CHAPTER:10
オルトリンデから西に馬を走らせること数時間。鬱蒼とした森の中にひっそりと聳え立つ人工物の入り口を潜る。地上からの光が差し込まず、松明の炎を頼りに地下へと続く階段を降りて――やがて、松明に宿る炎を衛鬼は吹き消した。
地下である為陽光が差し込むことがないにも関わらず松明を必要としない理由は、周囲の岩から顔を覗かせる小さな鉱石にあった。
一つの光は一般家庭で見る常夜灯のように小さなものだが、何十……何百と超える輝きが流れる地下水に反射することによって地下空洞内を碧く照らし出していた。この光景を一つに芸術品として捉えることは決して誤りではない。
「こんな綺麗な場所だったんだな」
オリトリンデには遥か昔、騎士達が修練に励む為に使用されていた地下修練場があった。誰よりも強くならんと言う武人精神と、強い己の姿に男の心を射止めんと歪んだ乙女心によって設立された修練場内で行われる修練は過酷極まりなく、多くの者が志半ばで人生に幕を下ろしたと言う。
現在ではとうの昔に閉鎖されている為誰も寄り付かず、関係者以外立ち入り禁止となっている。幼きエルフの情報ではその修練場へとエルフを襲い連れ去った魔物が潜んでいるらしい。
「私も実際に来るのは初めてだけど……いい雰囲気じゃない。碧く神秘的な輝きで照らされる中想いを寄せる男に女が愛の告白をする――最高のシチュエーションと思わない!?」
「いや全然、わざわざ地下を選ぶ必要性が何処にあるんだ?」
リリルナがこの場に居ないことに衛鬼は安堵の溜息を漏らす。
もし同行させていたものなら、この場所も小説のネタとして使われていたことだろう。流石に自国の歴史ある場所が妄想の材料として使われることを、衛鬼も許す気はない。
「それにしても、遂に初ダンジョンだな」
好奇心と期待に目を輝かせながら、衛鬼は周囲を物色して――程なくしてその関心を別のものへと向けた。寧ろその別のものが、衛鬼にとって最大の関心を引く存在と言ってもいい。
目の前に続く石橋の向こうで設けられている建造物。
誰も足を運ぶことなく人の手が施されなくなり長年放置されてきたにも関わらず、当時の形を綺麗に保っている建造物こそが古の騎士達が使っていた修練場。
修練場と言うよりは城砦、と表現した方が的確か。
ショベルカーやクレーン車等の重機類がないこの世界で、これ程の建造物を作れた当時の人間達の技術力の凄さが伺える。果たして古の時代、騎士達はあの修練場でどのような修行で己の技を鍛えていたのか。考えれば考える程興味も妄想も尽きない。
「あれが例の修練場か……早速行ってみるか!」
「エイキさ、なんかちょっと喜んでない?」
「当たり前だろ! こんな物見せられて喜ばない男が何処にいるって言うんだ!」
「いやいやいや! そりゃエイキはそうかもしれないけど一般男性はまず喜ばないからね!?」
冒険物の醍醐味とも言えるダンジョンの探索。
迷宮のように入り組んだ中に跋扈する恐ろしい魔物や侵入者を待ち構える罠の数々。
そしてそれらの危険を抜けた先に待ち構えている宝とそれを守護する番人との戦闘――王道的なシチュエーションだが今から足を踏み入れるからこそ、衛鬼の心は絶えず高揚し続けていた。
先行しようとする騎士達よりも先に修練場へと続く長い石橋を渡る。
その中央は半径百メートル程の円形状となっており、一体の巨大な石像が設けられていた。
重量感溢れ禍々しい形状をした鎧に身を纏い右手に一条の槍を携え戦車に搭乗した二メートルはある女騎士像は、出入り口を塞いでいた鋼鉄の蓋に描かれているものと全く同じ。
その戦車を引っ張り騎士が左手に握っている手綱の先には全長五メートルはあろう巨体に獅子を思わせる不気味な怪獣像が四頭の首輪と繋がれている。
――今にも動き出しそうな出来栄えだ。
緊張した面持ちで衛鬼は石像を見据える。
ゲームでは特定のイベントを発生させると動き出しそのままボス戦に突入する、などと言ったパターンも王道である。現実的に考えれば無機物である石で出来ているのだから自分で動ける訳がない。
しかしここはファンタジーの世界であることを忘れてはならない。魔法や呪いが存在する以上、石像が動き出す魔法などが存在しても全然可笑しくない。
否、この石像がエルフを襲った魔物であり石像に擬態して奇襲を仕掛ける気を伺っているかもしれない。前世での空想に関する知識がある分余計な事を考えてしまう。
「……石橋を叩いて渡っても損はないか」
衛鬼は鞘から大刀を抜くと石像の足元を突いた。念の為の確認作業である。
切先が石を軽く音がただ虚しく鳴るのみで石像は微塵たりとも動かない。
「…………」
「エイキ? その石像がどうかしたの?」
「いや、ちょっとな……まぁ気にするな。俺の考えすぎだったみたいだし」
「そう? それにしても不気味な石像よね。なんで角生えてるのかしら」
「そう言うデザインにした方がかっこいいからに決まってるだろ。俺は全然好きだぞこの石像」
「ふん!」
「あっ! この馬鹿お前何やってるんだ!?」
歴史ある文化財を躊躇いなく損傷させた彼女の正気を疑わざるを得ない。例え歴史や考古学に関心を抱かずとも傷付けようとはまず思わない。
それを突如腰の剣を抜き放つと石像の首を撥ねたアリッサに、衛鬼は怪訝な眼差しを向けた。悪びれる様子もなく平然とした顔で剣を鞘に収め、首を失った石像に唾を吐き掛ける勢いで彼女が罵声を浴びせる。
「あんなの悪趣味の塊じゃない。私の方が断然可愛いしおっぱいもある。背がでかくて貧乳の女なんて男を抱く資格なんかないわ。例え石像だろうと人の婚約者にちょっかい出すなら容赦しないんだから」
「……謝れアリッサ! 今すぐ全国の長身で貧乳の女性に謝れ!」
「ふん! ほらさっさと終わらせてデートでも行くわよエイキ!」
「お前は今、全国の長身で貧乳の女性を敵に回したぞ」
荒々しく踏みつけるように石橋を渡るアリッサを、騎士達が追い掛ける。
無残にも胴体から切断させて地面に転がる首に謝罪の意味を込めて合掌し、衛鬼も慌てて彼女達の跡を追って修練場の中へと足を踏み入れた。
長い年月によって腐食し半壊している木製の門を潜り抜けると、広々としたエントランスが出迎えた。左右には扉、奥には二階と更に下へと続く階段が設けられている。そして朽ち果て損傷の激しい鎧兜を身に纏った白骨死体が無造作に転がっている。
「さてと、何処にエルフを捕らえた魔物がいるのかしら?」
「落ち着けよアリッサ。とりあえずこのフロアから調べていこう」
「それもそうね」
アリッサの命令により周囲の調査が始められる。
エルフの姿も肝心な魔物の姿もない。見つかるのは価値のないガラクタと、同じ女性として関心を惹かれたのか官能書籍ばかり――厳しい修練で折れそうになる心を奮い立たせる為に隠れて持ち込み、夜な夜な読んでは物語の主人公を己に置き換えて妄想していたに違いない。
「って官能書籍を見つけたからって今読む必要ないでしょ!? これは……そう、団長である私が没収するわ!」
忽ち騎士達から激しいブーイングコールがエントランスに響き渡る。既に色褪せて文章など殆ど読めないであろうに大切に袋の中に入れる辺り、アリッサの中に最初から破棄すると言う選択肢は存在していないらしい。
官能書籍や、湧き上がる性欲に疼く己を慰める為に使われていただろう道具の数々が回収され尽くされた。城に戻ったら綺麗に洗浄すれば使っても大丈夫だろうか、と口にする騎士達の会話は、あえて聞かないことにする。
病気になるから止めておけと騎士達の中から制止した者に、衛鬼は心の中で称賛の喝采を送った。
「一階には何もいなかったわね。それじゃあ次は二階を調べましょう」
「……いや、ここはあえて地下から先に調べよう」
「随分と放置されていても当時の罠がまだ生きてる可能性もある……気を付けて進もう」
「あら、どうして?」
「いや、なんとなくって言うか……勘?」
「ふ~ん――じゃあ先に地下から調べましょうか」
調査場所を一階から地下へと移す。
広く間隔が取られた階段を一段、また一段と降りていき、その先に設けられていた鋼鉄製の扉を開く。
長さは凡そ二十メートル前後。エントランス以上に大きく設計された室内の左右の壁には巨大な檻が幾つも設置されてる。
人間、と言うよりは猛獣よりも遥かに巨大な生命体を閉じ込めることを想定しているかのように造りから、恐らくは修練の一環として対人戦だけでなく捕らえてきた野生の魔物をも相手にしてきたに違いない。その証拠に檻の中には明らかに人間のものではない歪な骸が幾つか残されている。
室内を包み込む異様な空気に、衛鬼は一筋の冷や汗を流した。
――あの奥に、何かがいる。
緊張から鼓動が自然と速くなる。敵の姿はない、しかし確実にいると第六感が激しく警鐘を鳴らしている。鞘から抜いた大刀を更に強く握り締めて、衛鬼は奥にある扉を見据える。
アリッサも騎士達も同じく邪気を感じたのだろう。同じ女性として関心が惹かれる古からの遺産について場違いな会話ばかりしていた彼女達も、各々が武器を手に身構える。
「……もしかしたらだけど、正解なんじゃない?」
「俺もそんな気がする……多分、あの扉の奥に何かいる」
「皆気を引き締めていくわよ――突撃!」
蹴破る勢いで扉が開かれる。
扉を開けた瞬間、周囲に設けられていた松明が一人でに炎を燃え上がらせる。そして赤い輝きによって照らし出されたのは部屋の中央に設けられた円形状の舞台だった。
半径凡そ十メートル前後。リングに向かって続く細い石橋があり、向こう側にも橋があり何処かへと通ずる扉が見える。橋の下を除けば地面から無数の刃が顔を覗かせていた。
引き分けも慈悲もこの場では許されない。
生きるか死ぬか、殺すか殺されるか。手にした武器でどちらかの命が散るか、それともリングアウトして下で待ち構えている刃の餌食となるか……二つの一つの敗北条件。そんな過酷な環境で修練に挑んだ騎士達はどんな心境だったのだろう。 そんな思いを胸に抱きながら、衛鬼は舞台中央を見据える。
「どうやら、あいつが探してた奴みたいだな」
全身をローブで覆い隠している者が男か女なのかもわからない。
だが立ち入ることが禁止された場所にいる。これが何を意味すかは言うまでもない。
エルフを襲い連れ去った張本人である。
「事を移す前に一つだけ確認する――エルフを襲って拉致監禁したのはお前なのか?」
衛鬼の問いに相手は答えない。答えない代わりに行動で示した。
細く雪のように白く魔的な美しさを醸し出している腕がローブから伸びた――次の瞬間。手先より展開された黒紫色に怪しげに発光する魔法陣から小さな光球が幾つも放たれる。
「魔法!? 皆どんな効果があるかわからない以上当らないように注意して!」
全員が身構える。
不規則な動きで上空へと昇ると、それらは一斉に白骨死体へと落下した。
光球を受けた白骨死体達。死してから肉体は腐り落ち二度と動くことのない筈が、まるで生きているかの如く立ち上がると襲い掛かってきた。
彼女達はもう魂を失ったただの白骨死体ではない。誰しもが知る魔物だ。
「は、白骨死体が動いた!?」
「スケルトンだ!」
スケルトンは魔術によって動く屍。早い話が操り人形である。
既に肉体は朽ち果て死している彼らに疲労という概念は存在しない。完全に倒すには再生出来ない程粉々になるまで打ち砕くか、火葬場並みの火力で燃やし尽くすか。
一番効果的なのは元を断つこと。スケルトンと言う魔物を形づけている魔力を掻き消す魔法さえあれば恐れる存在ではない。
しかしスケルトンと言う魔物へと変貌させた張本人は既に姿を消している。隠れたのか、それとも何処か遠くへと戻っていったのか。
元を断てなくなった今、残された選択肢はスケルトンを完全に消滅させるしかない。
「ってなんか全員が俺の方に来てるんだけど!?」
大口を開き武器も構えず突撃してくるスケルトンの群れに衛鬼は恐怖を抱き――ふと、冷静に分析して、霞みの如く氷解した謎に納得する。
スケルトンに限らず怨霊やゾンビと言った、俗に言うアンデット系統の魔物が人間を襲う原動力は生に関する嫉妬とされる設定が多い。生きている者から発せられる生に満ちた魂の輝きに引き寄せられ、輝きを欲する為に人間を襲う。
では目の前にいるスケルトン達もそうか、と問われれば答えは否だ。
騎士と言えど元は一人の女性。男性との結婚と温かい家庭に憧れて手にする為に修練に身を投じ命を失った未婚者ばかり。即ち男性と結ばれることもなく出会いもなかったことを死の間際に強く恨んだならば――今、彼女達の前には生前に何よりも欲し求めていた衛鬼がいる。
「無理無理無理! 幾らなんでもこれ無理だから!」
「み、皆エイキを守るわよ! あんな骨なんかに指一本触れさせないんだから!」
アリッサが先陣を切り、騎士達が続けてスケルトンと交戦する。
闘技場は瞬く間に大混戦に陥った。
彼方此方で交差する刃によって甲高い金属音が奏でられ、繰り出される一撃に気合の篭った掛け声が何度も上がる。
幸いスケルトン達は弱い。アリッサを含む第一師団ならば赤子の手をひねるよりも楽な相手であることは確かだ。
だが、それは相手が人間や倒すことが出来る魔物のの話であって――不死の魔物となると訳が違ってくる。
「このっ! 何度斬っても復活してくるわよ!」
「スケルトンに物理攻撃は殆ど意味がないんだよ!」
多人数を相手にすることも可能とする祓剣流でも、斬っても死なない存在を多数相手にすることまでは想定していない。どれだけ動きが緩慢で単調な攻撃ばかりを仕掛けてくる弱い相手でも、鋭く斬撃を打ち込まれても痛みを感じることのないスケルトン達は何度も復活する。
相応の武器があれば解決していた。けれども手にしている大小の刀は千の思念が宿る切れ味抜群の業物であって、魔的な力を秘めた魔剣や聖剣に部類される武器ではない。堅牢な頭蓋を両断出来ようとも、原動力たる魔力を断たなければ意味がないのだ。
それは応戦するアリッサ達も同じく。何度も復活するスケルトン達に苦戦を強いられていた。他者を気に掛ける余裕がなくなる程、誰しもが目の前の敵に手一杯となっている。
故にその隙を狙っている者の存在に、誰も気付かない。
「あっ!」
「しまった! エイキ!」
背後から忍び寄ってきたスケルトンに気付かなかった衛鬼はそのまま拘束された。
この機を逃さんと次々とスケルトン達が身体にしがみつく。
「オトコ、オトコガイル!」
「オカスオカスオカスオカス……」
「オンナハドキョウ、ナンデモチョウセンスルモノヨ」
「ちょ、ズボン引っ張るな! 上だけなら兎も角下はマジで止めろ! ちょ、ちょっとアリッサ助けてくれ! マジで助けてお願いだから!」
完全に身動きを封じられた挙句衣服を剥がそうとするスケルトン達に、衛鬼は助けを求めた。男らしく格好を付けたところで解決出来ない以上格好悪いことに変わりはない。命が奪われる心配はなくとも、男としての尊厳は修復不可能なまでに傷付けられてしまう。
ならば格好悪くとも助けを求めることが一番の最善策だ。
だが、助けを求めたアリッサを含め騎士達が動きを見せない様子に衛鬼は狼狽する。
「お、おい何やってるんだよアリッサ! こんな時に冗談はやめろっつーの!」
「くっ……ごめんエイキ、どうやら動きを封じる魔法に掛けられたみたい!」
「えぇっ!?」
「こ、このままじゃエイキの裸が見れちゃう……じゃなくて見られちゃう! お、大きくなったあそことか見られたら、私はもう……!」
「おいお前絶対嘘だろ! 俺の裸が見たいからってわざと動けないフリしてるだけだろ!」
第一師団長である幼馴染が欲に走り出し裏切ると言った事態に衛鬼は顔を青ざめさせた。そうしている間にとうとう、上着が脱がされる。
おぉ、と歓声を上げて――慌てて動けないフリをする騎士達と、早く下を降ろせとさり気無くスケルトン達を催促するアリッサに憎悪に近い怒気を抱きながら、衛鬼は必死に抵抗を続ける。
しかし何体ものスケルトン達に四肢を拘束されている以上満足に動くことも出来ぬまま、ズボンも剥ぎ取られた。
残るは下着一枚のみ。最後の砦も抵抗虚しく、いよいよ剥ぎ取られようと白い指がゆっくりと伸ばされ――。
「踊れ火焔、我が仇名す者には裁きの牙を突き立てよ――スネークバイド!」
紅蓮の炎蛇が次々とスケルトンを飲み込み、跡形もなく燃やし尽くした。
無限の活動力を見せるスケルトンも、燃やし尽くされてはどうすることも出来ない。
スケルトンから解放されて入ってきた扉に視線を向ける。
長杖を構え魔法を発動しているティアナと、その背後にはリリルナとココの姿もあった。
「大丈夫エイキ!」
「ティ、ティアナさん……今日ほどティアナさんが頼もしく見えた日はないですよ」
「そ、そう? それってつまり私に惚れたってことでいいのかしら!?」
「まぁ、感激はしました」
奇声に近い歓喜の雄叫びを上げるティアナに、リリルナとココが嫉みの眼差しを送る。
一先ず人間としての尊厳が守られたことに安堵し脱がされた衣服を纏い直す――舌打ちをするアリッサ達に後で制裁を加えることを考えて、ふと脳裏に浮かび上がった疑問に衛鬼はティアナ達に尋ねた。
「そう言えば、三人はどうしてここに?」
「エイキ君を探してたら、第一師団の人達と外に出たって聞いたから慌てて追い掛けてきたんです」
「エルフの子供のお願いを聞いたんですってね。話を聞いた時は本当に驚かされたわ――でも、それが貴方の魅力の一つなんでしょうけどね」
「エイキ、裸になってアタシが来るのを待ってたなんて、大胆な誘い方……」
「確かに……」
「ムラムラさせるなんて、エイキ君はもしかしてとんでもなく変態だったんですか?」
「何でそうなる!? 本当にお前らは……もういいや、うん。いずれにせよ助かった訳だし。いや本当にウチの第一師団と師団長様は本当に何をやってるんでしょうかねぇ」
嫌味を全開にして、衛鬼はアリッサ達に軽蔑の眼差しを送る。
欲に走り国王の子息を守ると言う役目を忘れたことにようやく気付いたアリッサ達が慌ててその場で土下座をした。
「あっはは……その、ごめんねエイキ」
「どうしよっかなぁ。このまま母さんに言いつけて全員クビにしてもらおうかなぁ」
「そ、それだけは! それだけはお願い! そ、そうだ! お詫びに私の裸を見せるからそれで相殺に……」
「なると思うか? 今日のところはティアナさんに免じて許してやる。でももし次こんな事態が起きた時同じことやったら本当に即刻オルトリンデから追放するからな?」
「うぅ……すいませんでしたぁ」
気を取り直して、エルフの捜索及び魔法使いの追跡を行う。
結果として望ましい成果を得られなかった。
くまなく地下修練場の調査を続けたものの、実行犯である魔法使いはおろか捕らわれている筈のエルフ達の姿を遂に見つけ出すことが出来ず、無念を残したまま調査を打ち切らざるを得なかった。
両親の帰りを待っている幼きエルフにどのように説明すればよいか考える中、いつの間にか姿を消していたことをオルトリンデに帰還した直後に聞かされる。
地下修練場で対峙した魔法使いは何者だったのか、依頼をしにオルトリンデにやってきた幼きエルフは何処に消えたのか。多くの謎を残したまま終わった冒険を、日記に書き記し衛鬼は床へと就いた。