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さよならは言わずに

 今もロバートの温もりが肌に残っている。


 いざという時のために用意していた小さなスーツケースだけを持ち、逃げるように家を出てたどりついたこの空港。三時間後に出発する日本行きチケットを購入した。見送る人もなく一人搭乗口に向かっていると胸が張り裂けそうに苦しい。


 ロバートに愛されたという事実だけで充分。これからの人生、一人で歩んでいける。


「ごめんね、ロバート」


 今の私にはそっと身を引くことしか考えられない。ロバートにとって私は負担でしかないのだから。このままそばにいることなど、到底出来るはずもない。アメリカでの生活を全て捨て飛行機の薄暗いタラップへと足を運ぶ。


「さようなら、ロバート。私の愛しい人」



◇ ◆ ◇


「どこへ行ったんだ」


 あの日から姿を消した康代の行方を捜すが、何の手がかりもみつからない。大学へ行きルイに康代が来ていないかを確認する。


「ルイ、康代を知らないか? 」


「康代の姿をもう何日も見ていない。おい、ロバート。康代に一体何が起こったんだ。大学を無断で休むなんて考えられない」


「ルイには関係ない。とにかく、康代を見かけたら連絡をくれ」


「お前、康代に何をしたんだ」


「想像してる通りだと言ったらどうなんだよ。お前には関係ないが康代は誰にも渡さない」


「そうか、そういうことだったのか。ロバートお前、馬鹿な奴だな」


「なんだって」


「お前だってわかってるんだろう。俺たちが生まれ育った世界がどれほど汚くて異常な世界かってことを。康代をその中に引き摺り込むことが、どれほどあいつを苦しめることか。あいつはお前が思ってるよりずっと繊細で壊れやすい。お前の親父さんならあいつを守るだけの力も権威もあったが今のお前には何もない。あいつのことを思うなら、そっと心だけで愛し合えばよかったのに。それがあいつを守る唯一の方法だと思わなかったのかよ。俺たちはまだ自分たちが思うほど何の力もないんだ。あいつがそっと身を引くことくらい分からなかったのかよ」


「ルイになにがわかるんだ」


「俺はお前よりも背負っているものが多いからな。どんなに好きな女でも俺の思いを押し付けたりはしない。その重圧に相手が壊れてしまうからな。俺自身が力をつけるまで、そっと見守るのが男の強さだと思ってる。お前は、俺の思いまでめちゃくちゃにしたんだぞ。何も考えずに、無理やり自分のものにするなんて、本当に最低な男だな」


 バシッ!


 ルイに殴られ、己の未熟さを痛感する。ぐったりと頭を下げ、切れた唇から流れる血を拭い去る。


「ロバート、実力をつけろよ。誰にも文句を言わせないほどのな。俺もお前になんか負けない」


「ルイ……」


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