テロ
━━━3年後。
西大陸、
パルストア帝国。
王座の間に、6人の男女が一堂に会していた。
1人は緑の民の少女ラグ・エマ =ラグラド・エルバと名を変えた。
六将の1人。幻影の魔女と呼ばれる美しき女性となっていた。
1人はラグラドの隣に立つ長身の美麗夫。ロドラ・ギドリス=ギラム・ブライドと名乗ってる青年で、ピアンザとあの日。シレーヌと共に出会った緑の民の青年である。仲間からは緑眼の騎士と呼ばれ。魔法と剣の使い手である。現在は六将の1人となっていた。
「陛下……、我らは、世界を守るため。如何様にも動きましよう」
1人は白銀の鎧を纏い、強大な強い魔力を放つ。二本の聖剣を持った。聖騎士と名高い、ナタク・レブロが一礼する。
「我らは、必ずや大陸統一を急がねばならない!、悪行と罵られようと、世界を守るために━━」
高潔な武人ナタクらしい物言いに、ムッとした顔をしてたラグだが、直ぐにニンマリ。人の悪い笑みを浮かべていた。
「はいは~い。あたし面白いとこ見付けたよ。アレイク王国のある場所で……」
色々含みながら、ピアンザの様子を伺っていた。まさに猛毒含む笑み……、多くの人々が死ぬかもしれないのと。暗にそう言うのだ。ナタクは忌々しそうな眼差しでラグを睨むが、ラグは異に反さない。そもそもこんな噂があった。ナタクはシレーヌと同じ光の民であると言われている。
ピアンザの胸中は複雑である。様々な渦中をもたらしたが、
「……ラグ任せるよ。存分に……、やるといい」
冷徹な光を……、底冷えする黒曜のような鋭利な輝きを。瞳に宿したピアンザは命じた……、全ては世界を救うために、魔王ピアンザは、覇道を選んだ。
テロ事件一年前━━。
アレイク王国を。揺るがせる大事件が起こった……。
庭園に集められた重鎮達の中に。次期国王ケレル・バレンシア・アレイク殿下は、急を有してケイタ・イナバを呼び出した。
「ご足労感謝するケイタ筆頭殿、早速で済まないが、そなたオーラル・ハウチューデンと言う人物を知っているか?」
普段国政に携わる場では、一切顔色一つ変えない妻シルビアが、息を思わず飲んでいた。手に力が入った。二人の胸中にはまさか……、
再び表舞台の場、しかも殿下の口から先輩の名前を聞く日が来ようとは……、
「良く…知っています殿下…、先輩は…、いやオーラルが何か?」
ケレルは、事前の調査である程度のことは、既に知っていたが、ケイタの嘘つけぬ反応が見たかったのだ。それでオーラルと言う人物が、信用出来る人物かと判断したのだが……。政治に疎いケイタは気付かない、
研究者としては優秀だが……、妻とは違い政治には向かない性格と判っているから、わざわざ呼んで反応が見たかった。
ケレル殿下が、何故わざわざ国政の場にケイタを呼んだか、既に魔王の手が━━、
アレイク王国に伸びていたとしたら……、人の口に扉は立てられない。情報規制しているにも関わらず。早くも噂が流れている。ケレルの耳に入る程度に……、まだ火種は小さい、が……、不安は広がるだろう、ならば新たなる。希望を与えねば、ならないだろう……、
「彼は、妹の命の恩人である。少し調べさせたが、可笑しいのだよ。彼ほど優秀な人材が、なぜアレイ学園を、退学させられたのか?、それが判らないのだ……」
やや憮然と、瞳を曇らせるケレル殿下に対して、
━━ケイタの胸中は温かな気持ちで、一杯になっていた。
チラリ、カレイラ准将を見ながら、あの日起こった、謀略を話した……、
だが……ケイタにとっては、カレイラ准将の知らない、もうひとつの計画が身を結んだ結果だと。喜びを噛み締めていた。
あの日のことを……、
凄まじく後悔していたケイタは、
エドワード・ブリュクヒルの行いが赦せなかった……、
だから……ありとあらゆる伝……、シルビアの助けがなくば不可能だったが……、
シルビアに手伝ってもらい、ブリュクヒルの領地、税収、全てを調べあげ、不正とその手段を行った証拠を手にいれていた。その上でカレイラ准将の生い立ち、当時の立場、何を目論んで、求めてるか、正しく知るのに調べあげた。
そしてあ……る計画を画策した。
学生でしかないケイタには、あまりにも無謀な策略であり。ある程度望む結果を引き出す下策。人任せの謀略でしかなかったが、同じくオーラルのこと思ってくれていた。前任のエドナ筆頭の助力を取り付け。難しい駆け引きをカレイラ准将相手に繰り広げ。ようやくだ最低限の準備を整えていた。それはケイタの贖罪。それはカレイラの渇望が、合致した結果である。
━━今度こそ。
あの日……、
何の見返りを求めず。
手を差しのべてくれたお礼が出来るかもしれない……。
だから無謀な方法を選び。エドナ筆頭に、計画を持ち掛けたのだ。
━━その事実を知るのは、ケイタと妻シルビアだけである。
カレイラ准将は、当時エドナが集めた様々な証拠を使い。エトワール・ブリュクヒルの財産を押収。カレイラ師団設立に使った。それこそがケイタの計画通りに……。さらにはエドナ筆頭の願いにより。形になったのが戦士養成学校だった。
「成る程……。あの事件の……、ブリュクヒルには感謝せねばならぬか、皮肉な毎にな……」
しばし考えを吟味しながら、ケイタの話を聞き終えてそう呟いた。
「カレイラ……、彼は功労者だな?」
鋭利な、眼差しを和らげ、ケレル殿下の考えを読み。
「良い、考えと思います」
一礼するカレイラに、(苦笑)浮かべ、一つ頷き、
「オーラル・ハウチューデンを『オールラウンダー』候補にする」
ザワリ……、
居並ぶ、重鎮達は息を飲むなか、エレーナ大司教だけは幼女のように笑み、ケイタに目配せしてきた。思わず同意の目配せを返して、密かに喝采を送る。
「先輩……」
会心の笑みを浮かべていた。
━━━事件3日前。
戦士養成学校の教練部屋で、第1師団長オーラルが呼ばれた、
「貴様。アレイ学園の元『特待生』だったらしいな?」
伝法な口調の老教官、ジダン・ロナベルが、ジロリと睨む。
「そうでありますが、それが何か?」
まったく気にもしてないオーラルを、穴が、開くまで見てたが、表情一つ変えない。喰えない男である。だが満更でもない。うわべだけの口だけの奴は、軍隊にも腐るほどいて見てきたが、こいつは馬鹿か、よっぽどの大物になりやがる。秘かな楽しみになっていた。
「理事長の命令だ、お前に、皇女のエスコートを任せるとよ」
一瞬。驚きが浮かぶが、やる気無さそうな顔のままで、
「承知しました教官」
あっさり頷きそれ以上、何も聞かず。ジダンの言葉を待っていた。やっぱり解ってやがる。
「狙われる危険がある。エドナ理事長はそう考えてる」
後程知ったがオーラルに。戦士養成学校入学を、勧めたのは、エレーナ大司教様だと言う、子供の頃からエレーナ母様は、孤児院の手伝いをしていた。姉やオーラルにこっそりお菓子をくれたりして、何かと可愛がってくれたのだ。
「どうも……、魔王の手の者が動いてるらしいとよ…」
白髪の目立つ、短髪をガシガシかきながら、忌々しそうに顔をしかめる。一瞬オーラルは、困った表情になったが、ジダンが眼をしばたかせると、何時ものやる気ない顔であった。どうも何か隠してる様子だが、どうせこいつは言わないのが分かってるから。もう一度ガシガシ髪をかきながら睨めば、
「了解しました、最悪、皇女を連れて逃げます」
きっぱり言い切った。これにはジダンも参り、嬉しそうに一笑した、
「まあ~そうならないよう、備えとけや、明日だ、頼んだぜ」
見間違いだったと取り敢えず判断した。オーラルは何事も無かったように敬礼して、退出した。




