閑話休題:魔人たちの気だるい午後
《デモニューロ》の総大将、ルーフィスは一人思案する。一人、静かに、人間たちを観察する。その姿は可憐にして優美。同性は等しくこの世に生まれたことを後悔し、異性は等しくこの世に生まれた幸運に感謝するだろう。例え、悪魔の総大将が昼間のバラエティ番組を無表情で見ている光景だったとしても、だ。
「ただいま帰ったのですー……ってルーフェス様、何やってるんですかぁ?」
明かりも付けていない部屋に舌っ足らずな声が響いた。小学生くらいの背丈で、いわゆるゴシックロリータファッションと呼ばれる黒い布地と白いレースで彩られた奇抜な服装だ。くりくりした栗色の髪にはヘッドドレスがかけられている。ゴスロリの少女は眠たげな眼でルーフェスの顔を見て、サクランボのような唇で言葉を紡いだ。
「へー、今日はそっちの姿なんですねぇ」
「私とて、いつでも同じ姿をしているわけではない」
ルーフィスは二つの姿を持つ。一つは福留功の姿。そしてもう一つは、若く端正な顔立ちをした長い銀髪の青年の姿。いまのルーフィスの姿は後者だ。
「ふん、人間……私が想像していたよりも、よほど下らぬ生物のようだな……」
「そりゃあ、人間が見る物の中でも相当低俗なものを見ていらっしゃいますからねえ」
「誰が結合した、誰が分離しただの……そのようなものを見て喜んでいる人間がいるということ自体が信じられん。貴様らには関係のない話であろうが……」
テレビ画面には『人気歌手結婚』『殺害予告相次ぐ』『記録上すでに結婚、当人困惑』と言ったキャプションが躍っている。ルーフィスは鼻で笑いながらテレビを消した。
「あー、もう見ないなら私に使わせてくださいねー。『おジャ仮面プリ丸』が始まってしまいますのでねー。はいはいルーフェス様退いてくださいねー」
「まったく、貴様も低俗なものを好んで見ている癖になにを……」
ぶつぶつ言いながら、ルーフェスは台所の席を譲った。ルーフェスが借りている部屋にテレビは二台ない、何かを見るということは何かを見れなくなる、ということだ。ルーフェスはうんざりした表情をしてベランダに出た。数分後、テレビからは甘ったるい声と過剰なまでの効果音、脳を蝕む旋律のような何かが流れ出して来た。
「このようなものが、音楽と言えるのか……!? 人間の音感というものは、ここまで堕落してしまったものなのか……クソッ!」
ルーフィスはベランダの手すりを打った。あまり強く打ちすぎると大家や隣人に文句を言われることが分かっているので、あまり強く打たなかったが。
彼の鼻孔が違和感を伝えた。この臭い、階下で煙草が吸われているのだろう。
「ベランダでは喫煙禁止だと言っているだろうが、このバカどもが……!」
ルーフィスは怒りに満ちた瞳で虚空を睨み、魔力、すなわち彼らに内在する仮想質量物質を操作し、階下に向けた。それは煙草の先端に収束した。深淵なる魔力を持ってすれば、煙草の火を炎に変えることなど造作もないのだ。階下から聞こえる情けない悲鳴に、ルーフィスは少しだけ溜飲を下げるのであった。
「やはり、人間という生物はどうしようもないほど醜い……! この世界から、すべてを消し去らねばならんようだな……!」
美しき深紅の夕日と、それが溶けていく醜い都市を睨みながら、ルーフィスは人類殲滅への決意を新たにするのであった。




