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魔術結晶アルケルメス  作者: 小夏雅彦
悪魔とベルトと少年と
12/25

力こそパワー! 強健たるアスラフォーム

「あらあら、筋肉ダルマさん……あなたがどうしてそこにいるんですかぁ?」

「ここは道路だぜ? どこにいようとも、俺の勝手じゃねえか? なあ?」

「あなたがそこに立ってる理由は聞いてないんですよー? 大事なのはなんであなたがその子を守っているのか、っていうことなんですけどねー?」

 トトはいままでの余裕を持った姿とは打って変わって、どこか焦りを感じさせた。アスラータは彼女の言葉を鼻で笑いながら、言い返した。


「俺がどこにいようが、どこにいまいが、それこそ知ったこっちゃねえだろ。俺たちゃ悪魔、《デモニューロ》だぜ? 個人主義者の集まりじゃあねえか。こいつを殺そうとする奴がいれば、こいつを助けようとする奴もいる。それでいいだろう、なあ?」

 痛みを堪えながら、何とか花鶏は立ち上がった。

崩れ落ちそうだが、そうするわけにもいかない。トトの殺気を考えると、寝ていると本当に殺されそうだったからだ。

「アスラータ……あんたは、俺の味方なのか?」

「……」

「俺と、俺と一緒に戦って……」


 最後まで言うことは出来なかった。アスラータに思い切りぶん殴られたからだ。

「甘ったれたこと言ってんじゃねえ! 誰がお前を助けるなんて言ったぁっ!」

「あんただよ! あんたが俺を助けるっつったんだろうが!」

「ああ? それはなんだ、あれだ、言葉のあやだ!」

「手前で吐いた唾飲み込んでんじゃねえよ! ちったあ男見せろタコ!」

 大声で花鶏とアスラータはやり合った。トトの表情を推し量ることは出来ないが、もし人間の表情があったのならば呆気に取られているのではないだろうか。事実、彼女は隙だらけの花鶏とアスラータに対して攻撃を仕掛けていないのだから。


「チッ……あんたがワケ分からねえのはいまに始まったことじゃねえからよ。一応感謝しとくが、退いてろ。あの偽装幼女は俺が、この手でぶっ飛ばしてやる」

「いまぶっ飛ばされていたのは気のせいなのか? 手伝ってやろうか、花鶏ぃ」

「いらねえよ。だいたい、俺はああいう手合いが大っ嫌いなのさ。可愛けりゃ何でも許されると思ってんじゃねえぞ。手前はその化けの皮のままぶっ飛ばしてやるぜ」

 あれほどの攻撃を受けてなお、花鶏の闘志は萎えていなかった。アスラータは驚き、トトは内心で微笑んだ。腕の棘を充填させ、再び花鶏と向き合った。


「……なるほどな。やっぱり面白ェわ、お前は」

 そう言って、アスラータは花鶏の隣に並び、構えを取った。

「協力してやるよ。トトの野郎に、一泡吹かせてやろうじゃあねえか。なあ?」

「あ? あんたの協力なんぞなくてもあいつなんて楽勝だよ。引っ込んでろタコ」

「んだとぉ、手前! せっかく人が協力してやるって言ってんだぞコラ! 喜べよ!」

「るっせえな! 協力するんだかしねえんだかはっきりしろよ! さっきからお前ワケが分からねえんだよ! 一貫性って言葉知ってるか、お前!」


 そんなことを言っていると、二人の体に衝撃が走った。痺れを切らしたトトの攻撃だ。

「……何だかよく分かりませんけど、私は戦ってもよろしいんでしょうかぁ?」

 花鶏は急いで立ち上がろうとした。しかし、福留がそれを制した。

『アスラータ、私に協力してくれると、そう考えてもいいんだね?』

「お前に協力するんじゃあねえ、花鶏に協力するのさ。そいつ面白ェからな」

『どちらも一緒だろう、勇吾くんに協力するということはつまり私に協力するということだ。だから敢えてもう一度問おう、私と一緒に戦ってくれるのだね?』

「だから言ってんだろ、あんたじゃなくて花鶏と協力して戦うってなあ……」

「ああ、もううるせえよお前ら! どっちでもいいだろんなことは、行くぞオラァッ!」


 いい加減押し問答に飽きた花鶏は、半ばキレながら携帯のディスプレイを叩いた。腹立ちまぎれに福留への攻撃を行った花鶏は、気付かなかった。ディスプレイ上に表示されていた『GUEST』という表示に、偶然手を触れてしまったことに。

『あっ、しまった……』


 拳を構えたアスラータは訝しんだ。自分の体が分解されているのだ。光り輝く0と1へ自分の体が変換され、《スマートドライバー》に吸い込まれていく。

「オイオイオイオイ! これは、いったいどういうことなんだよ……!?」

 花鶏もアスラータも、顔を見合わせ突然の事態に驚いた。その中で福留だけが冷静だった。アスラータの体は完全に分解され、すべてが《スマートドライバー》に吸収された。

花鶏から見ることは出来なかったが、ディスプレイ上にアイコンが一つ追加された。


『やむを得ん……仕方があるまい、《プロセス・デモン》、スタートだ!』

 それが何なのかを問いただす暇もなく、花鶏の体は金色の光に包まれた。ちょうど、変換されたアスラータが発していたような光だ。腕、胸、脚、頭。全身が光りに包まれ、奇妙な感覚が花鶏を襲った。何が起こっているのか、まるで分からなかった。


『WELCOME! ASURA・FORM!』


 奇妙な電子音声とともに、周囲を震わせる衝撃波を伴い光は消え去った。トトは目を覆った。視界を取り戻した時、彼女の目の前には想像だにしていない光景があった。

 アルケルメスの姿は変わっていた。両腕、両足は全体が深紅の装甲に覆われており、拳と爪先には鋭いスパイクが追加されていた。胸部装甲には人間の腕を模した飾りが付けられており、それは彼女の方から見えない背面装甲に関しても同様だった。マスクには鬼めいた牙飾りと角飾りがついている。花鶏は自分の姿を見て、言った。


「なんだこりゃあ! キモイ!」

『手前、キモイとは何だこら、キモイとは! ぶっ飛ばされてえのか手前!』

 ベルトのバックルからアスラータの声が聞こえて来た。思わず花鶏はバックルを掴み、左右に思い切り揺さぶってしまった。アスラータと福留の悲鳴が聞こえてくる。


『止めろ、よせ! 俺はこの中にいるんだ! 揺さぶるんじゃねえよ!』

「福留ェーッ! 手前いったい何をしやがったこの野郎! さっさと吐けェーッ!」

 ついに『さん』付けすらなくなった。揺さぶられながら福留は言った。

『お、落ち着き給え! これは《スマートドライバー》に装備された基本機能なのだ!』

「基本機能だぁ? 俺はそんなものの説明受けてねえぞ! なんなんだよ、こりゃ!」

『《スマートドライバー》は《デモニューロ》との戦いを行うために開発されたものだ。だが、それ単体では多彩な能力を持つ《デモニューロ》への対応力に欠ける。そこで、私はこのドライバーに《デモニューロ》の力を込める方法を開発したのだ』

「《デモニューロ》の力を、込めるだって……?」


 花鶏はドライバーを揺さぶるのを止めた。むせながらも福留は続けた。

『《デモニューロ》の生体メモリを使ってドライバー自体の処理能力を向上させるとともに、《デモニューロ》の持つ固有能力を変身態に反映させる機能を追加したのだよ』

『オイオイオイ、福留。それじゃあ、俺は一生このままってことなのか!?』

『……安心したまえ、キミは自由にここから出て行くことが出来る。だが、いまは一緒に戦ってほしい。トトを上回るには、キミの協力が必要不可欠だからね』

「ま……俺も、ずっとこいつと一緒に戦っていくなんてのはぞっとしねえからな」


 拳を打ち鳴らし、花鶏は腰を落とし構えを作った。トトはそれを冷酷に見続ける。

「《デモニューロ》を取り込むシステム……なるほど、そういうことですか」

 トトは腕を振るった。それと同時に多数の棘が発射される。花鶏はそれに構わず進んだ。いくつもの棘が花鶏の体と接触、派手な火花と爆音を放つ。だが、それを受けても花鶏はもはや止まらなかった。棘は一つとして、彼に刺さってはいなかった。

「やれやれ……アスラータちゃんと一体化したことによる効果ですかねえ、これは!」

 装甲が増強された影響か、アルケルメスの動きは通常形態のそれより鈍い。しかし、それでも……その身に秘められたパワーは、これまでのそれとは比較にならない!


 花鶏は右手をハンマーの如く振り上げ、トトに向かって打ち放つ。だがこれでは先程の再現だ、トトもそれに反応し、鋭い貫手の連打を繰り出す。装甲の隙間、逃れられぬ衝撃が花鶏を襲う。だが、彼はそれを気にも留めない! トトの胸板に巨大な拳が叩き込まれる! 吹き飛ばされるのは、トトの番だ!

「くっ……!? 私の攻撃が、通用しないというんですかねぇ!」

『トトォッ! お前の打撃には魂が籠もっちゃいねえんだよ! 俺の魂には響かねぇ!』

「相変わらず何を言っているのかさっぱり分からないんですよ、あなたはぁ!」


 トトは踏み止まり、拳を握った。鋭い鉤爪が両腕、両足に展開された。トトはそれを振るう。花鶏はそれを付け止めた。強固な腕部装甲と爪とがかみ合い、そして腕が勝った! 

花鶏は更に力を込めてトトの鉤爪を弾き飛ばし、体勢が崩れたところに前蹴りを繰り出した。猛スピード重トラック同士の衝突音めいた凄まじい音が大気を震わせ、トトの体を上空10m地点まで飛ばした。花鶏は更に跳躍、無防備になったトトにハンマーパンチを繰り出す! トトはボールめいた勢いで吹き飛んで行き、曲がり角にあったビルの窓ガラスを割って中に放り込まれた!


『どうだぁ! 俺の腕力に、解決出来ねえものなんて存在しねェーッ!』

「結局トトには、こいつの装甲厚を上回るパワーがなかったってことか……」

『俊足業師タイプのトトと、剛腕力士タイプのアスラータとでは相性が悪かったね。って、そんなことを言っている場合じゃない! あ、あいつまさか……』

 幸い、トトが突き破ったガラスの向こう側に人はいなかった。それでも、社内は騒然としていた。『私語厳禁』『仕事』『ノルマ絶対』と言った文言が壁に貼り付けられているのを、トトは見た。彼女の周りには、すでにいくつもの人影が集まっている。


「なにこれ?」「着ぐるみ?」「撮影なんかあったのか?」「ちょっとやめないか」


 トトは仰向けに転がりながら、辺りを観察しニヤリと頬を歪めた。そして、何事もなかったように立ち上がり、擬態を開始した。すなわち、人の姿へと戻った。そして、自らが割った窓の淵に立ち、階下にいた花鶏たちに向かって言った。

「油断していたつもりはなかったんですが……まさかアスラータちゃんまであなたたちと協力するなんて思っていませんでしたからねぇ。やられちゃいましたよぉ」

「トト……手前、いったいなにをしようとしているんだ!」

 花鶏は叫んだ。トトはくすくすと笑いながら、それをはぐらかした。


「私は別になんにもしてませんよー? そんなこと、アマゾアちゃんに聞いてください」

『アマゾア……彼女はいったい何をしている! なぜこんなことをするんだ!』

「それは私のセリフですねー? こんなシステムを作って……あなたはいったい、《デモニューロ》をどうしようとしているのでしょうかねぇ……?」

 冷たい目でトトはバックルを見た。それを受けて、福留も言葉に詰まった。

「ま、筋肉ダルマちゃんとの殴り合いなんて私のキャラじゃないのでー。そろそろお暇させていただきますねー? それではお兄さん、今度は戦い以外の場所で……」

 スカートの裾をつまみ、優美な仕草でトトは別れを告げ、素早く反転し走り去った。追いかけようとも思ったが、この格好でビルの中まで入って行ったら大きな騒ぎになるだろう。すでに野次馬がここに来ようとしている気配を感じていた。

花鶏は素早く路地裏に入り、変身を解除した。それと同時に、アスラータもこの世界に帰還した。


「トト……とんでもない相手だったな。助かったぜ、アスラータ」

「なぁに、俺も昔からあいつとはソリが合わなくてな。殴り合いの喧嘩が出来て、むしろよかったぜ。礼を言うのはこっちの方だよ」

 園児たちと保育士たちの避難を終えた弓狩を連れて、花鶏たちはその場から立ち去った。その道中、また聞かなければいけないことが増えるのかと、花鶏は思った。


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