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どなたか、草食系女子はいらっしゃいませんか?  作者: 龍威ユウ
第一章:肉食系女子はお断りです
4/17

CHAPTER:03

今回は少し長めです。

後もしかしたら文章を更新……下手をすれば最悪前後も含めて内容そのものを修正するかもです。

 オルトリンデ城内部に設けられた玉座の間。

 円形状に設けられた三十人ほどを収容出来る広さを持つ一室にて、衛鬼は怪訝な表情でそれらを見据えた。

 玉座に腰を下ろしているのは国王ははおや――フィリス。旋風のフィリスの異名を持つ通り、オルトリンデでは非常に珍しい魔力持ちで風属性と言う極めて希少価値が高い魔法を行使することが出来る。

 現在では国王である為一戦こそ退いているが、それでも当時の実力は未だに衰えを見せない。本気になれば一撃で百の敵を屠ることも容易いだろう。

 そのフィリスの前に立つ三人の女性。

 一人は三人の中で恐らく最年長であろう。下着が丸見えになる程の薄い生地で仕立てられた黒のドレスに腰まで届く黒髪が特徴的だ。黒一色で統一し妖艶な笑みを浮かべる彼女は正に大人としての魅力が溢れている。ただ、怪しげな鳴き声を上げて不気味さをこれでもかと主張している彼女の右手に握られた黒い長杖が気になって仕方がない。

 一人はアリッサと差ほど変わらないであろう、燃え盛る紅蓮の炎の如く真紅の髪と凜とした顔立ちが特徴的な少女だ。猛禽類を思わせる形状の白い板金鎧プレートメイルに猛獣を思わせる右手の籠手ガントレット、腰に携えられた一振りの剣で武装している姿からは歴戦の猛者の風格を何処か醸し出していた。

 今まで目にしてきた女性の中で露出が少ないのは好印象だ――などと思った衛鬼は、何故かその場で一回転したことによって己が愚かだったと後悔した。只でさえ丈が短いスカートが遠心力によって浮かび上がり、下着が深く食い込んだ綺麗な尻が露となる。チャームポイントであろう尻を見せる為にティーバックを着用しているのだろう。

 そして残る一人に、衛鬼は言葉を失った。

――論外だ。

 何故そのような格好に行き着いたのかと、常人の思考ならば誰しもが疑問を抱く。だがここは貞操観念が逆転した世界。故に彼女が羞恥心を抱くこともなければ、周囲も別段気にすることはない。せいぜい装備が薄い、ぐらいにしか認識しないだろう。

 布である。梵字に似た奇妙な文字が書かれている布を胸部と下腹部に巻かれている。

 あまりにも軽装。あまりにも際どい姿格好。そして何より、彼女は三人の中で一番幼かった。齢十にも満たない幻想的な美しさを宿す白銀髪の幼女が丁寧にお辞儀した。

 年齢から姿格好から、全てが異なる三人の女性を、衛鬼は怪訝な眼差しで返す。

 何故彼女達を会わせようとしているのか、その理由が皆目検討付かない。


「また町へ護衛もつけずに出歩いていたのエイキ」

「町の様子を知っておくのも王族の息子として当然の義務かと。人々の暮らしを知ってこそよりよい政策が出来ると思いまーす」

「はぁ……まったく貴方ときたら。町に出ること自体は特に何も言わないけど、次からはちゃんと護衛を付けなさい。王子と言う自覚を持って行動しなさいねエイキ」

「反省してまーす」


 衛鬼にとってこれらの会話は一般家庭で親と子がするようなやり取りでしかない。フィリスからしても既に日常茶飯事となっている為本気で咎めることはない。

 ただ、三人の来客者は目を丸く見開いていた。


「それで、俺に逢わせたいって言ってた人達は彼女達ですか?」

「えぇ、その通りよエイキ」

「……一応聞きますけど、誰?」

「貴方の婚約者候補よ」

「……は?」


 思わず、我が耳を疑う。

 幻聴であってほしいと祈りつつ、衛鬼は再度尋ねる。


「えっと、もう一回プリーズ」

「だから、貴方の婚約者候補と言ってるでしょ」

「はぁっ!?」

「エイキ、貴方もそろそろ結婚してもおかしくない歳なのよ? 今までは子供だからと大目に見てきたけれどそろそろ結婚して子供を設けて男として自覚を持って生きてほしいの。王族の血を引く貴方がいつまでもそんなだと、私も安心して玉座から降りることが出来ないの」

「いやいやいや! ちょっと何勝手なことしてんの!? マジ訳わかんねーって! 馬鹿なの? 馬鹿だったのか俺の母親は!?」

「馬鹿は馬鹿でも親馬鹿と言ってほしいわね」

「うっせーよ!」


 何処の誰かもわからない相手を婚約者候補として城に招き入れる国王フィリスの神経に、衛鬼は憤慨した。

 憤慨して、同時に理解もする。

 国を治める跡取りを作るにはどうしても男の存在がいる。国王の命令であれば男は例え好きでない相手であったとしても子息を生む為に子種を提供しなくてはならない。それは衛鬼の父親でも例外ではないのだ。

 父親はしがない農場の生れだった。しかし偶然狩りを楽しんでいた若かりしフィリスに不幸にも惚れられてしまい強引に結婚させられ今に至る。国王の命令でも一人の人間として精一杯の抵抗をしたらしいが、魔獣と化した女性を前にして男性は成す術を持たない。

 結果として精根尽き果てるまで子作りを強要させられ、今ではすっかり従順な夫と言う名の僕となってしまっている。


「大体、何処の誰なんだよ。一人はまぁいいとして、残る二人は怪しさ全開じゃねーか」

「失礼よエイキ。彼女達は貴方と同じ王族の血を引く者達よ」

「えっ!?」


 驚愕の事実に目を見開いて、ふと各々が首から提げたペンダントを見てようやく理解した。

 オルトリンデの周辺には三つの国が存在している。

 魔法に関して力を入れ優秀な魔法使いを世に出してきた魔法の国――ヨズガルド。

 魔力を持った人間が多く生まれ、優秀な魔法使いを育成することに力を注いでいる。特に魔力によって生成された魔道具は冒険者にとって欠かすことの出来ない代物として高い人気を集めている。

 豊かな鉱山に恵まれ腕の良い鍛冶師によって優れた武器を生み出している鋼鉄の国――アスファム。

 珍しい鉱石が豊富に手に入るだけでなく、腕の良い鍛冶師達が数多くいる別名武器の国の異名を持つ。神鉄師と呼ばれる最上級の鍛冶師が打った武器は例えナイフであっても岩をも両断出来ると言われている。

 他者が成し遂げられなかった難題を乗り越えた勇者が数多くいる英雄の国――ヴァルハラ。

 古の時代より邪竜を打ち滅ぼす為に集まった武術家達が一つの集落を作り、やがてそれが巨大な国にまで成長した。古より現代へと伝えられる武術は素手で竜をも屠れると言い伝えられている。

 いずれにしても皆大国でありオルトリンデとは比べ物にならない。

 そんな各大国の姫と衛鬼は直接的な面識はない。ないが首から提げられたペンダントが彼女達が王族の人間であることを証明していた。

 それぞれが各国の国章の形に装飾されている。

 国章とは王族の人間のみに与えられる特別かつ神聖な代物であり、それを防具などに宿し身に付けることが許されるのもまた、王族のみである。

 王国直属の騎士団も例外に漏れず、王の元で剣を振る者として国章の刺繍が入った旗のみしか所持を許されない程徹底されている。

 従って各国の国章を宿す彼女達が王族であり、小国に足を運んだ理由も既に衛鬼は理解してしまった。故に露骨に嫌な顔を浮かべて母親フィリスを見る。


「政略結婚とかマジでやる気ないんだけど」


 政治上の駆け引きを目的とした政略結婚は古の時代ではそう珍しいものではない。

 それは騎士や国王などと言う概念が存在するこの世界でも同じ。

 よもやその政略結婚をさせられる側になるとは、生前の己が聞けば鼻で一笑に伏していたに違いない。

 オルトリンデと各国は別に戦争をしている関係ではない。

 各々が本気になればオルトリンデなど容易く蹂躙出来るだろうが、侵略するだけの魅力がない以上兵力を無駄に出す訳にもいかない。僅かな男性を略奪する為であったとしても、戦争を起こすだけの原動力とするにはあまりにも薄いと言えよう。

 結婚したい、男と激しく性行為をしたいと言う下心が常に全開である女性は恐ろしく強い。もし戦争を仕掛ければ喜んで他国へと攻め入り現地で男を満足するまで犯し続けるだろう。

 そうなればもう彼女達は歯止めが効かなくなる。

 確保した男を手放すまいと身内同士で争い、やがては国家そのものが滅亡する。どれだけ主君に忠誠を誓おうとも一度男を味わえば本能を剥き出した一匹の雌に返る。統制が取れなくなった男に餓えた女性を鎮めるのは至難の業なのだ。

 では何故、大国が何故小国を相手に政略結婚をしようとするのか。その答えは至極単純だ。

 オルトリンデには王族の血を引くエイキがいるからである。

 オルトリンデの歴代国王は皆女性で、子供を生む際には外からの血を受け入れなければならなかった。本音を言えば一般市民の血よりも王族の者との血が国王おやとして欲しいかったのだろうが、男性が少ない以上そのような要望は我侭に過ぎず諦めざるを得なかった。

 そんな特色を持たなかった小国オルトリンデに、遂に念願とも言うべき王族の血を引く男児エイキが生まれた。

 数少ない男性の中で王族の血を引いている衛鬼エイキと言う国宝を保有した今、他国からすれば喉から手が伸びる程欲しい存在――と己で口にするのは自意識過剰の極みであるが事実でもある。

 現に、王族の男児からの血を貰わんと政略結婚に各国の姫君がオルトリンデへと送られてきているのがいい証拠だ。


「お、お待ち下さい国王様! エイキ……様には私がいるではありませんか!?」


 突然の婚約者候補達の出現に焦燥感を募らせた様子でアリッサが問い質す。


「アリッサ、確かに私は貴方をエイキの婚約者候補として認めたわ。けれど許可してから未だにエイキを夫として娶ってもいなければ子種をその身に注がれてもいない」

「そ、それは……ですが!」

「私としては早く孫の顔を見て安心したいの!」

「孫って……まだ結婚を考える歳でもないだろうに」


 日本の法律では男性は十八歳以上、女性は十六歳以上で結婚出来ると定められているが、オルトリンデでは十六歳以上から男女問わず成人として扱われるようになる。

 早く結婚をして一人でも多く男児を出産してほしいと言う国からの悲願が込められているからだ。

 だが女性は皆魔獣ばかり。

 肉食系女子ばかりのこの世界で、草食系である世の男性達は恐怖で脅えて結婚どころではない。中には絵本に描かれた恋物語のような恋愛が出来る相手が現れるまで結婚しないと固く誓う輩もいれば、真っ当な恋愛がしたいが為に中には他国への亡命を決行した輩も存在する。

 無論亡命をした男性は即座に捕まった。

 如何なる理由であれ亡命は国に対する最大の裏切り行為。女性であればまだしも管理されている男性であれば罪の重さも天と地の差ほどある。

 そんな亡命をした男性は罰として十人以上の妻と結婚し子作りすることを命じられた。

 少しでも男児の出生率を上げる為にオルトリンデに限らず、他国でも一夫一妻制は廃止され重婚が認められている。とは言え、男性の体力などを考慮して最低でも三人以上と結婚すればお咎めはない。

 対して罪を犯した者には倍以上の女性と結婚しなくてはならない。

 薬で体力と精力を強制的に回復され続け、休む間も与えられず多数の女性と性行為を行う――想像しただけで身震いをする罰に、亡命しようなどと言う男性は二度と現れることはなかった。

 一時の快楽でも、永遠に続けば地獄に変わり果てる。

 以降国から逃げ出した男性には強制的に多数の女性と結婚して子作りする罰が法の一つとして新たに加えられた。

 閑話休題それはさておき

 先日十六回目の誕生日を祝ってもらった衛鬼も結婚出来る大人の仲間入りを果たした。

 しかし異性としての好意を抱ける相手が未だ現れず、両親から結婚することを急かされても聞き流し続けていた。

 アリッサ、メリル、ミリア……欲情こそすれど、向けている好意は恋愛としてではなく友愛によるもの。アリッサに関しては幼馴染と言う関係と、先に倍の歳月を生きてきたことから手の掛かる妹として衛鬼は認識している。

 故に結婚したいと思わない。思えない。 


「と言う訳でエイキ、これから一ヶ月間彼女達と過ごし気になった相手が見つければ即座に結婚してもらうわ。母親として、息子である貴方にはこれ以上危険なことをしてほしくないの」

「えっ!? 一緒に住むのかよ!?」

「当然よ。たった一日でお互いのことがわかる筈がないでしょ?」

「そりゃそうだけどさ……」


 改めて三人の婚約者候補を見やる。

 三人とも頬を赤らめて熱を帯びた眼差しを送っていた。心なしか呼吸も僅かに荒い。

 王族であろうとなかろうと、元を正せば男に餓えた一人の女性。目の前に父親以外の男性を目の当たりにして興奮――否、発情している彼女達に衛鬼は頬を引き攣らせる。


「アリッサ、幼少期からエイキと共に過ごし私からも勝利を手にした貴女が結婚相手として選ばれることが本音を言えば望ましい――私の期待を裏切らないでね」

「は、はい! このアリッサ、全力で国王様のご期待に応えられるよう頑張ります! そう言う訳だからエイキ、早速私とここで一発ギシギシアンアンと子作りするわよ!」

「する訳ねーだろ馬鹿かお前は。後床だからギシギシって言う擬音は間違ってるから」


 襲い掛かってくるアリッサに衛鬼は巴投げを極める。

 放り投げられ背中を床で強打したアリッサが悶絶する様に、三人の婚約者候補が再び目を丸く見開いた。


「……まったく、まぁこうなった以上仕方ない。俺も大人だ、素直に母さんの言う事には従う――でもその前に、まずやるべきことがある」

「そ、それはなんですか!?」


 ティーバックの女騎士が手を上げて尋ねてくる。

 衛鬼は静かに返した。


「……お見合いだ」




◆◇◆◇◆◇ 




「し、失礼します――これで合ってるのよね」

「どうぞ、お座り下さい」


 扉をノックした後、入室してきた三人の婚約者候補に衛鬼は対面に設けた椅子に腰を下ろすよう促す。

 高校受験から企業入社まで、筆記試験とは別に行われる面接試験。

 志望動機や趣味、特技、長所と短所、それらを尋ね迅速かつ的確な返答と様子から自社にとって有益か無益か判断される。

 それに倣って、衛鬼は婚約者候補達とお見合いと言う名の面接を行うことにした。

 基本オルトリンデに面接と言う概念はない。騎士団への入団試験も主に実力があるか否かが合格基準とされている。毎年試験官役を務めるアリッサとミリアの両者から実力を示せば、それで第一次試験は合格とされる。

 第二試験である国に対する忠誠度を図る幾つもの任務を完遂すれば、晴れて王国騎士団の仲間入りを果たせる仕組みシステムとなっている。


「え~、それではただ今よりお見合いの方を始めていきたいと思います」


 お見合いと言う名の面接を始める。

 面接と言うものを経験したことがない婚約者候補達は皆緊張した面持ちだった。

――王族とは、実に面倒な役職だ。

 相手が王族である以上、アリッサのようにあしらえない。下手をすればそれが切っ掛けで戦争を仕掛けてくる可能性がない訳でもない。王族の血を引く男性を奪う為とは、戦争を仕掛ける理由としては実にくだらないが、自国を滅ぼされては衛鬼としても避けなくてはならなかった。

 転生してエイキとして第二の人生を歩み、様々なことが逆転していようともオルトリンデは既に第二の生まれ故郷なのだ。その故郷が烈火に包まれ、積み重ねられた多くの屍から流れる血で大地が染め上げられる姿は目にしたくない。

 それなりにもてなし、それでやんわりと断って自国へとお帰り頂く。これが衛鬼の中で出した最も適した結論だった。

 慎重に言葉を選び、ヨズガルドの国章を象ったペンダントを提げた女性に話し掛ける。


「それではまずは右の方から順番に名前と年齢、出身国を“嘘偽りなく”教えて下さい」

「わ、私から!? え、えっと……私の名前はティアナ、年齢は十八歳よ、出身国はヨズガルド――こんな感じでいいかしら」

「はい、ありがとうございます」


 手で次を促す。


「ボ、ボクの名前はリリルナと申します! 年齢は今年で十六歳になったばかりで出身国はアスファムです!」

「はい。元気があっていいですね。では次は……あぁ……」


 問題の一人に目を向ける。

 ヨズガルド、アスファムと出身者が出れば残るはヴァルハラしかない。

 英雄を生む国と呼ばれる国の王女が幼痴女ロリビッチだったとは誰が思おうか。これが正式な服装として取り扱っているならば、男が少なく結婚難が続く世の中に悲観し精神に異常を来たしているとしか思えない。一度医者に掛かることを内心で勧めながら、衛鬼は最後の一人に自己紹介を促す。


「アタシの名前はココ……出身はヴァルハラで、年齢は……」

「……どうかしましたか?」

「……笑わない?」

「何を?」

「年齢」

「いや、年齢の何処で笑えばいいんですか?」

「笑わないならいい、じゃあ言う――七十八歳」

「ちょっと待て」


 一時面接を中断する。


「アタシ、嘘は言ってない」

「え? 何? マジなの? マジで年齢そんなにいってんの? 正真正銘本物のロリバ……いや、失礼。高齢者?」

「アタシの国に伝わる秘伝の術を使えば、若さを保つことぐらい、簡単……」

「マジかよ……」


 衝撃の事実に衛鬼は唖然とした。同じく面接を受けているティアナ、リリルナも驚愕の色を孕んだ眼差しをココに向けている。

 自分達よりも遥かに年下と思っていた相手が年上だったのだ。驚くなと言う方が無理な話である。

――お前のようなババアがいるか。

 幼老痴女ロリビッチババアと、多くの属性が詰め込まれているココに内心でツッコミを入れた。


「え~、それじゃあ改めて俺の方からも自己紹介を。俺の名前はエイキ、まぁこの小国で王子をやってます。年齢はリリルナさんと同じく十六歳、まぁよろしく」


 簡潔に自己紹介を済ませる。

 そしていよいよ本題とも言うべき質問を衛鬼は彼女達に投げ掛ける。


「それでは次に、どうして俺の婚約者として立候補したのかティアナさんから順番に教えて下さい」

「実は私にはマーリンって魔法のお師匠様がいるの。お師匠様は昔から魔法に優れていて誰も尊敬していたわ。そう、ある日結婚して夫が出来たから弟子のお前は邪魔だから今日で卒業なって言って追い出されるまでは」

「あぁ……」


 声に怒りの感情いろが宿り握り締めた拳を小刻みに震わせる様子に衛鬼は察した。この後彼女が何を言おうとしているのか、大体想像がつく。


「未だ結婚出来ていない私に大きく膨らんだボテ腹を擦りながら自慢してくる元お師匠様を何度殺してやろうかと思ったことか……! それで悔しくて悔しくてむしゃくしゃしていたある日、お父様から貴方のことを聞かされたの。オルトリンデの国王の子供は男の子だって。だから……!」

「あぁ、やっぱりか――それで見返す為に俺と結婚すると?」

「そうよ。貴方と結婚して子供を作ってあのクソ元お師匠様を見返してやるの」


――ティアナの印象は最悪。

 衛鬼は素早く羊皮紙に筆ペンを走らせる。

 元いた世界であれば誰しもが心奪われ釘付けにさせる程容姿が整っていようとも、己の欲望の為に男を道具扱いしようとしている時点で魅力など既にない。

 興奮するティアナを落ち着かせて、衛鬼はリリルナに促す。


「ボ、ボクも最初は我が国の為を思い婚約者候補としてオルトリンデに来ました! ですが今は違います!」

「と、言いますと?」

「一目惚れです!」

「はい?」

「出会った瞬間、一瞬でボクはエイキ様――」

「あ、様は付けなくていいですから。同年代だしもっとフランクな感じで大丈夫ですよ」


 立場上、一部を除いて周囲からは必ず様付けで名前を呼ばれる。

 エイキとして過ごしていたならば、それが当たり前なのだから特に何も感じることはなかっただろう。けれども元一般市民であった衛鬼からすれば、自分は様付けで呼ばれるような大層な人間ではないと自覚している。

 故に様付けで呼ばれることが大変居心地が悪く、今となっても慣れなかった。


「じゃ、じゃあその、エイキ君って呼んでもいいですか?」

「全然いいですよ。寧ろその方がお互いに呼びやすいでしょう。俺もリリルナさんって呼ばせてもらいますから」

「じゃあ、改めて――今までどんな男性を見ても犯したい……いえ、滅茶苦茶に……でもなくて、えっと……兎に角エイキ君を見た瞬間稲妻が全身に駆け巡ったような感覚に陥りました! あぁ、これが俗に言う一目惚れなんだって、だからその、ボクはエイキ君と結婚したいです!」

「な、なるほど……」


――リリルナの印象は好感を持てる。

 今まで性的な目的で男を見ている女性ばかりに囲まれて過ごしてきた。

 その中でティアナのように純粋な、一異性としての好意を向けてくる女性は衛鬼にとって初めてである。

 比較的まともな女性を目にしたのは――はて、いつ頃だったか。


「それじゃあ最後にココは――」

「犯したい」

「は?」

「純粋にただ、エイキを犯したい。それだけ」

「いや、えっと……」

「……私もリリルナと同じ、だから」

「……さいですか」


――ココの印象は、やはり論外だった。

 ここにいる誰よりも性欲に純粋なココに衛鬼は頬を引き攣らせる。


「だからエイキ、アタシと結婚して沢山しよ?」

「ははは――寝言は寝てから言えよ」


 つい、本音が漏れてしまう。

 年齢が最長のココも外見だけを見ればまだまだ幼い子供だ。小学校低学年ぐらいの少女を連れて町を歩く己の姿を想像する。

――ないな……。

 脳裏に描いたココと己が手を繋いで歩く姿に、衛鬼は自嘲気味に小さく鼻で笑う。

 児童ポルノ法などと言う法律は存在しないが、いずれにせよ周囲からは幼児性愛者ペドフェリアと勘違いされかねない。衛鬼の場合誰とも結婚しようとしなかったことが、特に要らぬ誤解を招く可能性を大いに孕んでいる。

 幼児性愛者ペドフェリア疑惑を掛けられるのだけは何があろうとも避けなくてはならない。


「と、とりあえず各々方の結婚志望動機はよくわかりました。では次に趣味などを――」


 質問を続けていく。


「男がアヘ顔晒しながら永遠に私に子種を注いでくれるような魔法薬マジックポーションを開発することが今私が全てを注ぐ最大の目標かしらね。勿論飲むのは貴方よ?」

「趣味は鍛錬です! 後、その……どうすれば男の人が自分だけの物なってくれるか想像した小説を書いて実際に試してみることです」

「そんなことよりアタシと子作り……」


 面接を続けていく中で次々と明かされていく各国の姫君の素性に、衛鬼は終始頬を引き攣らせていた。

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