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魔王二世は充実しない  作者: 桜木はる
第一章 『強欲勇者討伐隊(一人)』
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五 『もうやになっちゃうよ!』

 城の中はとても広かった。

 魔王城は魔物が多くいる為か、城の割にそこまで広くないなーとは思っていたが、本当はこのくらい広いのだろうか。

 目の前にはおそらく王座の間に進むであろう、入ったところから敷かれているレッドカーペットが、階段の奥までずっと続いている。それに、エントランスのような豪華な椅子やらガラス張りの机やらが並べられている空間もあれば、兵士が出入りする場所、要は詰所がしっかりと整備されている。

 魔王城、あまり深くまでは見ていないから、今度見てみることにしよう。このくらいの施設はあるかもしれない。

 また、娯楽施設のようなものまである。おそらく、この国の風貌からして、王様の趣味か、勇者の趣味かどちらかなのだろうが、正直城内に娯楽施設を置くことは、俺だったらあまり賛成しなかっただろう。

 この前友人に誘われていったパチンコ店でぼろ負けしたし。

 それ関係ないか。

 とりあえず、この国に来たのは王に会って、色々と事情を聞くためにやってきたんだ。早く王座の間に行くとしよう。


「エナ、前の階段登るぞ」


 エナは俺の言葉を聞いて、階段を登った。階段のそばにいた兵士には睨まれていたが、まあ、顔パスってことでさ。まあ顔ないんだけど。

 階段はおよそ三十段程あった。エナはこの体にまだなったばかりで慣れていないからか、少し疲れていた。


「大丈夫か?」


 エナは息をゆっくりと落ち着かせて、うんと頷いた。さすがに、俺があの姿のままで入ったら、勇者に滅多斬りにされるだろうから、結果的には良かったと思っていたが、エナに無理を強いらせてしまうことになるとは。とんだ誤算であった。

 そして、王座の間に続くであろう、少し大きな扉の前にたどり着く。兵士はやはりいた。ここの守備を任されるくらいだ。きっと兵士の中でも上級クラスの、レアリティ星二つくらいのやつであろう。

その兵士は鉄の鎧を着て、変に踏ん反り返っている。


「誰だ。魔物を連れてスペクトラル王に会おうなど言語道断。ここを通すわけにはいかぬ」


 背の高い一等兵は、俺らを見下ろすように、立派な髭を触りながら偉そうな態度で言った。


「いや、俺ら王に呼ばれてきたんだけども」


 そう弁解しようと試みるが、


「戯けが。王が魔物と小さな娘を呼ぶ筈がない。よって早々に立ち去れ! さもなくばここで斬るぞ!」


 そう言い、腰にかけていた鞘から鉄の剣を取り出し構えた。

 あー、なんでこう短期で傲慢な人って単騎でくるかな。(上手いこと言ったつもり)

 だからあまり好きじゃないんだよなぁ。


「はいはい、分かった分かった。戦えばいいんでしょ」


 今ここで起きようとしている戦闘を知る者は、恐らくこの城の中でどこにもいないであろう。


「我が剣術、受けてみるがよい! ソリャリャリャリャリャ!」


 と言って、その場で剣を適当に降っている。

 よくこんな奴がこの位置に来れた者だ。もしや、ここの国のレベル自体だいぶ低いのではなかろうか。もしや、兵士を教育するはずの教官は呆れて適当に指導しているんじゃなかろうか。

 そりゃ、勇者に乗っ取られても仕方ないわけだ。城下町も如何わしい所ばかりだし。


「エナ、ここで待っててくれ。すぐ終わると思うから」


 エナは心配そうにしながらも、俺を地面にゆっくりと降ろした。

 スライムは液体の魔物……確か、城下町で勇者にくっついた時に、体の中で何かが分泌されるのを感じた。

 おそらくそれが溶解液だろう。


 ――なら、今の俺には、


そうして、兵士の真下まで近づいて兵士の足から少しずつぬるぬると登り始めた。


「う、うわぁ! なんだ! 離れろ! 離れろ!」


 兵士は俺を体から剥がそうと必死に抵抗する。だが、意図も簡単に取れるはずのないこの粘液は、一切剥がれることがない。

 そして、俺を剥がそうとした兵士の手を伝って、兵士の持つ剣の刃の部分に全身を包ませ、あの時のように、体に力を込めて、溶解液を分泌した。

 そして、刃は溶けて、俺の体に取り込まれて言った。


 ――取り込めないものなんて、何もない。


「体質変換、鉄刃(ヤイバ)!」


 身体がスライムからカチカチの鉄の刃に変わった。

 ギンギラギンにさり気ないぜ!

 というかこれ、某ゲームでこんな敵いたよな! 刀が浮いていて、生命が宿っている的なの!


「ひ、ひぃぃ! 大変だ! みんなー! 城内に魔物が出たぞー!」


 一等兵がそう言うと、城の中にいた兵士たちが階段を登って続々と現れてきた。

 俺の話を聞いてくれずに、勝手に思い込みだけで行動に走ったこの兵士が一番悪いのであるが、何故か俺らのせいにされ、結局地下の牢屋に入れられてしまった。

 粗方魔王軍のスパイとでも思われたのだろう。

 それに俺は刃のままで。

 牢屋に刃が入れられるなんて何てシュールな絵面なんだ! この世界自体シュールそのものだけども……

 しかも、エナは取り押さえられて、取り調べを受けるみたいだし、きっとエナは俺のことを心配しているだろうし、俺も放って置けない。何より話すことができないから、もしかしたら危害を加えられる可能性だってある。

 刺激が欲しいとは言ったが、面倒のかかる刺激だなおい! まったく、やになっちゃうよ!

次話もよろしくお願いいたします!

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