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魔術結晶アルケルメス  作者: 小夏雅彦
悪魔とベルトと少年と
15/25

俺の博士がこんなにクズいはずがない

『WELCOME! TOTO・FORM!』

 奇妙な電子音声とともに、トトの体が電子に分解される。そして、再びセットされた《スマートドライバー》に吸い込まれていった。

花鶏は両腕を広げ、変身の終了を待つ。吸収されたトトの電子体は《スマートドライバー》を介してアルケルメスの装甲に再分配され、全身に行き渡る。左右の腕には鋭利な三本のブレードが。脚には毛皮を思わせる、棘状の装飾を施した具足が。頭部には黄金色のタテガミめいたものが。


「トト、貴様ぁ……! 《デモニューロ》の、恥さらしがぁっ!」

『あらあら、私たちの存在自体恥の塊のようなものではないのですかぁ?』

 トトは《スマートドライバー》の中からクスクスと笑う。アマゾアは激高し、何度もスパイク剣を打ち鳴らした。すると、二つの剣に禍々しい『気』が宿った。

「貴様も花鶏とやらも許さん。我が剣技によってあの世へと送ってくれるわ!」


 アマゾアは走り出す。そのタイミングを、花鶏は分かっていた。風の動き。彼女が動いたことによって生じた気流の乱れを、彼は感じることが出来た。

なぜだ、そう考えて自分の頭になにが付いているかを理解した。たてがみが敏感に風を感じ取っているのだ。

 アマゾアは右の剣を振るう。力が籠もっていない、これはフェイントだ。軽く後方に身を反らし、それを避ける。素早く左の剣が振られた。それを花鶏は右手で逸らす。アマゾアの顔が驚愕に歪んだように、花鶏には見えた。ほとんど踏み込まず、しかし両足で大地をしっかりと踏み締め、腰を回しながら花鶏は左で掌打を打った。どこを打てばいいのか、彼には分かっていた。人間でいうならばへその少し上に打撃を叩き込む。


「ごはぁぁぁぁっ!?」

 軽く放った打撃は、花鶏の予想よりも遥かに重篤な打撃を与えたようだった。アマゾアがたたらを踏み、下がる。その隙を見過ごすわけにはいかない、左足を前に出し、軸としながらその場で回転、右後ろ回し蹴りをアマゾアに叩き込んだ。剣をクロスさせそれを防ごうとするが、トトのスピードが合わさったアルケルメスの蹴りをそう簡単に防げことは出来ない。クロスガードの体勢のまま、アマゾアは後ろに吹き飛ばされた。


「凄い、どうなってんだ……打つべき場所が、分かった……?」

『それが私の力ですよ、お兄さん。力バカのアスラータちゃんには出来ないことです』

「お前の力? どういうことだよ、それは」

『私の力だけじゃなく、知識と経験もあなたに注ぎ込まれてるってことですよ。私みたいな非力な女子が暮らして行くには、魔界というところはいささか不便でしてねぇ……ですから、力を磨きながらも頭を使っていたってわけなんですよ』


 どこが非力だ、とこの前の戦いのことを思い出したが、言わないことにした。

『特に、アマゾアちゃんとは十五年来の付き合いですからねぇ。あの子の性癖から動きの癖まで、どんなことでもお見通しですよ。あなたは私には勝てないんですねぇ』

「ほざけ……! 小賢しいだけの、子猿如きがァァァァッ!」

 怒りのままにアマゾアは剣を振るう。巻き起こった風が、不快に花鶏を撫でる。

『そうやって、些細なことで起こり出すような子だから、ですよ……!』

「一気に決めるぜ! 福留さん、この間出した足の追加武器、また着けてくれよ!」

『キミ、ついにアームズコールまで言わなくなってしまったね……』

「あんたも高性能AIを気取るんなら、戦況に合わせて勝手に出してくれよ!」


 右足を突き出し、左足に体重を乗せながら、花鶏は構えを取った。《スマートドライバー》から放出された仮想質量物質が足の周りで渦巻き、脚部追加装甲にして必殺の武装である『スレイプニル』を構成する。両手を強く握り締める。エネルギーが収束する。このポーズこそが、《ファイナルフェーズ》発動の条件なのだ。

 踏み込んだ、そうアマゾアが認識した瞬間には、花鶏は彼女の後ろに回っていた。

「なっ……!?」


 かろうじで反応したアマゾアは両手に握った剣を水平に振り払う。花鶏の体に到達する寸前、アマゾアの両手首と顎に衝撃が走った。蹴られた、と認識するのが精一杯だった。スパイク剣が二本とも、回転しながら宙を舞った。

 更に背中、脇腹、右太もも、首筋、脳天、股間、臀部に衝撃。ほんの数秒の間に彼女の周りを、花鶏は何度も回りながら蹴り続けた。二本の剣が回転しながら地面に落ちたと同時に、アマゾアは両膝を地面に着いた。そしてようやく、彼女は花鶏の姿をその目で捉えることが出来た。彼の背中に伸ばされた手が、届くことはなかった。すべての力を失ったアマゾアは顔から地面に倒れ込み、そして爆発四散した。


「花鶏ーッ!」

 後ろから見守っていた弓狩が花鶏に向かって駆けつけて来た。花鶏はベルトを取り外し、変身を解除した。アスラータの時と同じように、傍らにトトが現れた。

「大丈夫? 怪我とか、してないか……?」

「ああ、トトが来てくれて助かった。しかし、まさか助けてくれるとはな……」

「さっきも言った通り。私は世間体を守るために戦っただけですからねー?」

 トトは両手を広げ、その場でくるりと回った。見ている限りは、本当に子供のようだ。花鶏と弓狩も微笑んだ。

「はっ、かまととぶりやがってよォ、このババアが」

「アスラータちゃーん? 人のことをババアとかいうのは感心しませんねー?」

「ババアって……さすがに、こいつをババアと言い張るのは無理があるんじゃないのか」

 花鶏はトトのつま先から頭頂まで見回してみた。どこからどう見ても、人間の子供だ。容姿は自由に変えられるそうだが、立ち振る舞いを見ても完全な子供だろう。


「《デモニューロ》は姿形を自由自在に変えられるからな……それに、忘れてるかもしれないが、俺たちは悪魔だ。人を騙すのが、俺たちの仕事だったんだぜ?」

「ウフフフ? でもでもですねー、騙されてても楽しい方がいいですよー?」

 アスラータトトとの間に、目に見えない力場が発生しているように思えた。恐らく、トトに対してババアは禁句だ。そんなことを考えながら、花鶏は福留を睨んだ。


「……で、福留さん。『DAEMON SLAVE』システムってのはなんなんだ?」

『それは……キミに悪魔と戦う力を授けるために……』

「誤魔化すのはよせ。一朝一夕でこんなもの、用意出来るわけがないだろう。これはあんたのために作ったシステムだ。そんな体になって使えなくなった、だから俺に流用している。どうだ、違うか?」

 福留は押し黙った。花鶏は携帯を握ったまま、手を高く上げた。


「いやー、それは言えるわけがないでしょうねー? 何せあなたが原因ですしー?」

「……どういうことだ、トト。キミは何か、これについて知っているのか?」

「推測ですけどねぇ……悪魔を支配するシステムを作ったけど失敗した。だからあなたは、ルーフィスに殺されてしまったのではないですかぁー?」

 それを聞いて、福留は押し黙った。


「……どういうことだ、トト。悪魔を支配するシステムだと?」

「私も画面を見せてもらいましたが、悪魔を『SLAVE』……つまり隷属させるシステム。自分よりも力のあるものを従えるためのシステム、なのでしょう? そして、それは対象の『承認』を持って完成する。だから私たちに、あなたに力を貸すことを求めた」

 そういえば、と花鶏は思う。あの時福留は執拗に『自分に力を貸す』ことを求めていた。花鶏の時は無理やり進めたから、トトの時は明白な拒否があったからシステムは発動しなかった。だがあの時、不用意にそれを承認していたら、どうなっていたのだろう?


「おおかた、口車に乗せてルーフィスちゃんを隷属させようとしたのでしょう? ところが、聡いあの子のことです、私よりもずっと前にそのことに気付いた。だからこそ……あなたはあの子に殺されてしまった。違いますかー?」

『バカな……でたらめだ! いったい何の証拠があってそんなことを言うんだね?!』

「いやー、だって……私ルーフィスちゃんから事の顛末を聞いてますからー」

 満面の笑みで、トトは言った。それを受けて、ついに福留は言葉がなくなった。


「おい、福留さん……あんた、本当に……? 冗談だよな、そんな……」

『……』

「力を貸してくれた奴を騙して、奴隷にしようとしたって……冗談だろう? だって、そんな、そんなことをするような奴は……!」

『……』

「あんたッ! 本物のクズじゃねえかッ!」

 花鶏の絶叫が、倉庫に木霊した。この期に及んで、福留は黙っていた。


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