第2羽 小雪とお茶室 -1/5-
「俺と一緒に『アトリ』を再建しよう。隼人の為に…あの場所でまた、お店を開くんだ」
「―速水さん!」
速水さんの言葉に、私は、ぱっと笑顔になった。
夕日がかれの背中を照らして、長い影が伸びる。
…まるで、この国の景色ではないみたい…。
「けどオーナーは癖のある人だから、どうなるか分からないよ。それでよければ」
表情を変えずに速水さんが言った。
「…ありがとうございます…!」
私はまた頭を下げました。
「お送り致します。女性が遅くなってはいけませんから」
「はいっ」
(隼人さん、私、頑張ります)
速水さんの車の助手席で、私は指輪に触れてそう思う。
けれど。
(…私は、いつか隼人さんの死も、受け入れてしまうのかしら…、いいえ絶対に…)
忘れたくない。
けれど…母の死に慣れた時のように、いつか冷静になってしまうの?
そして…それまでに、何度泣く事になるの…。
――こわい…。
私はぎゅっと手を握りました。
だけど、今の私にはアトリを再建すると言う目標があります。
この指輪は、その目標を助けてくれる、大切な…婚約指輪。
私は運転席の速水さんを見た。
(……ありがとうございます。隼人さんの為に……)
…友達でも、そこまでしてくれる人はいない。
速水さんは……少し変わった人です。
クイーンと私を呼んだりして、人が聞いたら何事かと思うかも知れないけど…。
私達の約束みたいなもの……?
――黒い車はすぐにアパートに着いた。
そういえば…速水さんは私のアパート、どうして知ってるのかしら?
カーナビも使ってないのに。
速水さんが助手席の扉を開けて、私にお辞儀をした。
何だかお姫様になったみたい。
「そうだ、連絡先」「あ…はい」
車の前でお互いの連絡先を交換する。
速水さんのスマホは、画面が割れていた。けど動くみたい。
「送って下さって、ありがとうございます。……これから…土地の件はどうします?」
私は言いました。
速水さんの事は信用していますが、それでもゆっくりはしていられません。
ここで次の約束を取り付けないと…。
「そうですね。…今、住所と地図を送りますので。少々お待ち下さい」
速水さんはそう言って、すぐに私の携帯にメールが届きました。
地図にあるのは…都内の大きな公園…でしょうか。
『桂錐園』と書かれています。
三角の目印が付いているのは、その中の、『慈碧庵』という場所です。
じせいあん?じへきあん?……なんて読むの?
「ではクイーン。明日、明朝九時。ここに一人でいらして下さい。――俺は容赦はしないから、そのつもりで」
「え??」
速水さんは帽子に手を掛け、お辞儀をして。去って行った。