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魔王二世は充実しない  作者: 桜木はる
プロローグその① 【ああっ! 死んでしまうとは情けない!】
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『異世界の中の棺桶の中の死人の中』

「まあまあ、とりあえず落ち着いてわしの話を聞いてみい。じゃからもう少し後ろに下がってもらえんかのう」


 さっきまでの剣幕とはまるで違い、老人は落ち着いたそぶりを見せて、冷静になる。俺は怒っても仕方ないと思い、込み上げてくる怒りをほんの少し抑えながら、後ろに下がった。

 このジジイのことだ。もしかしたら後ろに、イージートラップ的なバナナとか置いてあるかもしれない。

 よく下を見て下がるとしよう。


「唐突じゃが、お前さんは、天国か地獄か、どっちに行きたい」


 老人は背もたれに寄りかかるのをやめ、真剣な眼差しで俺を見てきた。

 天国か地獄……?

 俺自体、人生地獄を歩んできたようなものだから、もう地獄に戻りたくは無い。だとしたら天国。だが、天国とはどういう所なのだろうか?


「おい爺さん。天国ってどんなところだ?」


 老人は少し考えてから、俺に言った。


「わしみたいな老人が沢山おって」

「あっ、じゃあ天国嫌だな……」


 老人は椅子からガクッと転げ落ちた。


「ぬうぅ……その言い分だと地獄も嫌だと言ってるようなもんじゃな……」


 その通り。当たり前。

 というか地獄を選択する人なんて普通はいないだろう。


「ならば……お前さん。異世界というものには興味ないかの?」

「――っ! 本当にそんな世界あんのか!」


 俺は異世界系のラノベが好きだった。唐突な告白であるが、毎日毎日読んでいるくらいだ。

 飯に使う金を惜しんでまで新刊を買うほど、好きだった。そのせいで一度死にかけたが。


「丁度、お前さんと同じ境遇で死んだ者がおるのじゃが、その者にお前さんの魂を入れるんじゃ。そして生き返らせ、新たな生活を送る。どうじゃ?」

「いや、どうだと言われても……その人どうなるんだ」


 恐る恐る訊いてみた。


「それは心配いらん。その者の魂は完全に朽ち果ててしまっているからの」

「は、はあ……」


 ダメだ、そこだけは全く理解することができない。


「お前さんは、散々な人生を送ってきた。一日中の楽しみもそこまでなく、ただただ働いて生きるだけの、人形みたいなもんになっておった。ここらで一つ、のんびりとしているかつ、刺激のある人生を過ごしてみる気はないか?」


 その言葉に俺は、微かな希望を覚える。

 もし、本当に生き返ることができるのなら、くだらない日常の日々がないのなら、生き返って人生をまた、一からとまではいないが、やり直してみたい。そう思った。


「できるのなら……」

「ふぉふぉふぉっ、お前さんなら言うと思ったわい。なら、すぐに行くかの? ほれ、そこに扉があるじゃろ? それを左にスライドさせればすぐ行けるからの」


 老人は俺の後ろを指差した。俺は、後ろにいつの間にかできていた扉を見て、少しずつ近づいて行く。

 五角形の扉。まあ扉というよりも、ゲームなどで出てくる棺桶に近い形だ。


「いや、ちょっと待ってくれ。その前に気になることがある」

「なんじゃ、はよ行け」


 のっそりと椅子に座り、また背もたれに寄りかかって、スイッチでマッサージ機能を動かしている。

 このクソジジイ、性格も極限まで悪ければ口まですこぶる悪い。

 本当に神なのか? とても信じられない。


「俺って、チート的なもの何も貰えない系?」


 異世界転生チート系のラノベを見てきた俺は、少し憧れてもいた。だがしかし、


「うむ。刺激なくなるじゃろ」


 老人は頷いてそう言った。何も言い返せない。


「んじゃあ……異世界って、空気とか言語とか大丈夫なの? 俺がいた世界とは別物だろうし」

「それなら心配はいらん。体に入れればその者の世界環境に適応することができるでな」

「へえ……」


 少しだけホッとして、胸を撫で下ろした。

 緊張のあまり、肩は依然、上がったままだが。

 この扉をくぐり抜ければ、俺の新たな人生が待っている。そう考えると、逆に緊張しすぎて手が震えてしまい、ドアノブに手がかからない。アル中みたいになってる。やべえやべえ。

 やっとの思いでドアノブに手をかけた。

 そして、何回か大きな深呼吸をして、ドアノブを右に回す。そして、左にスライドさせる。

 開けた瞬間、目の前は光に包まれて、俺の視界をすべて遮ってしまった。光が消えたと思うと、一気に暗く、カビ臭いところにいた。

 体の身動きがあまりできない。死んだ人の体に乗り移ったとなると、おそらく今は棺桶の中だ。

 体感は少し違和感を感じるくらいで、大きな変化はない。それに、ただカビ臭いだけで、空気は吸える。

 どうやら転生的なのは成功したらしい。なんだか味気ない転生であった。

 だが……この棺桶の中からはどうやって抜け出せばいいのだろうか。試行錯誤をしていると、棺桶の外から、響き渡るような大きな声が聞こえてきた。

まだまだ続くプロローグ。

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