伊吹夏無②
次の日の朝。私はエレベーターの前に立っている。
ここに来れば案内してくれると言う話だったが、まさか地下とかあるのかな。
そんな考えをしてると、
「おー夏無殿、早いですな。それでは心の準備はよろしいですかな?」
「ええ、早く案内して。昨日から待ちきれなくて寝不足ちゃんだぞ☆」
後ろから空木と名乗る生徒が表れた。さてはて、鬼が出るか蛇が出るか。
「空木さん、でよかったかな。何処が生徒会室になってるの?」
「はい空木さんでよいですよ。それはですね四階にあるのです。基本的には入れないように私が小細工してありますので迷い込むことはほぼありません!」
「四階って、ボタンも何もないのに?それは能力の1つだったりするの?」
「これは能力ではなく私個人の技術力ですな。ボタン自体は三階までですが、遠隔操作することにより四階に行くことが出来るのであります。」
「なるほどね。そりゃ昨日探してみても見つからないわけだ。」
エレベーターと言われて少し調べてみたものの隠しボタンも秘密の暗号もなかった。遠隔操作とは、用心深い所だ。
そうこうしているうちに四階についた。
「いらっしゃい。歓迎するわ、夏無さん。」
「会長さん、おはようございます。今日はどんな積もるお話が出来るのかな☆」
「ファンも誰も見てませんから普通に話していただけませんかしら?」
「はいはい、それで会長さん。詳しく聞かせてもらえませんかね。なぜ私を必要としたのか、それと生徒会はこうも隠しているのかをね。」
生徒会と言いながら実際目に見えて活動しているのは会長ただ一人である。裏方役として空木が根回ししているようではあるけど、二人でしているわけもないだろう。どんな奴らかここにいるのか、知る権利が私にはあるはずだ。
大体こんなめんどくさい形で隠しているのも気にくわない。何かやましいことでもしているに違いない。
さて全て吐いてもらいますからね。
「では貴女を向かい入れた事から話すことに致しましょう。広報と言ってお誘いしましたね?言葉の通り貴女には生徒会の事をライブで話していただきます。人を集めるのは得意でしょう?貴女はそれに適任していると考えておりますわ。それに貴女の能力も高く評価しております。貴女の能力は他の物に自分の力を与える能力ですね?違いますか?」
「ちょっと待ってくれませんか。整理しますから。とりあえず私は本当に生徒会の事を他者に伝えるために入れられると?ライブで人を集めてそこで告知すると?そのためにライブにも力を貸すと言ったわけね?」
「はい。そうですわ。」
「はぁ、本当に言葉通りとは恐れ入りますわ。それと会長さん?私の能力はそんなのではありませんよ。念じたことを他者に思わせる能力ですね。私の事を好きと念じて相手に能力を使うと相手も私の事を好きと思うようになる。そう言う暗示に近い能力だと私は認識してますが。」
「だと思ってましたわ。その力はもっと違う形でも使えましてよ。例えば、ここにあるぬいぐるみ。これに貴女の身体能力を与えてみてください。」
「はぁ?人ではなくこのぬいぐるみにですか?正気ですか?」
いくらなんでも馬鹿げている。人に身体能力をと言うのであればまだ納得できたかもしれない。だが会長が言ったのはぬいぐるみ。大きさ50センチほどのクマのぬいぐるみである。
しかし本人はいたって大真面目に言ってるように聞こえる。仕方なくやるしかないな、そう思いぬいぐるみを抱え念じる。
(動け、私の考えるように動け。)
そうしてぬいぐるみをその場に置いた。しかし動く気配は全くなく微動だにもしない。
「会長さん?やっぱり無理があったんじゃない。それか試しに会長さんに能力使います?」
「私は遠慮しておきますわ。それよりも貴女は能力を継続して使うことを知らないようですね。手から離せば能力が効かなくなると自分で思い込んで無意識に解除しているようね。次はそのまま動けと思いながら居てみてくれないかしら。」
まだこの人はそんな事を言っているのか。気がすむまで付き合ってあげないと日が暮れそうだ。
再度念じる。
(動け、貴方は動ける。私の思うように動け。動けるのなら1発会長の事を殴りにかかれ!)
そのまま念じる。その場に置き直す。
次の瞬間会長に向かってクマが襲いかかる。念じたように殴りにかかろうとしているのだ。
えっ?と驚いているとクマは弾かれるように吹き飛ばされる。まるで昨日の私のように触れるでもなく、端から見ると独りでに後ろに飛んでいるかのように。
会長は冷静なままでいる。
「やっぱりそうでしたわね。夏無さん?貴女は動かすついでに動くのであれば私に襲いかかれとでも念じたのかしらね。まぁ信じてないのだからそうしたとしても仕方の無いことですわね。さてこれで信じていただけたかしら。貴女の能力は譲渡。最初につかわれたように思考を植え付け錯覚に陥らせるのはなかなか考えられてるとは思いますわ。」
まさか本当に動くとは。それよりも会長は何をした。あの時は私も頭に血が上っていて何をされたかわからなかった。ただ今見てもなにもしていない。していないはずなのにクマは弾かれるように吹き飛ばされた。
「私の能力の事はわかりました。事実動きましたからね、疑う余地もありません。私の能力を詳しく知っていることも気になりますが、それよりも会長さんは何をしたのですか。貴女の能力は物質を跳ね返す能力か何かですか?」
「私の能力ね、それはそう思っていただいて結構ですわ。跳ね返す能力と言って間違いないですわ。」
「ずいぶん含みのある言い方ですね。私のように少し違う使い方も出来ると言うわけですね?」
「そうね、その通りよ夏無さん。ただそれ以上は言えないわね。私から言えることは私に近付きすぎないようにと言うことだけよ。」
「まぁ、夏無殿。実のところ私も聞かされてないのですよ。どう聞いたとしても口を割らなかったのでおすすめはしませんぞ。近付くことも・・・おすすめはしません。」
空木がこうも言うのだ。まず間違いなく近づいて試したのであろう。そして何かしらがあった。互いに言いたくないような何かが。それを聞くのは流石に野暮だと胸の中にしまっておこう。
「さて、次に生徒会の事を話しますわ。それはここが能力者の集まり、他者に見られたら困る組織ですの。それで回りくどく隠すようにしているのですわ。夏無さんも知らなかったように他の生徒も知らないはずだわ。知ってしまったところでそれを他の人が信じるかと言われれば信じることはないと思いますけどもね。。」
「能力者の集まりと言うことはまだ他にもいるんですよね、生徒会の人は。もしかしたら私のように他にも生徒の中にもいると言うわけで、広報は表の仕事で裏でその能力者を探すとかそう言うのが私の仕事になってくるわのでしょうかね?」
「察しが良い子は嫌いではありませんわ。現在生徒会は三人だけ、貴女を合わせても四人ですけれどもね。この学園の全ての生徒が能力者と言うわけではありませんわ。」
三人目の生徒会の人間。どんな人間だろうか。会長のように堅物なのか、空木のような読み取れないような人間なのか。もしくは人間ではないのかもしれないな。
そう考えながら話を聞いていると予鈴が鳴り響く。
「あら残念ね。今回はここまでのようね。続きは後日ね。」
「ちょっと待ってくださいよ。肝心なこと聞けずじまいで帰ることなんてできませんよ。授業なんて出なくても」
「夏無さん。遅刻に無断欠席は許すことはできかねますわ。またここにいらっしゃれば続きはお話いたします。今日のところはもう下がりなさい。」
「放課後、ならいかがですか。そこで続きをお聞かせください。」
「えぇ、わかりましたわ。」
一番知りたかった事を聞けなかった。ただ自分の本当の能力に気づかせてくれた会長には感謝しないと。
これで私の夢にまた一歩近付くことが出来るのだから。
完全に夏無ちゃん回。