戻られていた。
「これは…蜂蜜ですね」
褐色でドロリとした、甘い香りの液体が、安物の陶器に、場違いな感じで、たっぷりと入っていた。
「先日。ギル・ジータ王国に住む。友人から贈られた貰い物ですが」
眠たげな眼差しの訓練生と名乗る青年は、見た目のやる気なさそうな顔のまま、気楽に肩を竦めた、
「えっ!、蜂蜜ですの♪」
満面の笑顔で、顔を弛める姫に、早くも苦笑滲ませながら。添えられたラスクに、たっぷりぬり、子供のように素直にはしゃぐ姫様に渡していた、
でも……ジーナは眉を潜めた。蜂蜜は高価なのだが……、訝しげに思いつつもジーナも甘い誘惑と、絶妙な冷茶に心奪われていた。
「このお茶……、初めて飲みますが、どちのですの?」
「はい姫様、南大陸ファレイナ公国の緑茶と言う飲み物です」
「では、ミザイナ様が、おっしゃっれていたこれが……」
ミレーヌ姫が眼を輝かせ、しきりに感心する。一方で、再び驚きのあまり首を傾げるジーナは、値踏みする眼差しをオーラルに向けた時だ。無遠慮に扉が開いていた、
「姫様、お加減はいかがですかな?」
普段見たことのない、優しい眼差しの教官がそこにいた。
「爺!」
パッと華やぐ姫は、猫の子供のように、教官に抱き付いていた。
「これこれ姫様。大きいなりましたのに、子供にお戻りですかな?」
孫を愛でる祖父のように、眦を下げていた。
「はいですの、ミレーヌは元気になったですの」
はにかむ柔らかな微笑みは、幼さを魅せる。姫の美しさを増長させていた、慣れていたジーナですら、息を飲み密かに頬を染めた。
「オーラル、魔法を止めて良いぞ」
「はい教官、俺は先に。準備してます。それまで、理事長室を使って下さい」
オーラルと言う訓練生が、部屋を出た途端に、ジトリと暑さを感じた。
「まさか、今までのは……、魔法?」
信じらぬ思いで、かつて。姫様のお守役であった。老教官をみたが、ニヤニヤ意味ありげに笑うのみ。相変わらず答える気はないようだ……。
「さあ姫、こちらにどうぞ」
そうだった……、そっと嘆息してジーナは思い出す。喰えない老人は、姫が頼まぬ限り何も語らない、恨めしげに睨んだが、どこ吹く風である。
戦士養成学校は、まだ建設されて間もない新しい建物である。訓練生と教官が、一緒に暮らすため。建物の主な使い方になっていた。
理由は、訓練生の多くは、カレイラ師団に入ることになっていて、戦士として足りない力量+集団行動や生活に、慣れてもらい。軍人にとって最低限の基礎を学ぶための訓練学校であるためだ。
資料によればアレイ学園の元生徒が、多数在籍していることから、先程の生徒もあるいは……、元『特待生』だったのかも…、その考えは、妙にしっくりきた、アレイ学園の『特待生』には、魔法を学ぶ機会が与えられているからだ。
それにしても……、
『あれが魔法だとしたら、どんな風に制御してるのかしら?』
ジーナは魔法に、あまり詳しくなかった。族長の娘レイナとは別に、ジーナはアレイク王国に。姫様の護衛として、雇われていたからだ。
そのレイナだが……、今は帰郷している。何でも見合い話が舞い込み。本人には不本意であり、憮然としながらも族長に呼ばれて仕方なく、渋々帰国している。
━━ジダン老の案内で、二人は三階にある。広々とした理事長室に案内された。落ち着いた青を貴重にした室内。元宮廷魔導師筆頭らしく、本棚には読めそうもない、難しい本がぎっしり詰まっていた。
「難しそうな本が、一杯ですの~」
さすがに書斎の本棚には、姫様が大好きな。恋愛物は無いようだった。窓から外を見ると、沢山の生徒が、50人づつのグループに別れて、集まっていた、これから……何かやるのだろうか?、
「教官準備は整いました、号令お願いします」
「うむ、では姫様しばしこちらでお待ちを」
先程のあの生徒に呼ばれたジダンは、訓練場に降りていった。
「オーラル!、準備はいいか?」
眠そうな顔の青年をねめつけると。いつの間に着替えたか、他の訓練生と同じく訓練服に着替えていた。
「何時でも教官。姫様と護衛に、言霊飛ばしますか?」
訓練生が集まる中、ジダン教官は。好好爺に笑うと、ひとつ頷いた。
「知らせろ」
オーラルは素早く2つの術式を構築、放つ。
『姫様、失礼いたします…』
突然、囁く声が背後よりして、ジーナは慌てて振り返るが、キョトンと眼を丸くする。姫様だけがいるだけである。これは……魔法?
『驚かせましたか?、言霊にて、失礼いたします』
言霊……、確か、伝えたい相手だけに、言葉を聞かせる。かなり難しい魔法だったはずでは?、窓から下を確認すると、先程の訓練生と目が合い。小さく会釈された、眉を潜めながら、見てると、隣のニヤニヤ笑う、ジダン教官を発見。
「あの人か…」
小さく嘆息して、了承して先を促すと、
『これより6つある訓練師団による。対抗戦を行います。隣室よりテラスに出てくださいませ、そちらより観戦出来ますので、移動下さい』
言われた通り隣室からテラスに出れるのを確認した。
『机の上に、プログラムが用意されてますから、確認ください』
言われて、理事長の机を見れば、確かに、それらしき物がある。ジーナは手に取りパラパラとめくる内に、眼を見張る。
内容は複数あり、プログラムは、替えが効くように準備されていた。
時間、気候、体調が悪くなってる場合など、今まさに……、プログラム通りに…、思わず喉が鳴っていた。
「これではまるで……、あの方のようだわ」
ケレル殿下の懐刀、カレイラ准将を彷彿させる。周到な内容に舌を巻いた。
彼の言葉通りに、従って……、
ミレーヌ姫が、テラスに現れると、歓声があがる。ミレーヌ姫があどけない笑顔で手をふるお姿に、感動する者が多いことか……、ジーナは何時もながら半分呆れてると、歓声は唸り声のように。辺りに響く。
『これより。合同演習を行う』
オーラルは魔法の因子を解放して、魔法を変化させていた。1人に伝える言霊から、風の広域魔法に変化させたのだ。
整列の合図を受けていた訓練生全員に。
『西軍第1、第3、第5師団、東軍第2、第4、第6師団、散開』
号令が放たれた。
テラスに出ると、そこには大きな日傘がひとつ。その下に、テーブルと椅子が用意されていて、上にはティーセットが置かれていた。ジーナは知らず知らず。ここまで用意した人物……オーラルと呼ばれた青年を再び見てから、感心のあまり朗らかに笑らっていた。
「あっ、ステンドグラスがありますわ、ジーナこれがあれば観戦しやすいですの♪」
姫ミレーヌが、何気なく呟き、テーブルに用意されてた。ステンドグラスに気が付いて、唇を綻ばせる。早速みんなを覗き見る中━━、
ジーナもテラスから見下ろして、訓練生の一団が、一個の集団で動く様をみていた。その様子はまるで、一個の生き物のような動きで……、
「何が、始まりますの?」
頬を高陽させ見ていた、確かに……、これならば姫様の負担にならず。見ていられる。下手な行事より楽しめるしと。良く考えられていた。
姫様のため冷茶を入れて、半分呆れながら、老教官の言いたい事が判る。
『知るか!彼奴に聞け』
そう言うに決まっている。だから、ジーナも、楽しむことにした、何せステンドグラスは二個用意されてたのだから。
プログラムによれば、東西に別れた、2つの軍によって、お互いの陣地の旗を奪うか、自軍の半数以上が、
戦死扱い━━手持ちの武器を取られるか、複数に囲まれ、逃げれないと確認出来た時点で、戦死扱いとなるようだ、これは意外と頭を使う……心理と。読み合い。運も必要となるだろうと。少しならず楽しめた。




