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どなたか、草食系女子はいらっしゃいませんか?  作者: 龍威ユウ
第一章:肉食系女子はお断りです
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CHAPTER:04

 魅力ある女性とは強さ、勇ましさ、たくましさが優れている者を差す。

 故に女らしさをアピールすることで王子の気を引こうとする彼女達の行動は、この世界の住人である以上当然でもある。

 即ち現在、衛鬼は城の外へと向かっている。


「いい天気ですねエイキ君。こんな日は外に出て滅茶苦茶に……じゃなくて、えっと、のんびりととするのが一番ですね!」

「そうねぇ。早く外に出てこう、何処でもいいから一発子作り――いえ、魔法でドカンと魔物を吹き飛ばしたい気分になるわ」

「エイキ……外でするのって、どう?」


 男性でありながら女性のような振る舞いをすると母親フィリスより聞いた三人の婚約者候補達は、“好意を抱ける女性が今まで現れなかったことが原因である”と勝手に結論を下し、手っ取り早く格好良い姿を見せて惚れさせようと目論んだ。

 当事者達からは城の外へ散歩と言う形で誘われているが、当然それに気付かない衛鬼ではない。過去に同じことをした幼馴染から学んでいる。

 以前に抑えきれぬ欲望から本音を本人が曝け出していた。幼老痴女ロリビッチババアは最早隠そうともしていない。

 にも関わらず衛鬼が同意したのは、単純に町よりも外の世界へ出たかったからだ。

 城壁に守られたオルトリンデの外へ一歩でも出れば、そこから先は恐ろしい魔物達が巣食う危険地帯。

 文字通り命を賭けたサバイバル。ゲームのように死んでも教会で生き返らせてもらうことも、前回セーブしておいた場所からやり直しも出来ない。

 死んでしまえばそこで終わる。

 だからこそ男の浪漫が果てしなく詰め込まれた冒険が待ち構えている。

 王族の出身であるが故に与えられぬ真の自由。

 毎日が同じ風景せかいを目にすることの退屈。

――憧れていた外の世界に出られるのなら、俺は何でもする。

 今回は正当な理由がある。ミリアやアリッサから口うるさく言われる心配はない。寧ろ外出の許可を出したのは他の誰でもない、母親フィリス自身なのだ。ティアナ、リリルナ、ココの三名に息子エイキを更正させられると思える根拠があったのだろう。

 いずれにせよ、国王が直々に許可を抱いた以上、従者達は何も口出し出来まい。


「そう言えばエイキ君、その腰に提げている剣は? そんなに湾曲した剣初めて見ました。それにオルトリンデにいる方々の多くが同じような剣を持っていますけど」

「これは剣じゃなくて刀って言います。俺の国……いや、俺が開発した剣です」

「そうなんですか!?」


 幼子のように目を輝かせるリリルナに衛鬼は呆気と感心を混ぜ合わせた感情いろを笑みにして表した。他国の武器が気になるのは鋼鉄の国アスファム出身者であるが故の性なのだろう。


「あ、この店の鍛冶師が打ってくれたんです。入ってみますか?」

「はい!」


 武器屋『フェルム』へ立ち寄る。

 入店して間髪要れず、真っ先に刀コーナーへと向かったリリルナ。遅れてティアナ、ココが入店する。

 一つ一つ刀を手に取り観察している彼女とは裏腹に、二人はあまり関心を示さない様子で店内を簡潔に物色し終えるとリリルナの元へと向かう。

 武器とは無縁であるティアとココからすれば、たかが武器の一つに夢中になれるリリルナが不思議で仕方ないのだろう。しかしこうも他者を惹き付ける刀に興味が全くない訳でもない。同じく手にとって刀身を眺め、関心の声を僅かに漏らしたのを衛鬼は聞き逃さなかった。

 それが自分のことのように嬉しくて、同時にメリルを誇りに思う。


「い、いらっしゃいませエイキ様……!」

「さっきぶりメリル。ちょっと見学させてもらうから」

「は、はぁ……それで、その方達は……」

「ヨズガルド、アスファム、ヴァルハラの王女様方だ」

「え……えぇ!?」

「まぁ、普通に驚くよな」


 驚愕に目を見開くメリルに衛鬼は苦笑いを返す。


「婚約者候補としてわざわざオルトリンデにまで来てくれたそうだ。所謂政略結婚ってやつだな」

「け、結婚!? エイキ様、結婚されるのですか!?」

「まさか、そんな訳ないだろ。あくまで候補だ候補」

「そ、そうですか……」


 安堵の息を漏らすメリル。

 それに伴なって満足するまで物色し終えたのかリリルナが戻ってくる。


「確かに素晴らしい剣……いえ、カタナでしたか、だったとは思います。だけどボクの国の武器と比べれば遥かに劣る物ばかりです!」

「……どう言う意味ですか?」

「言葉通りですエイキ君。それなら証拠を見せて差し上げましょう! 何処か試し斬りが出来る場所ってありますか?」

「そ、それなら店の裏に……」

「それじゃあそこでやりましょう! 驚きますよエイキ君、如何にアスファム産の武器が優れているかを」


 意気揚々と試し斬り用の巻き藁と対峙するリリルナ。

 ただの巻き藁では物足りないと、わざわざ自腹を切って購入した鎧兜一式を装着させる。

 腰の得物が鞘より抜き放たれる。

 刃長凡そ二尺程。形状としては片手で扱うことを想定して作られたごく一般的なショートソードであるが、最大の特徴はその刀身にある。

 両刃の刀身は白銀ではなく、透き通った海のように碧色と言う独特の輝きを宿していた。オルトリンデではこのような刀身は存在せず、これこそが鋼鉄の国が保有する鋼材だからこそ成せる代物なのだろう。


「ボクのこの剣は特殊な鉱石が使われています。硬度と切れ味は一般の剣より数倍高く、どれだけ堅牢な鎧だろうと兜だろうと、こんな風に!」

 

 地を蹴り上げるリリルナ。

 真っ直ぐと巻き藁へと向かっていき振り上げたショートソードを一気に振り下ろす。

 斬、と言う音と共に両断される鎧兜。切り裂かれたことによって出来た切断面には粗が一つもなく、見事なまでに綺麗である。

 実に呆気なく、鋼鉄で出来た堅牢な守りが両断された姿に誰もが唖然とする。中でも一番驚きを隠せなかったのは防具を製作及び販売しているメリル自身だ。

 武器と並び防具にも自信を持っている。その自慢の防具がこうも簡単に目の前で破壊されれば、驚くなと言う方が無理と言うもの。鍛冶師としての誇りも大きく傷付けられた。


「ボクの国にはまだまだ優れた武器もあるし防具もあります。それこそ一般的な鋼材でしか作れない武器とは比べ物にならないですよ。だからエイキ君が持っているカタナもボクの国だったらもっと凄いカタナを――」

「メリルの打った刀は、ただの刀なんかじゃない」


 リリルナの言葉を遮って衛鬼は新たな巻き藁を設けると、そこにメリルが扱う防具の中で最高級仕立ての防具を購入して装着させる。御代は城の予算から引き落とせば済むので問題ない。

 先程リリルナがやったのと同じ条件で試し斬りを行う。

 大刀を抜き静かに上段に構える。

 リリルナに悪意がないことを衛鬼は理解している。彼女は純粋に自国の武器を誇りに思っているだけでメリルを貶している訳ではない。

 能ある鷹は爪を隠す――あえて曝け出さない人間もいるが、誰かより優れていることを他者へ見せたいと思うのは人として生きている以上別段可笑しくはない。

 だが、そのままそうですねと、終わらせるつもりなど衛鬼にはなかった。


「エ、エイキ様……」

「メリル、お前はもっと自分の腕に自信を持った方がいいぜ。オルトリンデの中で誰よりもお前の腕前を信頼しているからこそ、俺はメリルが打ってくれたこの大小の刀を腰に差してるんだ――だから俺が、それを証明してやる」


 不安げな面持ちのメリルに衛鬼は小さく笑みを浮かべると、直ぐに巻き藁へと向き返る。

――魔剣と言うものがある。

 剣術にはあらゆる場面を想定した技が当然存在する。しかし数多くの流派が存在する以上技が似たようなものが出てくるのは避けられない事実でもあった。

 そんな剣術のセオリーを逸脱していながら絶対必殺の破壊力を秘めた技が世の中には存在する。それこそが魔剣と呼ばれる人外の領域に達した者のみが手にする技だ。

 その一つとして挙げられるのが兜割りである。文字通り頭部を守る兜をかち割りそのまま両断する技のことだ。

 剣術の達人曰く、兜割りこそ斬撃において究極系統の技であるとされている。

 兜割りを自在に操れるのならば、如何なる鋼鉄の鎧を纏おうとも意味を成さなくなる。恐らくそれが究極系統と言われる理由だろう。

 ただ、実際にこの技が成功したと言うのは完全に断ち切ったのではなく約半分程までしか斬れなかったとされている。


 「―――、ふぅ」


 衛鬼は呼吸を整え、精神統一する。

 過去、兜割りを成功させた柳原鍵吉は名刀である同田貫を用いた事で半分まで兜を斬ったと言う。そしてそれは柳原の剣術家としての腕前だけでなく、同田貫と言う刀の強度の良さを知らしめる事となった。

 技術面は、やってみなければならない為何とも言えない。何より兜割りは衛鬼にとって初めての挑戦となる。いつか試してみたいと抱いていた野望が、このような形で実現することになろうとは思ってもいなかったが。

 だが得物面ならば何一つ問題ない。メリルが打った刀は確かに一般的な鋼鉄から作り出された武器だろう。だがそれでも他国の武器には負けない要素が大小の刀には込められている。

 失敗する筈がない。衛鬼は不敵な笑みを小さく浮べると一気に大刀を打ち下ろした。


「…………」


 地面すれすれまで振り切った刃。

 鎧兜を装着していた巻き藁が縦一文字に両断されて地面へと転がる。

――ある所に一人の若者がいた。

 誰よりもよく斬れる刀を打たんと、名高い鍛冶師に弟子入りを果たした若者は日夜ただ鉄を打つことだけに生涯を費やした。

 ある時、名高い鍛冶師が若者を連れて川へと向かった。

 名高い鍛冶師は己の鍛えた刀を川へと突き立てると一枚の落ち葉を流した。しかし名高い鍛冶師が差した刀は水流を分かつばかりで、上流から流れてくる落ち葉は避けるようにして下流へと流れていく。

 今度は弟子の打った刀で先程と同様落ち葉を流した。

 すると素通りした名高い鍛冶師の刀とは違い、まるで吸い寄せられるように弟子の打った刀へと流れ刀身に触れた瞬間二つに切り裂かれた。

 名高い鍛冶師は日夜鬼気迫る顔で打つ弟子の身を案じ一喝を入れた――人の思念は時に邪の力とも化す、お前が人を斬ることへの飽くなき執念が邪気となって刀に宿っている。最早それは刀に非ず。万人に災いをもたらす妖刀である、と。

 だが、弟子は耳を貸さなかった――刀の真髄とは斬れることこそに有り、自分は生涯を賭して追及し続ける、と。この弟子こそ、後の妖刀の代名詞と知られる千子村正である。


「確かに優れた材質があればいい武器が作れるだろ。でも、材質だけが全てじゃない」


 メリルが日本刀製作の成功を収めるまでに何本、何十本と刃を打ち続けてきたことを衛鬼は知っている。依頼主の要望に応えんと、未知なる武器の製造を是が非でも成功ささんと、鍛冶師としての誇りを賭して昼夜問わずひたすら鉄を打ち続けた。

 失敗し破棄された刀身の数は実に千本にまで上る。

 日本人特有の勿体ない精神と、物には魂が宿ると言う独特の信仰があるからこそそのまま破棄されることを実に惜しく感じた衛鬼は失敗した刀身を全て溶かして打つようにメリルに依頼した。

 現実は、少々異なる。

 何気ない興味から破棄された刃に触れたことで衛鬼は知ってしまった。

 失敗作と言えど一本、一本が刀を完成させたい、よく斬れる出来に仕上げたいとメリルの強い思念が込められていた。そんな鍛冶師おやに応えるかのように、達も訴える――俺達はまだ終わっていない。俺達をもう一度使って欲しい、と。

 真実は己の中にのみ秘めることを衛鬼は固く誓った。仮に言ったところで誰にも信じてもらえないばかりか、頭を患い医者に掛かれと言われるのも面倒な話だからだ。

 千の思念が宿る失敗作。そして完成した当日、見ると幸運が訪れると子供達の間で流行っている都市伝説の鳥類を目の当たりにした――朝焼けの空へと優雅に飛び立って行く姿に、日本でよく目にした鶴を思い出させた。

――名付けるは、是、千鶴と云う。

 衛鬼と共に第二の人生を飾る新たな相棒の誕生である。

 科学的根拠などない。現実的に見れば良質な素材であればある程良質な品物が作れるのは道理。だが人の思念とは時にその道理をも超越する力を発揮する。

 今回の試し斬りで正にそれが証明された。

 

「まぁ、メリルが打ってくれた刀なんだ。これぐらい出来て当然だけどな」


 大刀を鞘に納め、衛鬼は沈思する。

 両断された鎧兜が綺麗な断面図を曝け出している。

 切れ味は改めて問題なし。まるで空気を斬るかのような、斬ったと言う感触が殆ど手に感じることはなかった。

 これならばどんな鎧を纏おうとも両断し致命傷を与える事が可能だろう。

 ただし、今回成功したのは斬った相手が動かぬ的であったと言う事を忘れてはいけない。

 実際の戦場では相手は案山子の様に佇み此方が攻撃を繰り出すのを待ってはくれない。

 何より相手が人間とも限らない。炎や毒を吐く者、空を飛ぶ者など魔物は人間の常識を逸脱した行動を取る。そうして激しく動く中、如何にしてこの技を叩き込むかを見極めなくてはならない。

 いつかくるべき時を想定して、今後の課題として衛鬼は己の課した。


「とりあえず、メリルが打った刀も負けてないってことがリリルナさんにもよくわかってもら――」


 ふと、異変に気付き、衛鬼は口を閉ざして頬を引き攣らせる。


「エイキ様……ん」

「くっ……今の不敵な笑みは反則級の笑みよ。あんなの見せられて興奮するなって言うのが無理じゃない!」

「なんでだろう……女よりも女らしいのに、ボク凄くキュンッってしちゃった……」

「エイキ……ここで、アタシとやろ?」


 顔を紅潮させ下腹部より下――早い話が陰部の方に手を置いてモジモジとし始める三人の女性達。内一人は只でさえ面積の少ない布を取り外そうとしているから丁重に制する。

 彼女達だけではない。いつものように修練を覗き見している野次馬達も同様の反応を見せていた。荒々しい呼吸音と餓えた獣の眼差しを全方位から向けられる中で、遠くで気の毒そうな顔を浮かべ胸の前で合唱している男性陣に衛鬼は気にするなとアイコンタクトで返した。


「そ、そろそろ行くか。それじゃあメリル、またな!」


 逃げるようにメリルの店を後にする。

 一刻も早くオルトリンデより外に出たい気持ちを歩に込めて、衛鬼は早足で城門へと向かう。


「そ、そんなに焦らなくても大丈夫ですよエイキ君。もっとゆっくり行きましょう。そう、もっとゆっくり……手でも握りながら」

「そ、そうね。焦っても仕方がないことだわ。危ないから私が手を握ってあげるわ」

「ハァ、ハァ……エイキ……いい匂いがする」


 右手にティアナ、左手にリリルナを握られる。

 否、握ると言うよりは触れられているが正しい。

 何度も何度も味わうように強弱を加えながら手を握る一方で空いた手で腕を擦り、時折下腹部よりも下に手を伸ばそうとしては理性が働いてか素早く引っ込める。

 やっていることは完全にセクハラそのもの。これで男性が嫌がらないと思っている辺りが、この世界の女性の恐ろしさだ。

 ココに至っては腰に小柄な体格を利用して背中に抱き付き後頭部や項の匂いを嗅いでは一人興奮していた。狂気の沙汰としか表現出来ない。

 対抗心から始めたことが、彼女達の性欲を刺激してしまうなど思いもしなかった。

 完全な誤算である。


「三秒以内に俺から離れてくれないと即刻本国に帰ってもらいますけどそれでもよろ――」

「さぁエイキ君、早く外に行きましょう! 先程は失態を見せちゃいましたけど、そこで名誉挽回させてもらいますから!」

「そろそろ私の凄いところも見てもらわないとね」

「やる気……出てきた」


 言い終えるよりも早く身体から離れたティアナ達。

 まだ頬が赤みを帯びているものの、生気を十二分に感じさせる程彼女達の顔は生き生きと活力に満ち溢れていた。

――さっさと国に帰ってくれないかな。

 現金な女性達に愚痴を内心で零しつつ、オルトリンデの城門を潜る。

 堅牢な城壁に囲まれた箱庭の外へと一歩足を踏み出せば、澄んだ青空と燦燦と輝く太陽の元に広がっている平原が衛鬼を出迎える。

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