【短編】スマートフォンが人間に与えたもの
いつもスマホと共にある若者のある日。
スマートフォンという文明の利器が世に出されてからおよそ200年が過ぎた。
都市部では情報化が進み、ますます便利な社会になってきたと感じる。
空には大手企業が開発したドローンが飛び回り現在の物流を支え、スマートフォンでは買い物が手軽にできるようになった。
ネットで買った野菜が近くのスーパーから三十分程でドローンによって配達されてくるのは素晴らしい、高齢者にはありがたい世の中だろう。
道路を走っている電気自動車は未だに人間が運転しており自動運転への移行はまだまだ先のようだ。
110歳の祖父が言うには、子供の頃に想像した未来には程遠く、対して変わってはないらしい。
清々しい目覚めだ、私はカーテンの隙間から差し込んだ目元をピンポイントに狙う鋭い光によって目が覚めた。
やれやれ天気予報は当てにならないな、昨日は『明日は雨が降るでしょう。』と言っていたというのに、どうやら予報は外れ今日は快晴のようだった。
朝の準備をいそいそとしつつ、そういや昨日はデジタル目覚まし時計の液晶の数字が薄れていたなぁとぼんやり思い出した。
今日も今日とて学校に行かなければならない私は制服(昔から変わらない前時代的なデザイン)を着てリビングの壁掛け時計を見上げる。
私の通う高校は徒歩で十分に通える距離にあり、遅刻の心配はほとんどないのだが、やはりいつもお世話になっている目覚まし時計の電池が切れていたようで、チャイムが鳴るまで後五分しかない。
私は急いでドアを蹴り開けエレベーターに駆け込………………まないでおこう、今日は階段を使おう、ダイエットにもなるし、第一エレベーターが到着して一階に着くまでには時間がかかる、私ならそれまでに降りられる自信があるね。
走る。走る。全力疾走する私は道ゆく人に奇異の目で見られているけれど気にしてはいられない。
私の進行方向にある交差点の歩行者用信号機が点滅し始めた。問題ない。渡りきれるはずだ。
その時、私の頭の中に嫌なイメージが流れる、右折してきた車と私が重なるイメージ。
最近多いんだよね、こういう嫌な妄想。
私は立ち止まった。
結局私は遅刻してしまった。私の他にも遅刻した人がいたようで、先生は呆れ顔だった。
うーん、朝忙しかったせいかどうにも落ち着かない。
授業中に何度も窓の方を見ていたのを先生に注意された。
今日はもう最悪だ。
お昼休み、いつもの友達と楽しく談笑。でもやはり気持ちは落ち着かないみたいだ。
友達もなんだか緊張しているようで話がいつものように続かない。
男子達もいつも以上に大きな声で騒いでいてうるさい。
私は急に不安になってどこかへ逃げて行きたくなった。
ある日、ある脳科学者の論文が権威ある科学誌に掲載された。
それはスマホ世代の人間に第六感が発現するというものだった。
その論文の中でその科学者はこう述べている。
スマホが生まれてから今日まで歩きスマホという行為が社会問題とされてきた、しかし近年、警察に寄せられる歩きスマホのトラブルが急激に減ってきている。
これは歩きスマホを日常的に行う若者は周りを見ずとも状況を感じ取れる機能を獲得し、その結果危機回避能力に長けていると考えられる。
それはまるで野生動物が事前に災害が起こるのを感じ取る本能にも似ている。
同日、地球の近所で小惑星同士が衝突した。衝突により大きく、そして軌道を変えた小惑星は一直線に青い星を目指した。
歩きスマホはやめようね。