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陛下と魔法使い

「お兄さん!妹さんを俺にください!」


 ここはお兄様――国王陛下の私室。

 私はシリルと共に、陛下の部屋を訪ねていた。

 結婚の承諾を貰うために。



 陛下はギロリとシリルを睨んだ。

 部屋に入って陛下と顔を合わせるなり、シリルはさっきの台詞を言ったのだ。

 陛下が不愉快そうに顔を歪めるのも無理はない。



「顔を合わせるなり、いきなりそれか、貴様は」

「いやだって、それを言いに来たんだし?いつ言っても同じだろ」

「この阿呆が!順番というものがあるのがわからないのか!」


 あれ?なんか、二人とも親しげ?


「あの……お兄様とシリルは仲良しなのですね?」

「仲良しではない!」

「そうそう、仲良し!」


 あれ?お兄様とシリルで言っていることが違うのだけど……。

 どっちが本当なんだろう?



「俺とエドは昔馴染みでさぁ、小さい頃からよく顔を合わせていたから、親友って言っても過言じゃないくらい仲良しなんだぜ?」

「過言だ!私はおまえの親友ではない!」

「またまたぁ。照れちゃって、エドって可愛いなぁ」

「照れてないわ!!」


 私は二人のやり取りに呆気にとられてしまう。

 シリルを前にすると、陛下は普段の落ち着き払った態度ではない、親しい者のみにしかみせないような、砕けた態度をとっている。

 ということは、やはり、シリルの言う通り、陛下とシリルは“仲良し”なんだろうか。


「……オホン。フェル、この男の言うことは8割方嘘だから信用しないように」

「ひっどー!酷くない?恩人の俺に対して、ひどくない?ねえ、酷いよね?フェルもそう思うだろ?」

「は、はあ……」


 シリルも、普段はハミルトン王子として行動しているのに、今は普段私にしているような態度だ。

 それだけ陛下と信頼関係を築いているのだろう。



「……まぁ、それはいいとして。なあ、エド。フェルを俺のお嫁さんにしたいんだけど、いいよな?来月あたりに式を……」

「ふざけるな!婚約までは泣く泣く認めたが、結婚は認めん!私がフェルと暮らしだしてまだ1年しか経ってないんだぞ!?それなのにもう離れ離れになれと言うのか!?」

「お、お兄様……」

「俺、婿にきてもいいけど?許可は貰ってあるし」

「……だめだ。まだ、フェルを嫁に出す覚悟はできてない……!」

「……このシスコン」

「うるさい!とにかくダメなものはだめだ!私は認めないからな!」


 子供のように言い捨てて、陛下は奥の部屋に引っこんでしまった。

 私とシリルは顔を見合わせる。


「うーん……やっぱダメだったか。認めされるのに骨が折れそうだなぁ」

「ごめんなさい、シリル……」

「フェルが謝ることじゃないさ。まあ、エドの説得は俺に任せて、フェルはどんなウェディングドレスがいいか考えておきなよ?フェルのウェディングドレス姿、楽しみだなぁ」

「もうシリルったら……気が早いわ」

「そんなことないだろ?」


 私たちは笑い合う。

 ああ、幸せだ。こうして、隣にシリルがいて、一緒に笑ってくれる。

 私はそれだけで幸せなのに。

 シリルはそれ以上の幸せを私にくれようとしてくれている。

 これ以上私を幸せにさせてどうしたいの?

 幸せすぎて、逆に怖い。

 もしまたシリルがいなくなったら。

 そう考えるだけで、目の前が真っ暗になる。


「……大丈夫だから。もう、どこにもいかない」

「シリル……」

「だから、そんな不安そうな顔をしないでくれ。俺はずっと、フェルの傍にいる」

「本当に?ずっと一緒にいてくれる?」

「ああ。今度こそ、本当だ。もう俺を縛るものはなにもない。あ、ひとつだけあったか……」

「え……」


 どくり、と心臓が嫌な音をたてる。

 しかし、シリルは悪戯な笑みを浮かべていた。


「俺を縛るものはひとつだけ。フェルだけだ」

「シリル……!」


 私は思わず、シリルに抱き付く。

 シリルは優しく私を抱きしめてくれた。


「もう、驚かさないでよ……」

「ごめん。でも、こうしてフェルから抱き付いてくれるなら、また驚かすかも?」

「もう、シリルったら……!」


 私が軽くシリルの胸を叩くと、シリルは軽やかな笑い声をこぼす。

 シリルはたまに意地悪だ。

 だけど、その意地悪すら、最終的には嬉しく思ってしまうのだから、相当重症だ。

 それくらい、私の中はシリルでいっぱいなのだ。


「……可愛いお姫様のために、頑張るとするか」


 シリルはポツリとそう呟くと、陛下が消えた部屋の扉を見つめた。




 それから、シリルによる怒涛の攻撃が開始された。

 陛下と顔を合わせるたびに「結婚式は……」とか、「式の日取りなのですが」とか、「フェルのウェディングドレスが……」など、結婚したいアピールをし続けている。

 最初こそ軽くあしらっていた陛下だが、回数を重ねるごとに顔が引きつり始める。

 そしてシリルのアピールが始まって1週間が経ったある日、陛下がキレた。


「ええい、煩い!結婚は認めんと言うのがわからないのか!」

「わかりませーん!」

「このっ……」


 ここは陛下の私室である。

 部屋には陛下とシリルと私の3人しかいないため、陛下もシリルも気取ることなく、素で話している。


「……シリル。フェルを見つけてくれたことは、感謝している。言葉で言い表せないくらいに、感謝している」

「なら、結婚を認めて……」

「だが、それとこれとは話が別だ。そもそもこの婚約は、おまえの我が儘で組まれたものだろう。本来ならばおまえはフェルの婚約者になることはできなかったはずだ」

「確かに、そうだけど」

「え……?どういうことですか、お兄様?」


 シリルは、本来なら私の婚約者になれなかったって、どういうこと?


「……こいつはな、昔、魔力を暴走させたことがあるんだ」

「魔力を暴走……?」

「それが原因で、シリルは厳しい処分を言い渡された。まぁ、それにはいろいろな思惑もあったのだろうが、その事が原因でシリルはグレた」

「グレ……た?」

「いやぁ、あの頃は俺も若かったわぁ」

「……若かった、で済ませるようなことばかりではなかったと聞いたが……」


 あはははは、とシリルは笑う。

 一体なにをしたんだろう……。少し、気になる。


「まあ、細かいことは気にするなよ。昔のことだし?

――とにかくグレた俺に親父がむちゃくちゃ怒ってさぁ、それで親父と喧嘩しちゃって、俺は家を飛び出したんだ」

「そ、それは……」


 いわゆる、親子喧嘩ってやつだろうか。

 しかも「こんな家出て行ってやる!」「出て行け!」とかそういう感じのノリの。


「親父のやつ、相当怒ってたみたいでさ。師匠のとこに弟子入りいている間に、王子としての資格を剥奪されてたんだよ」

「えっ……!?」

「親父の怒りを解くのに苦労したなぁ……いやあ、俺頑張った」

「よくいう……陛下の怒りを解くために私を利用しておきながら……」

「使えるもんはなんでも使わないと、な?」


 にやり、と笑うシリルに陛下が怒りの形相で睨む。その肩はぶるぶると震えていた。


「とにかく、おまえは私のお蔭で王子の資格を取り戻し、フェルの婚約者になれたのだから、結婚の日取りは私が決める」

「いやいやいや。そもそもフェルを見つけたのは俺だし」

「それとこれは別問題だ」

「同じ問題だろ」


 陛下とシリルの間に見えない火花が飛び交う。

 陛下はシリルから視線をそらすと、私に近づき、私の両手を包む。


「フェル。私はまだ兄らしいことを何一つしてやれていない。それに、一緒に暮らし始めてまだ1年しか経っていない。可愛い妹ともう少し一緒に暮らしたい……そんな兄の願いを叶えてくれないか?」

「お兄様……そんな。私、お兄様には十分すぎるほど、たくさんのことをして頂きましたわ。お兄様と一緒に暮らせて、私の他愛のない話を聞いて頂けて、とても幸せです」

「フェル……ありがとう。君は、私の自慢の妹だよ」

「お兄様……私も、お兄様は私の自慢です」

「もしもーし。兄妹仲が良いのはよろしいことですが、お二人さん、俺の存在を忘れてませんか?」

「あ……」


 私は慌てて陛下から離れる。

 陛下はチッと舌打ちをしてシリルを睨んだ。


「邪魔をするな、シリル」

「邪魔するに決まってるだろ?いくら兄妹とはいえ、距離が近すぎ」

「フッ……男の嫉妬は見苦しいぞ」

「うるさい」


 シリルは拗ねたように陛下から顔を背けると私を抱きしめ、私の耳元で囁く。


「フェル、俺以外の男に近づきすぎないで。嫉妬で狂いそうになる」

「シリル……」

「例え、君のお兄さんでも、だ。わかった?」

「で、でも……家族だし……」

「家族でも嫉妬する。ねぇ、俺のお願い、聞いてくれないの?」


 シリルの吐息が耳元にかかるたびに、ぞくぞくする。

 少し頭がぼうっとする。なんて、甘い。

 きっと私の顔は真っ赤になっているに違いない。



「……私の前でいちゃつくとは、いい度胸だ」


 陛下の地を這うような低い声に、ぼんやりとしていた私の意識が覚醒する。

 私はシリルの腕を抜け出し、シリルから距離を置く。

 そんな私をシリルが残念そうに見つめた。


「あーあ。いいとこだったのに……邪魔するなよ」

「さっきの仕返しだ」


 フン!と陛下は鼻を鳴らし、ビシリとシリルを指さし、宣言する。



「いいか、良く聞け、シリル。

―――1年間、フェルに手を出さずにいられたら、結婚を認めよう。だが、1年内にフェルに手を出したらその時は、この婚約、なかったことにする」

「なっ……!?ひ、卑怯な……!」

「なんとでも言うがいい。まあ、おまえの頑張り次第ではその1年が短くなることもあるかも、しれないがな?」


 逆に長くなる可能性もあるがな、と陛下は意地悪い笑顔を浮かべて言う。

 さすがのシリルも言葉が出ないようで、口をパクパクとさせている。

 そんなシリルを見て、陛下は溜飲が下がったようで、軽快な笑い声をあげる。


 私は少しの間だけ、シリルと陛下を交互に見つめ、そして笑いを零す。

 やっぱり二人は仲良しだ。私はそう、結論を出した。


 クスクスと笑う私につられたように、陛下とシリルを笑いだす。



 結婚はまだ先になりそうだけれど、

 大好きな二人と一緒に入れて、私は今日も幸せです。




魔法使いとシスコン陛下は仲良し!という話。

しかし、シスコン陛下のせいで二人はなかなか結婚できそうにありません(笑)

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