初めての仕事
生徒会に入った。だからと言って生活が変わることはなく普段通りに学園生活を楽しんでいる。
葵ちゃんはあれから私のことをずっと見ている。いや前からそうだったのだろう。気づかなかった方がよかったのかもしれない。移動するときも食事の時も基本一緒にしている。嫌いではないから私としては避ける必要もない。ただ回りの視線は少しだけ気になる。回りからすると突然委員長が私に親密になり、ずっと一緒にいるのだから。
夏無ちゃんはあいも変わらずアイドル活動をしている。生徒会に入り公認として活動できるようになり、援助もあり講堂でライブを行うようになっている。私は前みたいな野外のこじんまりとしたライブが好きだな。そんなことを話すと夏無ちゃんは「私はもっと大きくなって見放した奴らを見返してやらないといけないからごめんね☆」と、夢に向かって?走る姿は憧れるな。
桜ちゃんは毎日花壇の手入れをしている。私も手伝えるときに手伝っている。一緒についてきてる葵ちゃんも誘ってみても「あの桜って子とは気が合わないから二人きりなら。」と。桜ちゃん自身も葵ちゃんを好きではないようで「あいつは嫌いだ!」と、どうにかしたいな。
会長さんは生徒会室でいつも何か資料みたいなのを読んでいる。なんの資料なのかと聞いても詳しくは教えてくれなく「またその時がきたら話すわ。」と、能力についての資料だとは思うんだけれど何を考えているのかまだわからない。
空木さんは会長以上に謎な人。どこを探しても居なくて、でも本当に用事があるときにはふらっと表れて「何か用ですかな、鈴殿。」と、驚くから辞めてほしい。
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放課後になり生徒会室にみんな集まっている。会長から話があるそうだ。
「今日はどんな話があるんです?対したことでもなければ鈴ちゃんとデートしに行きたいのですけど。」
「デートって。ダメだよ葵ちゃん。生徒会に入ったんだからちゃんと役目を果たさないと。」
「そうだ、鈴だって忙しいんだからお前なんかに構ってる用はないぞ。」
葵と桜は出会ったときから仲が悪くどちらかが話せば嫌み等を言う。私を挟んで口論するの辞めてほしいな。
「あーはいはい。それは置いといて、会長さん?今日は何で集められたのです?」
夏無の一言でようやく話が進みそうだ。ありがとう。
「本日はみなさんにやってもらいたいことがありこうして集まってもらいましたわ。」
「ほぅ、会長殿が私めにも話をされずに集めるとは。また大層な事なんでしょうなぁ。」
「どうせ下らないことですよね?と言うわけで私は鈴ちゃんと帰らせていただきますね。」
「葵ちゃん?」
「いや、話を聞いてからでも遅くはないかなぁ・・・」
葵は私に睨まれ態度を改める。
「ははは、あいつ鈴に怒られたぞ、見たか夏無。馬鹿だな。」
「確かに笑えますけど、そうやって笑ってると桜先輩も怒られるんですよ。」
「桜ちゃんは人の不幸で笑うような子ではないですよねー?」
桜に諭すように笑みをかける。私の顔に何かを見たのか一瞬ビクッとなる。
「も、もちろん。あーそれより薊。やってもらいたいことってなんなだ?」
「それはこれよ。」
そう会長が言いながら出したものは箱である。
「ははぁん、会長殿は忘れられてたのかと思いましたがそうではなかったのでしたか。」
「ん?この箱はいったい何ですか?」
「鈴ちゃん、これは学園にやってもらいたいことや改善してほしい所を書いて入れる物だよ。」
私の疑問を葵が答えてくれる。知らなかったのは私だけなのか。学園内を歩き回ったけど見たことないんだけど。
「通称ご意見ボックス!私が名前つけたんだぞ。」
「そのまんまじゃないですか・・・。」
「この子やっぱり頭悪いわよね。」
夏無はあきれた様子に。葵は残念な子を見るような目をしている。
「バカにするな!子供とか言うな!」
「あぁ桜ちゃん。誰も子供みたいに可愛いなとか言ってませんよ。」
小学生のようなキラキラとした顔で言い切る桜が可愛くて頭を撫でる。
「鈴が今言った!許さない!でも撫でるのはやめなくてもいいぞ。」
「桜、話が先でもいいかしら?空木さんも少し失礼なことを言ったの覚えてますからね。」
「それよりも会長殿!ささ、話の続きをしてくださいよ。」
薊の言葉に焦る空木。とりあえずその場をしのいで直ぐにでも逃げ出したい様子だ。
「まぁいいでしょう。生徒からの意見は意外と多いものでそれを今回は解決していこうと思いますわ。中にはイタズラのようなものもありますが必要なものとそうでないものを分けていきましょう。」
その言葉を皮切りに皆がガサガサと仕分けを始める。
「えーっと、なになに?あの変なアイドル風情の馬鹿を退学にしろ?耳が痛いからあのアイドルブスを退学にしろ?アイドルもどきは目障りだから退学にしろ?これ全部お前だろ葵!」
「えー?鈴ちゃんあの人こわーい。助けてー。」
「葵ちゃんの気持ちはわからないけど、夏無ちゃんも落ち着いて。とりあえず葵ちゃんは謝ろ?今は仲間なんだから。」
「鈴ちゃんがあの紙全部私が書いたのを認めた?!なんでばれたの?!」
「いやそんなことするのお前くらいだろ・・・。」
あきれた様子の夏無。葵は私に信用されてないのが悲しかったのか落ち込んだ様子だ。
「おっ桜殿、これは面白い手紙がありましたぞ。」
「んーなになに?花壇の手入れを毎日している小学生を助けてあげたいのですがどのようにすればいいですか?だと!小学生じゃないわ!これを書いたのは誰だ!今すぐ殴ってやる。」
「ははははは、桜殿が怒っても気迫が感じられませんな。」
「なんだ空木、お前このこの、こうしてやる」
桜は空木の足をげしげしと蹴り続ける。それを何ともないように空木は意見用紙の仕分けをし続ける。
「結構な量がありますけどこれはいつからおいてあるものですか?」
ふとした疑問を会長に問いかける。
「そうね、半年くらいかしら。」
「へぇー半年かー・・・?これ半年分あるんですか?!」
「そうなんですよ鈴殿。だから私が忘れてなかったのかとツッコミをしてしまったのです・・・一生の不覚。」
色んな場所に設置されていたこの箱は半年の期間ずっと溜め込まれていたと言う訳である。それは私でもツッコミをしてしまう。
「仕方ないでしょ、入れ替わりの時期から忙しく人員も足りてなく手が回らなかったのよ。桜はこの通り使い物になりませんし。」
初めて見る薊の少し照れた顔を。そう言うところもあるんだなと思った。いつも難しい顔をしているので取っつきにくかったがこれからは話しやすくなるかな。
「薊、私も怒るときは怒るんだぞ?」
「桜ちゃんはいつも怒ってる気がしますよ。」
桜の言葉に間違いがあると思い私は直ぐに言い返す。桜は少し悔しそうにしながらも事実を受け止めようとしている。
「ギャーギャー騒ぐ暇があったら手を動かしてはどうなの?小学生の桜ちゃん?」
葵がここぞとばかりに桜の事をバカにする。
「掘り返すな!葵、お前を今日付けで生徒会から去って貰うからな!」
それを桜が反応して喧嘩腰になる。
私は見ていられなくなり二人の間に割って入る。
「あーもう。葵ちゃん!桜ちゃん!二人ともそこに座りなさい。全くなんでこう喧嘩になるのかな。仲良く出来ないの?」
二人ともビクッとなり私の前に正座して座る。互いにだってあいつがと口を揃えて言う。
「仲良く出来ないのなら今後私も仲良くしません。それでいいですね?」
「鈴ちゃん、そんなの嘘だよね?だってこれからもご飯一緒に食べるって。一緒に帰ろうって。謝るからさ。」
「鈴、そんなこと言わないで。花壇の手入れを手伝ってくれて助かってるんだよ。謝るから許して。」
二人とも情けない声を出し許しを乞う。二人が仲良くなってくれるのであれば私はそれで満足する。もしこのまままだ我が儘を言うのであれば本当に話してあげないつもりだ。
「それじゃあ仲直りしましょう。これからも長い付き合いになるんだから。」
「嫌々だけど鈴ちゃんたっての願いだから。よろしく。」
「そんなの私だって嫌だ。でも鈴と仲良くできない方が嫌だからな。仕方なしだ。よろしくな。」
葵に桜、二人とも私のために仕方なくと仲直りをする。それでも今はいいと思う。仲良くなるきっかけさえあれば大丈夫だ。
「はぁ、アホらし。」
夏無はこの騒動の中、一人真面目に仕分けをしていた。
「とか言いながら夏無殿少しだけ羨ましかったりしてるんじゃないですかな?」
それに反応する空木。それは核心をついていたのか夏無は顔を歪める。
「空木先輩はこの後の会長のお叱り楽しみですもんね。」
夏無は皮肉たっぷりに空木へとお返しした。その言葉を言い満足したのか再度仕分けを始めた。
「その話はやめません?夏無殿、私が悪かったですから。」
空木は会長には弱いようだ。もし何かあったときのために弱味のひとつでも握っておこうかと思った。
こうして私の生徒会の初めての仕事が始まった。