三つの願いを叶えたら
──■■■■よ。
俺の名前は■■■■。いたって普通の高校生。いや、ただのオタクだな。
ついさっきまでゲームを買いに歩いていたらトラックにはねられて死にました。
大事なんだけれど痛みとかは感じなかったから特に感じることはない。
精々があのゲームをやりたかったなーぐらいだ。
というかこの真っ白なところはどこだよ。
──■■■■よ。
いや、薄々感づいてはいる。どこからか聞こえるこの声。そして死んだのにまだ思考ができているこの現状。
……つまりこれは転生だな!
そう考えると気分が上がってくる。俺もオタクの端くれ。ワクワクが止められないぜ。
──貴様には転生をしてもらう。
よっしゃ!転生で確定した。
──転生先は貴様らの世界でいうファンタジーのような世界だ。
おお、いいねいいね!
あ、それでなんですけれどそのままだとすぐに死んでしまいそうなので何とかしていただけませんかね。
──心配はいらない。転生する際、願いを三つ叶えてやろう。どんなものでもよいぞ。
追加でチートきました!そうだなー、やっぱり魔法つかいたいなー。
ということで願いの内容は、
『魔法のとてつもない才能』
『無限の魔力』
『魔法が通じない肉体』
でお願いします!
魔法の才能は言わずもがな。魔力に関しては無くて使えませんじゃあ困る。
肉体に関してはカウンター防止で付けた。呪術とかあったらシャレにならないしな。
──本当にそれでよいのだな?
おお、わざわざ確認してくれるとは。それでいいですよ。
──では、その願いを叶えた上で、かの世界に送るとしよう。
すると足元に穴が開いた。当然俺は落ちた。
いやあるあるではあるけれども。案外これ怖いな。
気が付くと俺は森の中にいた。
体は事故に会う前と同じで、服もちゃんとある。
だけど服と靴だけというのはどうかと思うのだが。諭吉さんカムバック。この世界じゃ使えないだろうけど。
体を動かして確認していると、どこからか女性の叫び声が聞こえてきた。
駆けつけたら馬車が緑色の小人に襲撃されていた。ゴブリンかな?
テンプレばっかりだと思いながら魔法の準備をする。
イメージとしてはレーザー。仮称ゴブリンの頭を打ち抜くよう形でやってみる。
しっかりとイメージを固めて魔法を放とうとしたら、なぜか出てこない。
どうかしたのかと疑問に思った瞬間、
耐えきれない激痛とともに、視界が黒く染まった。
そして二度とその男が目を覚ますことはなかったとさ。おしまい。
…え?どうしてそうなったかだって?いやいや、あんなのなって当然のことでしょ。
分からないから聞いているって?しかたないな。一から説明してあげよう。
まず、魔法というのは魔力を使っている。これはさすがに分かっているよね。
で、三番目の願いである『魔法の通じない肉体』。
これは魔力が通らない肉体ということだ。
魔法=魔力なんだから、魔法がダメなら魔力もダメということさ。
つまり、魔法が通じない肉体ということは、魔力を持てない肉体ということ。
それだけだったらまだよかったんだ。
酷いのは一番目。『魔法のとてつもない才能』。
この才能というのはどれだけ肉体の魔力を素早く出せるか、また魔力の減衰量がどれだけ低いかということなんだ。
つまり、体の魔力の通りが良ければよいほど、才能があるということだね。
その分魔法も良く効くようになる。わけではなく自分の魔力も強く出てくるからちゃんと相殺してくれる。才能がない人以上にね。
魔力の通りがよくなければいけない。だけど魔法が通じないということは魔力が通らない
ということで、三番目の『魔法の通じない肉体』と喧嘩した。
あちらを立てればこちらが立たず。だけど願いは必ず叶えないといけない。
だからちぐはぐになってしまった。
魔力の良く通る部分と、魔力が全く通らない部分の両方ができたのだ。
通る部分を通らない部分が覆うようにして肉体ができたんだ。
そしてさらに酷いのが『無限の魔力』。
注意してもらいたいのは才能があるからといって魔力が多くあるというわけではないこと。
このことから才能だけだったら魔力がないから意味ありませんで済んだのに、これだ。
無限の魔力とかふざけているとしか思えない。一体どこから補充しようとしているのか。
さて、ここで問題です。魔力が通らなくて塞がってしまったところに、どんどん魔力を詰めていったらどうなるでしょうか。
答えは破裂する、です。当たり前でしょう。魔力が実体をもってないわけないのだから。
持ってなかったら何かになったり物体を操ったりすることなどできないでしょう。
これが有限だったら良かったのに。あっても才能と同じく意味がないで済んだのに。
実体があるとしても、電子と同じくらいのサイズだから破裂なんて普通しない。
だけど無限だからどんどん増えていく。それに耐えきれなくなって魔力が通る部分がぐちゃぐちゃになってしまった。
ちなみに、なんで魔力が詰まっているのを■■■■が分からなかったかというと、才能のせい。
魔法というのは、その型に魔力を流し込んで何かしらの現象を創り出すこと。
つまり、流し込まれるまで発動しない。
そして、発動させるには流し込むしかない。
■■■■は才能があったから、多くの魔力をいっぺんに取り出した。
勿論塞がっているから流し込むことはできない。
だからより魔力を出す。でもダメ。だからもっと。
こんな感じのことを才能のせいか超高速で行っていたの。だから気付く暇もなかった。
簡単にまとめてしまうと、肉体のせいで中にたまっていた魔力が大暴走して中がぐちゃぐちゃになり、
それでショック死してしまったという感じだね。
バカだよね。
いやーそれにしても、ここまで相性の悪い組み合わせなんて見たことない。
無知って怖いね。何でも相性っていうのがあるだろうに。
というか俺TUEEEなんてしたかったら『時間を制御することができるようになる』だとか『全てを成し遂げられるようになる』だとか選ぼうよ。『勝ちたいと思ったら勝てるようになる』でもいいから。
なんでわざわざ人間の枠に収まろうとしたのかわからない。物理的なものじゃなくて概念的なもののほうが強いに決まっているじゃない。相性の悪さなんてほとんどないし。
これで説明はおしまい。みんなは願いが叶うようになったら、その願いの落とし穴にはまらないようにしたほうがいいよ。願いを無駄にしないようにするためにはね。
チートをつけるにしても加護とかふわっとしたのではなくそれなりの理由付けは必要だよなー。
そんな考えでできた作品。