十 『洗礼』
作戦なんて立ててこなかったし、そもそも初参加で初戦いでコロシアム来るやついないだろう。
こんなことになるんだったら、城のみんな連れて勇者ぶっ倒しに行けばよかった。数が多けりゃごり押しで勝てるよな。普通に考えて。
……真ん中付近じゃ戦闘が繰り広げられてる。
俺ら行っても勝てるはずないよなぁ。あの白髪の子も行ってないし、たぶん無駄だと思って動いてないのだろう。……観戦するか。特等席だし。
エナに座るように言って、俺は地面に降りた。エナは体育座りをして俺のことをずっと見ている。一方俺は、中で繰り広げられている戦闘を最高の席で観戦している。この異様な光景について、観客は文句を言って来るかと思いきや、割と中の戦闘に熱中しすぎて俺らのことは全く目に入っていないらしい。
そもそもコロシアムって何のために作られたんだ?
娯楽? ただの戦い好きの集まり?
色々ありそうだけど、俺的にコロシアム自体は娯楽のイメージがある。
競馬と同じで、それぞれの人や魔物に倍率があって、掛け金決めて、掛けて勝ったら金をもらう的な……某ゲームのコロシアムではそんなシステムだった気がする。
しかし退屈だなー。あの白髪の子も退屈してるんじゃなかろうか。話でもして来るか?
と、思った次の瞬間、中の戦闘で何故か一人だけ離脱して、こちらに物凄い勢いで走って来た。
……あの筋肉マンだ……
「おうおうオメェらぁ! 隙が多すぎだぜぇ!?」
その筋肉マンは魔物を連れてはいなかった。おそらく魔物だけを置いてその隙にこちらに来たのだろう。俺らを弱いとでも思ってるのか?
……弱いけど。ミラルは高く飛び上がり、拳を作って、上から俺らに攻撃を仕掛けてきた。
エナは俺を掴み、抱え込んだまま、体を丸くしてくるりと横に回転した。その後すぐにミラルの攻撃が俺らが元いた位置に当たった。何とかミラルの攻撃を辛うじて避けることができた。
ミラル拳の攻撃跡が砂のフィールドにくっきりと残っている。危なかった。咄嗟の判断に関してはエナの方が上手なのかもしれない。
「ほう……俺様の超絶拳を避けるとはな。中々すばしっこいじゃねぇか。だけどな、これは避けられねぇだろう?」
そう言い、ミラルは何処かから一丁の銃みたいな黒い物体を取り出し、銃口をこちらに向けてきた。
な、なんて卑怯な! その筋肉を使えよ! 生かせよ! それ指の筋肉しか使わねぇだろ!
「ここはコロシアムだ……。そして今いるのは闘技場。ここで闘ってる俺らにはルールなんてないんだぜ」
そう言い、ミラルは引き金を引いた。
その瞬間、先の尖った黒い銃弾のようなものがこちらに半端でないスピードで飛んできて、すぐ、エナの胸に当たった。
そして、俺を抱えたまま、エナは地面に倒れこんだ。俺はべちゃっと地面について、エナに潰されてしまった。ただ、意識はある。スライムは潰されても平気だ。だが……
「エ……ルナ! ルナ! しっかりしてくれ! 返事できないからしなくていいけど、せめて何か動作をしてくれ! 頼む、頼むから……」
エナは反応することがない。
本当に死んでしまった……のか……? この光景を見て、ミラルは不敵な笑みを浮かべ、不気味な声で笑った。
「これがコロシアムだ。出直してこい。スライムなんて言う最弱雑魚種を率いたって此処では全く意味がない。じゃあな、雑魚供」
ミラルは次に、エナの下から何とか這い出た俺に銃口を向けた。くそっ……もう、ダメなのか……
誰も助けられずに俺の新しい魔生は終わってしまうのか……? また……人生の時と同じように……
そして、ミラルは銃の引き金を力強く引いた。
次話もよろしくお願いいたします!




