閑話休題:魔人たちの会合
そこは、薄暗い部屋であった。燦々と降りしきる太陽の光を遮るように、厚手の遮光カーテンを引いている。
そこに、数名の男女が思い思いの格好でくつろいでいた。その取り合わせは奇妙なものであり、老人、小学生くらいの少女、しなのかかった仕草をする筋骨隆々の男性、身長2mくらいある厚塗りの化粧をした女性の四人がそこにいた。
「どうやら……バジリスタがやられてしまったようだね……」
老人が眼鏡を上げながら、低く響くダンディな声で言った。部屋の壁際には一台、古めかしいパソコンが置かれており、そのディスプレイはある映像を映していた。それは、つい六時間ほど前に撮影されたものであり、花鶏と怪物との戦いを映していた。
「バジリスタは生まれたての小鹿みたいな奴だったしなァ……自分の力を過信して、不用意な行動に出てしまったとしても、無理はねえだろうな」
体をくねらせながら筋骨隆々の男、アスラータは言った。
「ですがぁ、ただの人間相手ならどんな不用意な行動をとったとしてもぉ、大丈夫だと思ったからバジリスタちゃんはあんなことをしたんじゃないんですかぁ?」
小学生くらいの体格の少女はゴシック調ドレスの裾を掴みながら拗ねるように言った。
「うむ、実に恐ろしきは我ら《デモニューロ》すら打ち倒す力をもあったあの存在……いったい何者なのだろうな。実に、興味深い」
大柄な女は言った。彼女の風体は、部屋の中でさえなお異彩を放っていた。何せほとんど全裸だ、彼女の体を覆っているのは革製の衣装で、それでさえ胸や肩、腰回りと膝といった急所しか守っていない。いわゆるビキニアーマーと呼ばれるような格好だった。背中には身長とほとんど同じくらいの長さがある、光り輝く剣を背負っている。
「決まっているだろう? 我らの敵……福留功が遺した遺産だ。それしか考えられん」
老人は、福留功と同じ格好で、福留功と同じ声で、憎悪に満ちた声を上げた。強く握られた手は震えており、軽く振り下ろされた拳の一撃が彼の前にあったクリスタルテーブルを粉砕した。細かな欠片が僅かな光を反射し、キラキラと輝きながら舞った。
「彼の遺産を手にしたのはいったい誰なのか? 早急に突き止めなければならないだろう。我々を倒すことが出来る存在を、放置しておくわけにはいかないからね」
「そうだね。我々には各々、この地に留まらなければならない理由があるのだから」
「そんなのぉ、この人に邪魔されるわけにはいきませんからねぇー」
「そして……あれがいったいどれほどの使い手なのか、気にならないわけではない。もしあいつを倒すことがあるとすれば、それは私が奴と戦う時だろう……!」
薄暗い部屋の中。人の姿をした《デモニューロ》たちは昏い誓約を交わした。
そんなところで、部屋のチャイムが鳴った。四人は顔を見合わせた。
「アスラータ、出てくれ。人前に出れる格好をしているのはお前だけだからな」
「あのさぁ、もうちょっと人目を気にして変身すればいいじゃないの……」
アスラータはぶつくさ言いながら玄関へと出て行った。チェーンを付けたまま扉を開き、チャイムを押しに来た愚かな来訪者に向かってこう言った。
「すみません、新聞なら間に合っているので結構ですよー」
《デモニューロ》たちは市内のとあるマンションに潜伏していた。電脳空間に潜れるとはいえ、長くそれをしたくない理由が彼らにはあった。幸いにも、彼らの情報能力を持ってすれば身分証の偽装など赤子の手を捻るよりも簡単に出来ることだった。とはいえ、頻繁に現れるセールスには彼らも辟易としていた。しばらくしてアスラータが戻ってきた。
「おい、化粧品のお試しセット三十日分が無料だってよ。どうする、ルーフィス」
「さっさと帰ってもらえ、だいたいここにいる誰が化粧なんてするんだッ!」
老人の姿をした《デモニューロ》、ルーフィスはアスラータを一喝した。残念残念、と言いながらアスラータは戻って行った。ルーフィスはため息をつきながら、自分たちをこんな状態に追い込んだ福留功への憎悪を募らせるのであった。