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魔術結晶アルケルメス  作者: 小夏雅彦
悪魔とベルトと少年と
14/25

道を誤っている方が強いという風潮

「手前の勝手な欲望のために、子供たちを改造なんてさせてたまるかよッ!」

『花鶏くん、キミも結構これに乗ってきたんじゃないかね……?』

 アマゾアは鼻を鳴らし、腰にあったホルスター状の器官に接続されていた剣の柄を取った。サメの歯のようなギザギザの刃が刀身に付いた剣で、身長ほどの長さがあった。


「私の愛を邪魔する人間は、誰であっても生かして帰しはしないわッ!」

「手前の愛情なんてもんは、丸めてそのまま焼却場にポイだ! アームズコール!」

 走りながら花鶏は武装を召喚、グルグルと棒を振り回し、遠心力を乗せて振り下ろした。アマゾアは難なくそれを回避するが、狙いはそれではない。会話の間に機械の解析は終わっており、破壊しても問題のない機械であること、むしろ破壊しなければ子供の成育に悪影響が及ぶであろうことが分かっていた。仮想質量物質は任意の性質と質量を持つ、一瞬にして硬質かつ高質量な物質に変換された棒が、一撃で大柄な機械をスクラップに変えた。


「なっ! き、貴様ぁ……最初から狙いは私ではなく、これだったのか!」

「あんたと同じくらい毒電波を撒き散らしてるみたいだからなあ、消えてもらったぜ!」

「貴様ぁぁぁ……! よくも、よくも私の夢をォォォォォォッ!」

 アマゾアは助走を付けずに跳躍、高高度からの斬撃を放った。花鶏は冷静に、棒の先端を突き込んだ。跳躍中で不安定になっているアマゾアと、冷静に狙いを定め、腰を入れた刺突を繰り出すことの出来る花鶏。

どちらに軍配が上がるかは明白だった。アマゾアの剣が花鶏に届くことはなく、花鶏の棒はアマゾアの腹を正確に打った。


 それだけでは終わらない、棒の上に乗ったアマゾアの体を、花鶏は一本釣りの要領で投げた。彼女の体は抵抗することなく投げ飛ばされていき、壁に激突した。プレハブ造りの脆弱な壁は衝突の衝撃に耐えられずに破壊され、投げ飛ばされたアマゾアは地面をゴロゴロと転がった。花鶏はそれに続き、外で彼女と相対した。

「ガキどもを危険に晒すわけにはいかないんでな。あんたはここでやらせてもらうぜ」

「調子に乗るなよ、人間の……不細工な蛾のような存在如きがァッ!」


 アマゾアはもう片方の腰に備え付けられていた剣を取った。2m近い長さを誇る長剣を、二本! それを巧みに操り、アマゾアは花鶏と対峙した。

「貴様らは、進化の方法を間違えた蛾だ! 美しく優美な蝶ではないのだァッ!」

「愛しているとか何とか言いながら、手前は子供たちを愛玩動物としか思っちゃいねえんだろうが! 自分を屈服させるだのなんだの言いながら、手前は都合のいいおもちゃを欲しがっていただけだ! 手前の腐りきった根性、ぶっ叩いて砕いてやるッ!」

『私が召喚した《デモニューロ》の中でも、信じられんくらい下劣な精神の持ち主のようだな……! 彼女の存在を許しておくわけにはいかん、行くぞ勇吾くん!』


 棒を構え花鶏は突撃する。一方のアマゾアは両腕を広げ、ゆっくりと歩く。花鶏は棒を振り下ろした。アマゾアは左の剣でそれを受け止める。サメの歯のような刃が、がっちりと棒をホールドする。そしてもう一本の剣で花鶏の腹を突いた。火花と衝撃が襲う。

 痛みに呻く花鶏に、更にアマゾアは襲い掛かる。右の剣を逆袈裟に振り下ろす。花鶏はそれを受け止めるが、サメの歯のような刃によって押さえつけられてしまう。その隙を突き、左の剣を袈裟掛けに振り下ろす。

胸部装甲が切り裂かれ火花が舞う。更に腹部に衝撃、至近距離での蹴りが叩き込まれたからだ。今度は花鶏が吹き飛ばされた。火花と煙を撒き散らしながら、花鶏はゴロゴロと地面を転がって行った。


「んの野郎……! 至近距離の打ち合いじゃ分が悪いってことかよ!」

『だが、まだ銃は完成していない! 殴り合うしかないだろうな……!』

 棒はダメだ。あの刃に絡め取られてしまう。ならば格闘戦は? 剣のリーチを上回るのは至難の業だ。運よく近づけたとしても、アマゾアの白兵戦能力は高い。

「どうした、それで終わりか? ならばこちらから行かせてもらうぞ!」


 アマゾアは走る。アスラータのそれよりも遅いが、それでも驚異的な加速力だ。アマゾアが走りながら振り下ろして来た左の剣の腹を裏拳で弾きながら後退。右の剣で突き込んで来るのを紙一重で回避。押さえ込もうとすれば、引きの動作で切られる。ゆえに剣をどうこうすることは出来ない、アスラフォームの防御力でもこれを上回れるかは分からない。武器と攻撃を封じられ、花鶏は防戦一方となってしまう!


 その頃、柵を乗り越えアスラータと弓狩もアマゾアとの戦いを見ていた。二人の目にも、戦いは一方的な展開に思えた。

「アマゾア……やはりやりやがるな。あいつ一人じゃ荷が勝ちすぎるかもな……」

「アスラータ、アマゾアって奴のことを知ってるの?」

「いいライバルだと思ってたんだがな。剣の冴えがスゲエ、俺も行かねえと……」

 そう言ったアスラータは、背後からの声によって呼び止められた。

「ちょっとお待ちになってくださいな。お兄さんの力になるのは私の番ですよ?」


 突きを避けようと身を翻す。だが、それはフェイントだ。素早く引き戻され、放たれた刺突を花鶏は避けきれず食らう。小突いたようなものであり、威力はそれほどではない。だが、それは布石だ。渾身の力を込めたクロス斬撃が無防備になった花鶏に放たれた。胸部装甲が深々と切り裂かれ、花鶏の体が大きく吹き飛ばされた。


『くっ……勇吾くん。このままでは危険だ、後退しなければ……!』

「クソ、この変態に背中を見せるってのは絶対に嫌だ……!」

 アルケルメスの胸部装甲はシュウシュウと白い煙を発している。装甲の自己再生能力、正確に言えば仮想質量物質の充填だ。生成時に大量の電熱が発生するため、大気に含まれる水分と反応し、このような現象を生み出す。自己再生能力は頼りにはほとんどならない、これほどのダメージを負ったのならば、十数分は完全再生にかかるだろう。外部から大量の仮想質量物質を補給してこない限りは。

「誰かを愛することが罪だというのならば……私はその罰を負いながら生きるッ!」


 カッコいいことを言いながら、アマゾアは両手の剣を掲げ突撃して来た。花鶏はそれを迎え撃とうと構えを作るが、目の焦点はあっておらず足もフラついている。

 だが、アマゾアが花鶏と交錯することはなかった。彼女の装甲の上でいくつもの火花が上がり、少し遅れて炸裂音と金属の衝突音が花鶏の耳に聞こえて来た。好機を見た花鶏は瞬間動く、跳び上がりながら両足を合わせ、防御も回避も一切考えていない殺人キックを繰り出す! いわゆる、ドロップキックと呼ばれる危険技だ!

「どぅああぁぁぁぁぁーッ!」


 ドロップキックを受け、アマゾアの体が大きく吹き飛んでいく。足裏にスパイクも仕込んでいないはずなのに、アマゾアの体から火花が散った。花鶏は転げ落ちるようにして着地したが、すぐに立ち上がった。アマゾアは放置された金属タンクに激突、薄い鋼板で作られたタンクをグシャグシャにしながら、転げるようにして着地した。


「フッフッフー? お兄さん、私がいないとやっぱりダメみたいですねー?」

「お前は、トト! なんで……お前、アマゾアと一緒にいるんじゃないのかよ!?」

 花鶏はワケも分からずトトを怒鳴りつけた。だが、それはアマゾアも同じようだった。

「トト……! どういうことだ、どうしてここにいる!? 私を撃つとはいったい!」


 アマゾアはスパイク剣を杖代わりにしてよろよろと立ち上がりながら、トトに怒鳴りつけた。花鶏も福留も、ワケが分からず事態を静観した。トトはため息を吐いた。

「アマゾアちゃーん? 私はあなたの愛というものはよく分かりませんしー、分かる気もありませんがー。人に迷惑をかけないうちは放っておこうと思っておいたんですよ? そう、人に迷惑をかけないうちは、ね……?」

「貴様も……貴様も! 私の愛を、否定するというのかァーッ!」


「否定するのは愛じゃありません。あなたの身勝手な行動ですよ……子供たちを浚い、好き勝手にしようとするなどという行為。それは許しておけないんですよねー?」

「《デモニューロ》の世間体が悪くなるから……か?」

 アスラータが言っていた言葉を思い出しながら、花鶏は言った。トトは振り返り、満面の笑みを浮かべながら花鶏の言葉に頷いた。


「ですのでお兄さん。私もアマゾアちゃんを倒すために力を貸してあげます。この世界で罪を犯した《デモニューロ》は、私たちの手で裁かなければいけませんからねぇ」

『自浄作用、とでも言うつもりかね? トト?』

「あなたに任せておけないだけですねー、福留さん? 言っておきますけど、力を貸してあげるのは『あなたに』じゃありません。お兄さんに、だということをお忘れなく」

 トトの言葉に、福留は何かを返すことはなかった。恐らく、福留功はまだ隠し事をしている。そしてトトはそれに気付いている。だが、それはいま気にすることではない。


「花鶏だ。花鶏勇吾、それが俺の名前だ。手を貸してくれ、トト!」

「ふふ、おーけーですよ花鶏さん。それでは行きましょう!」

 花鶏はベルトのバックル、すなわち携帯の部分を手に取り、外した。変身が解除されることはない、ベルトの部分はベルトの部分で残っているからだ。ディスプレイには『DAEMON SLAVE』と表示されており、『SLAVE』と『GUEST』の二つのボタンがあった。だが『SLAVE』の方は灰色の表示になっている、恐らくは使えないのだろう。花鶏は迷うことなく『GUEST』のボタンをタップした。


『WELCOME! TOTO・FORM!』


光が二人の体を包む!

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