1. ポニーからの落馬
初投稿です。
よろしくお願いします!
見切り発車なのでストック皆無!
のんびり不定期更新です。
目指せ、週1更新!
チェックしましたが、誤字脱字見つけたらお知らせください。よろしくお願いします。
最後に見た光景は、わたしの隣で泣く弟と駆け寄る父。
弟の傍らで従兄が、わたしの呼吸と脈をみる。
お母様がわたしの名前を呼ぶ、青い顔をしながら。
わたしの名前?
微かな違和感を感じつつ、わたしは目を閉じる。
強い力がわたしを誘う。それに逆らうこと無く、わたしは私の最期の光景を瞼に浮かべた。
愛しい顔達に囲まれ、幸せを噛み締める。
そんなに泣かないで。
私はとても幸せだった。
他は知らないけど、良い人生だったと思う。
誰かが私の名前を呼ぶ。
懸命に呼ばなくても聞こえているよ、返事が出来ないのが申し訳ない。
ありがとう、幸せな人生をありがとう。
視線に想いを込めるけど、伝わっただろうか?
私の名前を呼ぶ、声が聞こえる。
重い瞼をゆっくりと開く。
近くで誰かが泣いている。
泣かないで、そんなに悲しまないで。
声のする方に右手を差しのべると、涙に濡れた白い指が、私の小さな手をとった。
「スザンネ!」
「お母様……わたし……」
ぼんやりする思考が、違和感を伝える。
手が小さい……とても小さい。このサイズは幼児ではなかろうか?
なかろうかと言うか、5才だわ。
そうね、私はスザンネ・フォン・ノイブルグ。
ノイブルグ家の長女、なのよね?
ベッドに身を横たえたまま首を巡らせると、右側からはお父様とお母様、左側からは弟と従兄が私を覗き込んでいる。
見慣れた天井、家族の安堵した顔。
あぁ、そうか。私は乗馬の練習中にポニーから落馬してしまったんだ。
「スザンネ、どこも痛い所は無い?」
従兄のヘルマンが、私の左頬に触れる。
いつ見てもイケメン!
澄んだ瞳はアイスブルー、赤みがかった明るいブロンドが、少し乱れている。
齢10才にして将来が非常に楽しみな風貌である。私は密かにこの従兄に淡い恋心を……抱いていたはずなのに、なんだろう?
出来の良い孫を見てる気分が半端無い!
複雑な表情を浮かべる私に弟のマーセルが話しかける。
「スージー、スージー! まだ痛い? 大丈夫?」
ふっくらした頬を真っ赤にして、二つ下の弟が濃い青の瞳を潤ませる。可愛い。
一言でいうなら、天使。
「大丈夫よ、マーセル。心配してくれてありがとう。お父様、お母様、ヘルマンお兄様……」
お母様とヘルマンの手を借りて身を起こす。
「驚かせてしまって、ごめんなさい。」
ベッドに座ったままではあるが、頭を垂れて謝罪した。
頭を打ったから……と、失礼な呟きが聞こえた。
なんだとこの野郎!
呟きの発信源を見ると、お父様が慌てて視線を泳がせてから、誤魔化すように微笑んだ。
「スザンネが無事で良かった。暫くは安静に過ごすんだよ。」
この国、スレーベン王国では珍しい若草色の瞳を眇めると、まだ涙が止まらないお母様の肩を安心させるように抱き寄せながら言い繕った。
落馬した私の体調を気遣って、家族が部屋を出ていく。
正直ありがたい、そろそろ限界。
理性総動員で荒れ狂う感情を羽交い締めにしているけれど、本当に限界。
「エレオノーレ、後はお願いね。」
後ろ髪引かれるのか、お母様はメイドに声をかける。畏まりましたと、エレオノーレは優雅にお辞儀をした。
弟や従兄が口々に労いの言葉を掛けてくれたけれど、余り覚えていない。ありがとうだとか、大丈夫よだとか、上の空で返していた。
さて、一人になる為にはエレオノーレにも退室してもらわないとね。
ここは迷うこと無く言い放つ。
「エレオノーレ、お腹が空いたわ。」
彼女はお母様にしたように優雅にお辞儀をし、肩を震わせながら調理場へ向かった。
ベッドに体を沈め、頭を抱え込む。
思わず呻き声を洩らしてしまう。
何故なら、私の脳裏には今正に駆け巡る青春!
85年の生涯が繰り広げられている。
「ふぉぉぉ、おぉぉ?」
5才児に突然の記憶。目眩なのか脳内で変わる景色に酔っているのか定かではないが。
「うぅ、脳が……脳が震えるっ……」
目が小刻みに動いているのを感じる。
記憶の終わりを見届けると、息が上がっていた。
「お、落ち着こう。通算90才舐めんなよ。」
クラクラする、精神的な疲労感に目を閉じて深呼吸を繰り返す。
確かに私はスザンネ・フォン・ノイブルグだと言う認識がある。
それと同時に、日本で85年生きて天寿を全うした記憶がある。
こう言うの、読んだことある……異世界転生って言うやつ。
何で異世界かって?
ただの転生かもしれないって?
ただの転生でもとんでもない事なんだけどね。
うん、だってね。この世界には魔法があるんだよ!
魔法だよ! ま・ほ・う!
剣と魔法の世界とか、そこに痺れる憧れるー!
今生と合わせて通算90才だけど、血沸き肉踊る!
あぁ、でも……5才のスザンネ的には微妙。
初恋どころか孫まで体験してしまってるんだよね……
自問自答しながら、5才のスザンネは叫ぶ。
「なんでこうなったー!」
読んでくださってありがとう!
ジャンルは日常ほのぼのラブコメなのかな?
まったく凄くないおばあちゃん、スージーの異世界生活……楽しく読んでいただけるように頑張ります。