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魔王二世は充実しない  作者: 桜木はる
第一章 『強欲勇者討伐隊(一人)』
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六 『アホ兵士』

 牢屋を見張っている兵は俺が入れられる前からウトウトしていた。

まあ門番って暇だもんな。一日中同じ空間、同じ体勢、同じ空気を吸っていると、嫌でも眠くなってくる。

 俺はコンビニで深夜シフト行った時に、お客さんが全然来ないから立ちながら眠っていたことがある。 その時は店長にめちゃくちゃ怒られた。

 ……しめしめ、門番兵は眠りについたらしい。

 早速体をスライム体質にして、郎の隙間からなんとか擦り抜けた。

 結構スライム体って便利なものだな。

 次に、出口を探した。そして、頑丈そうな鉄の扉を見つけ、溶解液を出して溶かした。

 鉄を溶かせる程だ。普通は熱ッ! じゃすまない。城下町の中では不慣れすぎたのか、強欲変態のチャラ男に対してあまりダメージが通らなかった気がした。慣れてくればもっと色々なものが溶かせるようになるかもしれない。今度練習してみるとしよう。

 扉から出ると、目の前には広間がある。兵士たちは皆エナの聴取に入っているからか、それとも娯楽施設にいるかで、全く人が居る気配がない。

 なんてザル警備なんだ。まあこちとらめっけものなんだが。

 広間の左の方に、確か取調室と律儀に扉の真ん中より少し上の方に書いてある扉があった。そこにエナはいるのであろう。

 俺は扉の前まで行き、溶解液をまた分泌した。少し慣れて来たのか、時間はまだかかるが、力を少し入れるだけで作れるようになってきた。

 早く溶解液ナチュラル創生ができるようになりたい。

 俺は木製の扉に溶解液をかけてこっそりと扉の中に侵入する。

 中には、兵士が二人、片方は取り調べ内容を書く人と、もう片方は取り調べ自体をする人とに分かれている。

 刑事ドラマみたいだ。それに、取り調べに夢中で俺に全く気づいていない。

 もちろん、エナはずっと黙ったままだ。


「君、かわいいね。いくつ? これ終わったら、僕と食事に行かない? 美味しい食べ物があるお店知ってるんだよね、僕」


 おい! 呑気に口説いてないで取り調べしろよ!

 鎧を着た兵士は、エナを口説いている。恐らく、話さないから取り調べに飽きて自分の話にでも無理やり持ち込んだのだろう。

 エナは首を横に振っているようだが、この兵士は全く気にせず、エナを口説いてばかりいる。

 アホか。

 とりあえず、エナの足元に素早く移動して、エナの足から太ももにかけて登った。

 エナはその間、くすぐったかったのか時折ピクピク動いていたが、太ももの上に乗った俺を見た瞬間に少し笑顔になった。

 それに、この角度、兵士からは丁度死角だ。

 さて、どうしてやろうか……


「あれ? 何で嬉しそうにしてるの? まさか僕といるのがそんなに楽しいのかい?」


 兵士は何故か照れ臭そうに笑っている。

 やっぱりこいつはアホだな。仕方ない、ここはひとつ……脅かしてやるか。

 と、そう思った瞬間、扉が勢いよく開く音がした。

 そして、中に入ってきた兵士一人が、


「王が、捕まえたスライムと娘を連れて来いと仰っている。今すぐ連れて来い!」


 と言った。

 今までエナを見て照れ臭そうに笑っていた兵士は、飛び上がるように驚き、入ってきた兵士に向かって焦りながら敬礼をした。


「は、はい!」


 元気な声で返事をして、エナの方を見た。

 取り調べの書記がクスクス笑っている。気持ちは分からなくもない。俺もクスクス笑いたい。というか大笑いしたい。


「あ、自分ここにいまーす。連れてってくださーい」


 俺は兵士に向かって自ら挙手……いや手がないから挙スライム……? をした。

 兵士は三人とも驚いた様子で、目を丸くしている。

 驚くのも無理はないであろう。

 そして、部屋から連れ出された俺たちは、兵士監視の下で王座の間に連れられた。

 王の椅子かと思われる、人間のサイズではとてもぴったり合う人がいない椅子に、スペクトラル王が座っていた。

 王は杖を使いながら、王座の間にいる兵士全員を部屋から退室するように指示をした。王を心配している兵士もいたが、そんなことお構いなしに全員退室させた。


「ふぅ……やっと落ち着いて話せますな、ニル殿」


 疲れたのか、ため息をつきながら話している。

 ……そうだ、王は俺がスライムであっても、ニルだということを見抜いていた。やはり王ともなると、普通の人とは異形の能力を持つのだろうか。


「気づいてたんですか」

「そりゃあ、もちろんですじゃわい。それと――その女子はニル殿の近くにずっといた白いスライムですかな?」


 エナの顔を見ながら、ちょっとドヤった顔をして、目を細め、右の眉毛をピクピクさせながら言った。

 一体こいつは何者なんだ。

次話もよろしくお願いいたします!

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