七 『こんな勇者は嫌だ』
「とりあえずですな、魔王城でも言った通り、ニル殿にはこの国に住まう悪魔のような勇者を倒していただきたいのです」
「でも何で俺なんですか?」
俺は疑問を投げかけた。
「いやだって、わしらが束になっても前魔王を倒した勇者になんて叶うわけありませぬし、そもそもレベ――あ、戦闘経験がわしらの国は薄いのですじゃ。(夜の戦闘経験は豊富なヤツ多いですがな)。そもそも、この国付近にはそこまでつおい魔物出ませぬしな」
……今何か変なこと小声で言わなかったか?
それに、何か変に異世界らしい事を言おうとしてやめたが……まあそんなことはいい。
確かにこの国に来る途中、魔物が全く出てこなかった。きっと温厚な魔物が多いのだろう。
魔王城の前付近では、魔王の俺に攻撃して来る魔物だっていたし。
魔王が全てというわけではないのかも。それと同時に、攻撃、または反抗をしなければ魔物から襲われることがないのかもしれない。
ここら辺では、な。
「だから魔王(という肩書きを持った)の俺に頼んだと」
スペクトラル王は腕を組みながら二回頷いた。
仕方ないと言っちゃ仕方ないのかもしれないが……とんだ迷惑だ。
「そうそう、ちなみにこの国には『ヤムヲエズコロシアム』という施設がありましてな。今日はちょうど大会が開かれる。ニル殿には、そこで現コロシアム王座にいる勇者と闘って戴きたい」
スペクトラル王は腕を組んだまま俺のことを真剣な眼差しで見つめる。
とりあえずコロシアムのネーミングセンスどうにかしてッ! とツッコんでおきたいところではある。
「ちなみに、どうせそれって全部勝たないと王座にいる勇者と闘えないんですよね?」
「そりゃそうじゃ」
「めんど」
するとスペクトラル王は立ち上がり、俺の前に来て、手を擦り合わせて「お願いしますお願いします……」と何度も何度も拝むように言った。
「王がそんなことをするのはやめて下さいよ……あ、ちなみに、その勇者って具体的にどんな奴なんですか?」
王は手を擦り合せるのをやめ、頬杖をついた。
「そうですな……所謂『強欲勇者』とでも言いましょうか。金を使っては女遊び、または娯楽、あとは全国掘り出し物オークションで自分が欲しい物を買いまくったりなんだりと……ともかく欲が深いのですじゃ。そのせいで国が丸々乱れてしまい、経済は豊かでも、淫乱な男や女が来たり、頭おかしい奴らがきたりなど、治安も乱れていったのですじゃ。ニル殿もここに来る時に見ましたですじゃろう? あの如何わしい店ばかりが並ぶ大通り……もしかしたら、かなり目立つので、勇者にもあったかもしれませぬが、女遊びの酷さや、金で何かを釣ろうとする思考など、全てが欲深き人――もはや『魔物』そのものですじゃ。皆、好きでやってるわけではないはずなのですがな……」
そんな勇者は嫌だな……
勇者は勇者でも堕ちた勇者というわけか。だから魔物に対抗するべく魔物に手伝ってもらいたいと。要は目には目を、歯には歯を、だ。正直ストレスがたまっているから悪い話じゃない。
しかし、これではエナもコロシアムに出なければいけないことに……
「忘れておりましたが、ヤムオエズコロシアムでは、魔物は魔物で、人は人で登録されるのですが、魔物と人なら、人が魔物使い扱いになり、人としての参加が認められますので、人の王座である勇者と最後で闘うことができるのですじゃ。それに魔王の姿だと民が驚くでしょうし、結論的に今のお二人の姿で行った方が良いですぞ」
完全にエナも参加しなければいけない方向性になってしまった。
俺はエナの方を見て、「大丈夫か?」と聞くと、エナは笑顔で頷いた。
本当は怖いのだろう。きっと無理をしている。人の勝手な事情で人生が……いや魔生が決められているかもしれないのだ。
正直俺だって怖い。だが、やらなければ解放されることはない。やるしかないである。
エナ、ごめんな。
俺はエナを見つめながら、少しプルプルと震えた。エナは俺の気持ちを踏んでくれたらしく、首を横に 振って、また笑顔を作った。
「……ちなみに王、その勇者の名前は何ていうんですか?」
「ふむ、確か――【マモン=グアリス】だった気がしますな」
スペクトラル王は王座に歩いて戻りながら喋った。
グアリスか……なんかよく分かんないけど名前だけカッケェ! なんか吸血鬼にいそう!
次話もよろしくお願いいたします!