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2.落馬からのシェイクハンド

所々ネタを挟んでますが、主人公の年齢的に古めなので、お分かりになる方いらっしゃるかなー?

 まず、状況を整理しよう。

 話はそれからだっ!


 エレオノーレが運んできたサンドイッチを頬張りながら考える。

 足付きのトレーでベッドの上でも安心・安全にお食事できます。いや、論点はそこじゃない。


 自分は何者か?

 ……考え始めたら哲学の小路に迷い込んで抜け出せなくなりそう……じゃなくて!

 じゃなくて、私はスザンネ・フォン・ノイブルグ。これは間違いなくそうだと言い切れる。

 前世の私も確かに私だけれど、物凄く近い他人と言う感覚が否めない。

 が、しかし。

 やはり85年の月日は、いくら60才以降は犬とただ戯れているだけの生活であったとしても、それなりに5才のスザンネの人格に影響を及ぼしてしまっている。既に私のヘルマンを見る目が、素敵なお兄様から良くできたお子様へと変化した。私が10才の頃は、もっとポンコツだったわ。本当に良い子、うちの孫に爪の垢を煎じて飲ませたい。


 二つ目のサンドイッチに手を伸ばし、咀嚼を続ける。食べ物が前世とほぼ同じであることに感謝!

 今生の5才までの記憶の中を思い返す限りでは、なんだけど。そうなると生態系とかもそう変わらないのかしら?


 でもなー、魔法があるんだから魔物だっていそうよねー。こないだヘルマンが読み聞かせてくれたお話に姫と勇者と魔物が出てくるのがあったわ。お定まりの勧善懲悪で。あれってノンフィクションだったりするのかな?


 三つ目のサンドイッチに手を伸ばし、咀嚼を続け、ふと気がつく。

 要するに、私は何を考えたかったの?


 ダメよーダメダメー!


 ちょっと思考が飛びすぎじゃない?

 所詮は5才児と言うことね、きっと。まったくもって集中力が欠けているじゃない。

 香りの強い紅茶を飲み干すと、一息ついて手にしているサンドイッチを口に放り込む。

 たぶん人生経験は豊富なんだから、落ち着いてこれを生かせば生涯安泰に暮らせるはず。


 上手く行けばもしかして、もしかしなくてもあれじゃない?

 神童とか言われちゃったりするんじゃない?


「ふっ……まさかの、人生イージーモードかしら?」

 思わず悪い顔になってしまうのを、首を振ってリセットする。

 幸い、側に控えているエレオノーレには聞こえてないようだ。


 そもそも、スザンネは公爵家の令嬢だから、そんなに頑張らなくても生きて行けそう。爵位なんて無縁の前世だったから、確証は無いけど……

「お嬢様」

「え? あ、はい。」

「お夕食はこちらにご用意いたしましょうか?」

 空になったお皿を視界に捉えながら、エレオノーレは淡々と問う。

「いえ、ダイニングで頂くわ。」

 食器を下げてもらい、夕食まで休むと告げて横になる。おかしなテンションになっている自身を宥めるように深呼吸をした。繰り返している内に、支離滅裂だった思考がまとまり始める。


 落ちたり思い出したりで、興奮してたのかしら?


 今の自分の状況……目を閉じて家族の顔を思い浮かべる。

 公爵家の令嬢で、5才にして攻撃魔法を発現したばかりの私と、兄弟は3才と1才の弟が二人、天使のように愛らしいマーセルとヨーナス。優しい両親と、魔法学園に通うためにクレーフェ=ベルク領から王都へ出てきている従兄のヘルマン。ひとつ屋根の下ってくくりならこの6人が家族ね。


 孫の薦めで生前に読んでいた異世界転生モノのお話では、何か転生先に問題が有ったり無かったりで、己の身を守るために七転八倒するのよね。

 で、チートなスキルとやらで俺つえー無双で一件落着!

「てことは、私にもチートなスキルとやらが?」

 ぱっちりと目を開けて小首を傾げる。

 スザンネの記憶を浚っても、それらしきスキルとやらは思い当たらない。スザンネの魔法は年相応で一般的な範疇だ。

 家庭環境に問題は無いし、抜きん出た才能も今の所は無い。それこそ、何故転生したのか。

「こ、これから何か悪い事が起こる?」

 今まで読んだお話は転生した主人公は必ず何かしらの困難が待ち受けていた。

 そんな法則があるかどうかも怪しいけれど、大丈夫だ、問題無い。なんて言いたくない。

 何か起こるか分からないって点に関しては、前世とそう変わりは無い。起こるかどうか分からない未来に怯えるのは愚かだけれど、自分にあるイレギュラーな記憶が不安を煽る。


 何故、私に前世の記憶があるの?


 悔いなく大往生し、平凡に生涯を終えた。

 日本人だから輪廻転生には馴染みがある。けれどこれは違う。輪廻なら生まれ落ちる先は地球のはず。


 さっきまで2度目の人生イージーモードだとか浮かれてたけど、不安になってきちゃったよ。



 もぞもぞと寝返りを打って気を紛らわそうとしていると、控え目なノックと名前を呼ぶ従兄の声が聞こえた。返事をして部屋に招く。

「休んでいるのにごめんね。」

 言いながらヘルマンはアイスブルーの瞳を眇め、先程までお母様が座っていた椅子に腰かけた。何しに来たんだろう?

 寝転んでいる訳にもいかないから体を起こす。

「具合はどう? 辛くない?」

「ありがとう、お兄様。どこも痛くないわ。」

 あー、そうかー。ヘルマンは医療魔法が使えるんだったわ。

「それなら良いんだ。でも、もしも辛かったら直ぐ僕に言うんだよ?」

「えぇ、分かったわ。私が落馬した時に手当してくださったのもお兄様よね?」

 落馬した状況で医療魔法が使えたのはヘルマンだけだから間違いなくそうだろうけど聞いてみる。ヘルマンは肯定するかのように微笑んだ。

「お兄様のお陰で私、すっかり元気なのよ。」

 両手を広げて元気なことをアピールしてみる。

  ヘルマンはどういたしまして、とばかりに肩を竦める。年の割り大人っぽい仕草だなーと見つめていると、ヘルマンは頬を赤らめて瞬きをした。


 うはー、正に紅顔の美少年!


 思わず涎が出そうになったけれど、5才児はそんな事しないと己を戒めて耐えた。

 とりあえず、ヴェニスに死す訳にはいかないのよ。

「スザンネ、9月になったら僕は魔法学園の寮に移るんだ……」

 ヘルマンは膝の上に戻っているスザンネの手に自分の右手を重ねて見詰めてきた。


 うん知ってる。魔法学園に通う子は寮生にならないとなんだよねー。


 紅顔の美少年ヘルマンは悩ましく眉を潜め、両手でスザンネの手を包み込む。

「手紙、書くから……」

「お、お兄様……」

 私の落馬がそんなにショッキングだったのね。物凄く心配されちゃってるわ。生来からの世話好きなのか私や弟たちに甘い従兄は真剣な表情だ。

 そんなトラウマになるほど酷かったのかしら?

 恐ろしい思いをさせてしまったのね、ごめんねヘルマン。

「私もお返事書きますね。」

 心優しいヘルマンが安心するなら手紙の1通や2通ドーンと書くよ!

 任せとけ! とばかりに私はヘルマンの手を握り返しブンブン振りましたとも!

 えぇ、それはもう力強く。


読んでくださってありがとう!

もう少しチャキチャキお話を進めるようにしたいです。

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