跋文 旅人達は、仲間を連れて
俺達は今、森の中を歩いている。
「次はどこに行こうか?」
「……とりあえず、地図の端から端まで?」
ドラゴンとの戦いから一週間、商都ファフニールを出て、旅へ出ることにした。
あの後、商都の領主から都市を守った功績から、いくらかの報奨金と、一つだけ何でも要望を叶えてもらえることになった。
柵を嫌う商都だけあって、地位や名誉なんて面倒な事は言われなかった。
「では、要望は――」
最後のドラゴンと相対した時、とどめの一撃が甘かったのか、事切れるまで暫しの時間があった。
『頼みがある……』
その時、ドラゴンは唐突に小声で話しかけてきた。
『こんな事、頼めた義理ではないのは分かっている。だけど、もしお前達さえよければ』
「なに?」
『我が、同胞を。新たに生まれた竜を。お前達で保護して欲しい』
ドラゴンは、新しく生まれた子供を、迎えに来ただけだと言う。
だが、このままでは、人間達の玩具にされてしまう。
『お前達なら、そのようにはしないと、思う。それだけ強い、お前達ならば』
それだけ言うと、最後のドラゴンは事切れてしまった。
『ピィィィ』
たった今、その子供のドラゴンは、ミナヅキの膝の上に居る。
ドラゴンと言うよりは、黒曜石のような鱗がついていて、ちょっとサイズの大きい『ニワトリ』のような見た目をしていた。
「お肉だよ~」
『ピイイイイィィ!』
領主への願いは、この子供のドラゴンを引き取る事にした。
幸い、特に詮索される事もなく、むしろ感謝された。
「困っていたんです。貴女たちに引き取ってもらえるなら、安心です」
そして、俺が狩猟してきた魔物の肉を、ミナヅキの膝に乗って食べて居るのが子ドラゴン。
これが、愛い奴で、親の敵のはずの俺達に、猛烈な勢いで懐いてきたのだ。
『ピィィイ!』
ただ一つ、懐かれるのは良い事なのだが、俺に対してはよく「頬ずり」をしてくる。
「い、痛い!痛いからやめて!」
ドラゴンの鱗が頭の部分だけ、ささくれていて、それが刺さって痛いのだ。
ミナヅキにはしないのに、何故か俺だけしてくる。
『ピイイ!』
甘えるような声を出しているので、叱ることも出来ず、かと言って痛い事には変わりない。
「楽しそうだね」
ミナヅキは笑ってその光景を見ているだけで、止めてくれない。
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夜、商都で買った大きめのテントを使って、キャンプを張る。
魔物避けなんて便利なものは無かったが、キャンプセットには限りがあったし、本来は一人用で狭いという事情もあった。
ドラゴンが居るせいか、道中で襲ってくる魔物も居なくて、夜も見張りなんて考えてない。
どうせ襲われたって、何とかなるんじゃないかと、少し楽観的に思っているところもある。
「星が綺麗だね」
「うん」
『ピィィィ!』
二人と一匹の組み合わせ。
旅の仲間が増えて、少し賑やかになった。
こういう旅も、悪くはなかった。
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完