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魔王二世は充実しない  作者: 桜木はる
第一章 『強欲勇者討伐隊(一人)』
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四 『言葉』

 最後に教えなければいけないもの、それは「言葉」だ。

 人型になったのに、話せないのは致命的である。コミュニーケーションは一応取れるが、それは俺との間柄だけであって、他人には通用しないだろう。

 だからこそ、言葉を教える必要があるのである。


「エナ、次は言葉を教えるぞ」


 エナは首を傾げて、俺の方をじっと見つめた。


「俺が今話しているだろう? これが言葉そのものだ。要はエナに話せるようにさせたい」


 エナは話すという言葉を理解したらしく、うんうんと二回頷いた。

 言葉と言っても、単語単語を覚えさせるのではなく、五十音を覚えさせると言った方が正しいかもしれない。

 その方が色んな場面に応用は効くし、それ以前に普通は基礎的なことから教えなきゃ言葉なんて応用できるはずない。

 まあ、言葉の場合、意味も理解しなければいけなくなるのだが……


「じゃあ、まずは母音から教えよう」


 エナは自分の胸を見て、頰と耳を少し赤らめて俺の方をじっくり見てきた。

 違う、そっちじゃない。別では合ってるかもしれないけど、今は合ってない。というか、そこは理解できるんだな……

 女性意識的なものは割と高いのか……? 人間の体に変体した時は、全裸なのも全く気にせずにアプローチ……というよりもくっついていたのにな。……色々と。


「エナくん、そっちじゃないんだ。母音っていうのはね、日本語で言う『あいうえお』のことだ」


 ……そういやここって日本語通じなくね?

 あ、俺この世界の言葉は知らねぇんだった。これじゃあ言葉教えられねぇ……

 エナは一向に首を傾げたままである。これはどうすれば伝えられるだろうか。

 いや、でもよくよく考えてみると、日本語って言葉がこの世界で「日本語として」相手に伝えることができているんだから、エナには俺と話す時の為に日本語を教えればいいか。

 帰ったら、メルニムに、喋れるけど言葉の書き方とか忘れました的なことを言って、エナと一緒に教えてもらうのがいいかもしれない。おかしな理由だけども、この世界自体どんなものか知らない今はこんな感じで考えることしかできない。


「んじゃあな。母音はこの際どうでもいいや。まずは口から声が出せるかだけを知りたい。口を開けて、あー、って言ってみてくれ」


 俺がそう言うと、エナは無駄に力強く頷き、口を開けて声を出そうとした。

 案の定、声は出ない。口の使い方を知らない人……スライムが声を出せるはずがないか。

 やはり声の出し方から覚えてもらわなければならないらしい。

 赤子とかって声の出し方知らなくても、泣いたりして声を出すことができるから、声の出し方知らなくても出せるんじゃないか的なことを思っていたが……これは耳に障害がある人と同じような現象なのだろうか。

 いきなり話せと言われても、声を聞いたことがないから、声の出し方が分からないんだっけか。友人にずっと前に聞いた覚えがある。

 でも、声は聞こえてるみたいだし、声の出し方は覚えることはできるだろう。

 今は仕方ないから、後々メルニムにでも教えてもらうことにしよう。いや待てよ……俺が帰った時、見知らぬ女を連れてるとなったらメルニムが何と言うか。

 もしくはまた泣き出すかもしれない。そもそも何で魔王の側近がサキュバスなんだ?

 もしかしたら前魔王サマのご意向かもしれないが……女にあまり接してこなかった俺にはとてもじゃないが、接しにくい。ああ、こんなこと考えてる暇はなかった。

 エナは足をぷらぷらさせながら、退屈そうにしている。


「帰ってから……一緒に勉強するか」


 エナは頷いた。微かに、「うん」と聞こえた気がしたが、恐らく気のせいであろう。

 俺たちはベンチから立ち上がり、また歩き出した。もう城は目前だ。

 しかしまあ、この姿で城に入っていいのかどうかが問題だ。

 城の前に着いた。城にも門はあるらしく、やはり門番は二人いた。エナはゆっくり歩いて、門に近づいていく。


「おい、そこの女とスライム! 止まれ!」


 門番の側にいる大御所みたいなギザギザした髭を生やした兵士が、偉そうな面構えで声をかけてきた。

 まあ、そうなるよな。

 その兵士は俺たちをじっと見つめる。


「どこから来た」

「魔王城から」


 と、俺はその兵士に向かって言った。


「魔王城……使いの者か。分かった。入れ」


 それだけ言って、自分の元いた場所に戻る前に門を開けた。

 おそらく俺たちの手じゃ開けられないから開けてくれたのだろう。お気遣いはありがたいのだが、俺ら使いの者じゃないし。俺魔王本人だし? それにスライムが話すこと自体驚けよ、って話。

 そして俺らは城の中に入った。

次話もよろしくお願いいたします!

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