『魔王になりました』
『ああっ! 死んでしまうとは情けない! ……偉大なる癒しの女神パケナイアよ! この者の永き眠りに安らかなる風を、そして心地よき寝床を与え給え!』
だ、誰の声だ?
大きく響き渡る声だ。
もしかして教会とかか? 早くこの中から出て、外の世界を見てみたい。
俺のイメージ的には、棺桶の蓋は横に押せばぱっかーんと開くイメージがあるのだが、なんか開かない。とりあえず左右にでも振ってみるか。
俺はまだ少し慣れない体を、なんとか左、右、左、右、と左右に揺らす。棺桶的なものは割と軽く、すぐに揺らすことができた。そして、
『ガタッ!』
いってえ! なんか棺桶ごと落ちたらしい?
でも開かない。どんだけ頑丈に作られてるんだよって話だ。
――誰かの足音が一つ、聞こえてくる。
段々と俺の方に近づいて来ているのが分かった。その足音は棺桶の前で止まり、何かで棺桶を四回叩いた。今しかないと思い、自分も同じように四回、中から外に叩き返す。すると、カチッという音が真横から二回なり、少しずつ、棺桶の蓋が開けられる。
しっかし、棺桶の扉抜けて、棺桶の蓋が奥にあるってどういうこっちゃよ。
眩しい光が少しずつ棺桶の中に入ってくる。めっちゃビビられそうと思いながら、閉じていた目を少しずつ開けた。
目の前には、薄いピンク色の体をした、人らしからぬ者がしゃがんで俺の顔を見ている。
この蓋を開けた主、先ほどの足音の主だろう。毛皮のもこもこした服を身につけているらしい。顔を見るために、首を少し傾ける。
なんと、目の前にいたのは、尻尾の生えたものーー俺の中で言うサキュバスであった。
薄いピンク色の肌なのに、髪が濃いピンク色で、胸も大きく色気のある感じ。
サファイアの様に赤くて鋭い目つきで俺を見ている。
というか、口を開けてポカンとしている。
「……おう……さま?」
可愛らしい高い声が聞こえた。
え? 俺って王様なの?
依然、サキュバスっぽいやつは目を丸くして口を開けたままだ。何やら辺りが騒がしい。
いやまあそうなるだろうけどさ。死んだ人がいきなり生き返るんじゃなー……
俺は棺桶の中から徐に出て立ち上がり、体についたカビや埃などを手で払う。
前にいたサキュバスらしい者は、顔を赤面させて、自分の目を手で隠した。
なんか変なことしちゃ…………
すぐに気づいた。
腰の周りには、白やピンクや赤などの綺麗な花がたくさんくっついていて、辛うじて『ムスコ』を隠している。
って……ほぼ全裸状態じゃねえか!
やべえやべえ! 転生直後なのに大露出魔として名を馳せてしまうことになる!
というかこんな格好にした奴誰だよ!
「ま、『魔王様』……! 民の前です! 何でお亡くなりになられたあなた様がいきなり生き返ったのはわかりませんが、とりあえず服を……!」
真っ赤になった顔を抑えながら俺に話をする。
魔王様……? 一体どういうことだ?
自分自身の体を見てみると、先程はホコリやらなんやらで隠れて見えていなかったが、少し、薄紫色をしているようだ。
前には、民と呼ばれる者達。要は魔物達がいる。体が緑色のゴブリン。豚か猪かのような顔をしたオーク。尻尾が生え、紫色の体をしている悪魔のようなもの。ついでに死神みたいに鎌を持っている奴までいる。
立ち上がって俺の方を見ている。
みんな、自分の大きさに合った毛皮のコートらしいものを着ている。
どうやら今は寒い時期らしい。
そう思うと、体がだんだんと寒くなってきた。
さすがにほぼ全裸はキツイよ……
「魔王様! これをお使いくだされ!」
後ろからかなり老い過ぎた顔色の悪い、金ピカの装飾品がじゃらじゃら取り付けられている祭服を着た老人が、俺に大きな毛皮を渡してきた。
棺桶の中で聞いた声だ。
先ほどの声主はこの老人らしい。
俺はその毛皮を全身に覆いかぶせる。
アッタケー。
さっきまで顔を赤くして顔を隠していたサキュバス的な奴は、手で顔を隠しつつも、指と指の間で俺のところを見た。
何かホッとしたらしく、一息ついたと思ったら、立ち上がっていきなり目の前の魔物達に、この大きな教会に響き渡るような大きい声でこんなことを言った。
「魔王様が(何かよく分からないけど)復活なされた! 皆の者、喜べ! これで我ら魔王軍の危機はとりあえず免れた!」
…………俺は、王様でもただの王様ではないみたいだ。
理解力のない俺でさえ分かった。
どうやら俺は――
魔王に転生したらしい。
次話も宜しくお願い致します!