第2羽 小雪とお茶室② -3/5-
その単語が私の頭を素通りした。
「――え?」
……今、何て言ったの?
「よし。決まりだな。そう言う訳で速水、お前が譲れ。彼女がいなくなるのでは、店を続ける意味がないだろう?」
五条橋さんが一人で納得して、速水さんに言った。
「……な、……確かに、その場合はそうなる。けど、彼女の意志は?」
速水さんが言った。
「そんなもの。関係無い」
「そんな事は無い。彼女は隼人の婚約者だ!」
「ハッ。だとしてもそれは無効だろう」
私の上を素通りして、二人が会話をしています。
よめ……こんやくしゃ……って何でしたっけ……?聞き間違いよね?
五条橋さんが私を見た。
「早瀬小雪。俺が喫茶アトリを、イーグルカフェと並ぶ一大カフェチェーンにしてやろう。条件はお前が俺の妻になる事と、お前が一流のバリスタになる事。まともに珈琲も煎れられない女はごめんだからな。今幾つだ?中学生か?」
私は面食らった。
そういえば、初めの丁寧な口調はどこへ行ったのでしょう……?
五条橋さんが私に顔をおもいっきり近づけた。
「歳を答えろ」
「っ、……もうすぐ、十六です」
押された私は思わず答えました。
「十六か。高校はどこだ?」
五条橋さんが笑う。
「と……、東京の、通信制の高校に」
私が言うと、思いっきり舌打ちされた。
「ちっ。何だ馬鹿か……」
五条橋さんがあからさまに溜息を付いた。
五条橋さんの手が私の顔へ向かって伸びて来て、私は思わず身をすくめました。五条橋さんは、私のあごに指が触れる直前で手を下ろして、私の顔をじろじろと見て……。
「地頭はともかく――これだけ見た目が良ければ、学歴は何とでも誤魔化せるな」
と言った。
「なるほど!となると、確かに若い方がよろしいですね。学業に関しては、今から教師を付ければ問題は無いかと」
秘書さんが言った。
「ああ。教師は俺が選ぶ」「かしこまりました」
「あ、あの……?」
「式は来年一月だ。余計なクレームが付く前に、入籍して規正事実を作っておけば良い」
五条橋さんは言い切った。
「な」「えっ……」
速水さんが絶句して、私も真っ赤になりました。
「――ど、どうしてそうなるんですか!!?」
私は思わず言った。
「…彼女の言う通りだ」