九 『残念な紹介』
会場に着いた。とても広い砂の戦場だ。観客も大勢いた。というか、満員である。
こんなに見られると流石に緊張する。でも、この少ない人数でここまで盛り上がると、とても興奮してしまう。エナは元々スライムで、ここまで人に見られることが無かったから、きっと緊張してガチガチになっているんじゃなかろうか。
歩き方が覚束ないし……心配だ。
「さぁーて! 今年もこのヤムヲエズコロシアムで、王座をかけたコロシアムが始まぁるぅ! この勝負に全て勝ったものは、今王座の席にいる、魔王を倒した勇者、マモン=グアリス様と闘うことができる権利を得ることができるぅ! 去年、一昨年と、王座の間の勇者様に勝つことができるものはいなかった……今年は、挑戦者に相応しい実力を備える者がくるのかーぁ!? 私は楽しみな所です!」
実況席どこかよく分からないけど、めちゃくちゃに大きい声で、コロシアム全体に響くような声で実況をしようとしている。
「始めは魔物使い部門! さて選手を紹介だぁ!」
これはとても嬉しい。俺らはどんな感じで紹介されるのだろうか。
「一人目、不屈の闘志、不変の有志、地獄から這い上がりし鬼の生命、いやもはや鬼! リボルドラゴンを操りし者、【イール】!」
観客席から、フーフーと、盛り上げの言葉が出てくる。
動きやすそうな、黒い服装に身を包んだ者、頭から角が生えている。あれは鬼人と呼ばれるものか? それにリボルドドラゴン……初めて聞いた。でも色は違うが、あの膨らんだドラゴンはどこかで見たことがあるような、ないような……
「二人目。寒いちほーからやってきたー!? わー! たーの(略)。戦獣のライガーを使えし寒い地方対応済みふわふわ魔物使い、【リグレ】!」
先程まで、フードをかぶって顔が見えなかった人……いやあれは狐か? 白い服を突き抜けて、キツネ色の尻尾が生えているように見える。
それにライガーと呼ばれる魔物は、牙が向いていて、とても怖い。
「三人目。なんか死んでも絶対死ななそう! 霊界から来りし者のような感じを醸し出しているけど、実は普通の人間魔物使いです。閻魔の僕と呼ばれるミラクリスタルスカルを操りし者、【ミャゴラー】!」
髪が異常に長い、あれは男性なのか女性なのかももはや分からない。それに魔物の表情がとても怖い。てかあれ骸骨じゃないか? あれでも魔物なのか……
「四人目。こ、この筋肉は……強そう! 毎日毎日どんなお食事、どんな筋トレをなされたらこんなになるんですか!? 寂林に住まいしマッスルゴリアを操りし者、【ミラル】!」
あれはさっき俺らを煽ってきたイキリマッスルマンだ。最初はあいつを狙おう。ゴリラは鼻息荒くて凶暴そうだが、何とかなる! きっと!
「五人目。ん……この人はー……誰か、説明してくれる人いません? 僕知らないんですけど……というか魔物はどこにいるの!? ねぇ教えてよ嬢ちゃん! 【シラバヤ】!」
あの子はシラバヤというのか。やはり聞いたこともないし見たこともない。だが何でこうも懐かしく感じるのか……不思議だ。
「そして最後の六人目。とりあえず可愛い! 他の魔物使いじゃなく俺に襲わせ……おっと、失言失言……ただ、持っているのはなんか腐食して数年経つような黒いスライム!? きも! そんな魔物で大丈夫かー!? 謎の黒いスライム【ニェ】を操りし者、【ルナ】!」
「おい、キモとかいうのやめろ! 捻り潰すぞ!」
俺は大声で実況席に向かって怒鳴った。
観客は皆大きく笑った。エナは少し怒っているようで、顔を少し赤くしてほっぺを膨らませている。
「おお、怖。それではこれから試合を始めます! レディ――」
カンッ! と、金属音が会場に鳴り響いた。その瞬間、皆魔物に指示を出し始め、そして動き出す。
俺たちは少し遅れてしまった。何とか動き出そうとしたが、皆戦闘を始めていてなかなか怖くて身動きが取れない。
次話もよろしくお願いします!




