『守る』
プロローグもそろそろ畢を迎えます。
青や緑のプニプニした物体は、俺に歯向かおうとしているのか、体を小刻みにぷるぷると動き出し始めた。そして、俺に向かって変な液を飛ばしてくる。
その液が毛皮の服に触れた瞬間、服がジュウッという音を出して、焼け爛れたかのようになって穴が空いた。
まさか、溶解液か!
緑や青のプニプニはまだ俺に対して液を飛ばしてくる。
このままだと俺が溶かされてしまう。
慌てて足元にいた白いプニプニを腕で抱えて、その場から逃げ去った。後ろにいる奴らは、まだ溶解液をうってくる。
「あ――っ!」
脹脛あたりに、痛みと尋常ではない熱さが襲って来た。
どうやら命中したらしい。
痛さで転びそうになったが、なんとか踏ん張ってその場から立ち去っていった。もう何処から来たかも分からなくなってしまった。
森の奥に来たかも、城に近づいたのかも分からない。ただ、月明かりが森の中を照らしているだけである。
…………
溶解液を放ってくる変なプニプニはもう追って来ていないみたいだ。
白いプニプニを地面に下ろして、近くの木を背もたれにして座った。左の脹脛がかなり痛い。
溶解液をかけられたんだ。
当たり前だとは思うけど、自分の脚を溶かされたとなると、益々見たくない。
白いプニプニは心配しているのか、俺の周りを行ったり来たりしている。
せっかく助けたのに、帰ることしかできない。そもそも、こんなんじゃ立ち上がることすらできない。
白いプニプニは俺の脹脛を見て驚いたのか、ぴょんぴょん跳ねたりその場をクルクル回ったりと、慌てているような仕草を見せている。
「はは……このくらい大丈夫だからさ、そんなに慌てなくてもいいよ。それより、お前は大丈夫か?」
白いプニプニは体をぷるぷると震わせている。
大丈夫だと言いたいのだろうか。
そして、俺の左の脹脛に近づいてきて、くっついた。
「いたっ!」
脚全体に、響き渡るような痛みが走った。
何してんだ……! こいつは……!
痛みに耐えかねて、白いプニプニを引き剥がそうとするが、ヌルヌルしていて全く放れようとしない。
……あれ? それどころか、段々と痛みが和らいできているような気がする。
もしや、治してくれているのか?
痛みが完全に消えたと思ったら、白いプニプニは脹脛から放れ、座っている俺の目の前に来て、またぴょんぴょんと跳ねた。
そして、俺のところへ飛び込んで来た。
飛び込んで来た白いプニプニを、咄嗟に腕で抱えると、落ち着いたのか、腕の中でじっとしている。
なんか可愛い。
城に持ち帰っちゃおうかな。このプニプニ。
すると、大きな声で俺を呼ぶ声が聞こえて来た。
「魔王様ー! どこにいらっしゃるんですかー?」
サキュバスの声だ。もう聞き慣れているため、すぐに分かった。
「おーい!」
俺は白いプニプニを抱えたまま、立ち上がって大声を出した。
サキュバスは俺の声が聞こえたからか、とんでもないスピードで俺の目の前に来た。風一つない森の中に突風が走る。
「魔王様! やっと見つけましたよ! いきなり飛び起きて城を出て行ってしまうからどうしたかと思いました……そういえばそのスライムは、どうしたんですか?」
サキュバスは息を切らさずにして、一気に話した。
こいつがスライムなのか。スライムって目が付いてるイメージしかなかったから、少し驚きだ。
と言うと、さっきこいつを攻撃していた奴らもスライムの一種なのだろうか。
サキュバスは俺の目の前に来て、抱えているスライムを顎に手を当てながらじっくり見ている。
「あーっ! このスライム、『ホワイトスライム』じゃないですか! 千年に一度しか出てこないとも言われる、凄いスライムなんですよ! 何で魔王様『なんか』が見つけたんですか!?」
サキュバスは白いスライムを指差して、口をぽっかり開ける。
「なんかとはなんだなんかとは! 変な夢見て、森に急いで来たらこのスライムが他のスライムに虐められていたんだよ! それで、助けてあげたんだ!」
サキュバスは、どこかから本を取り出して、ページを素早くめくった。
「ほら、これ見てくださいよこれこれ! ホワイトスライムって、中性スライムとは違って、女性という性を持つスライムなんですよ! 私も何とか探そうとして、世界中を回ったのに、こんなところで見つかるなんて……それに、なんか魔王様に懐いてるみたいですし」
見せて来た分厚い本には、ホワイトスライムのことが載っていた。
『唯一、スライムの中で女性の性別を持つ。千年に一度見られるか見られないかという大変珍しい珍種で、見つけた人は……とにかくすごく凄い!』
最後めっちゃ雑すぎ!
しかし、そのスライムを懐かせてしまった俺ってどうなんだ?
サキュバスはため息をつき、手をプラーンと下ろした。
「まあ……魔王様が無事で良かったです。とりあえず、城に戻りましょう。ちゃんと立てるようになったことですし、明日から魔王様のお仕事再開ですね」
「魔王にも仕事ってあるのか?」
「そりゃありますよ!」
サキュバスは俺に顔を近づけて来て、目をキラキラと輝かせた。
その後、スライムを抱えたまま城に戻り、自分が寝ていた部屋、要は魔王の部屋に入った。そして、スライムを床に置いて、俺はベッドの中に入った。
しかし、魔王の仕事って何だろうか。
魔王って部下にめちゃくちゃ命令して勇者を倒させるイメージしかないから、実際どのような仕事をするのかは気になる。
そんなことを考えていると、スライムが自力でベッドの上に上ってきた。
そして、寝ている俺の横に来て、毛布の中に潜り込み、白いプニプニした体を少し毛布から出した。
「どうした、寒いのか?」
スライムは俺の体にくっついて、離れなくなった。何をしたいかも何が言いたいかも分からないが、これだけは分かる。
かなり、懐かれてしまったらしい。
「まったく、仕方ない奴め」
俺はプニプニしたスライムを撫でた。スライムは嬉しかったのか、体をコロコロと転がし、行ったり戻ったりを繰り返している。そんなスライムの姿を見ているうち、段々と眠くなってきて、俺は眠りについてしまった。
次話もよろしくお願いします!